上 下
334 / 336
第5章

実はこっそり連れてきた

しおりを挟む
「貴様ぁ!!誰かこの者を処せ!!」



肥えた国王の命令で彼の背後に控えていた護衛共が僕に向けて剣先を向け迫って来る。

こんな多くの国の王が集まるそう広くはない部屋で簡単に兵に剣を抜かせるなんて頭がイカれているとしか思えないね。




「ぐぅあ!」

「なんっがぁ!!」


剣を僕に振り下ろそうとする兵が僕の所へ辿り着く前に兵達は黒い煙に纏わり着かれ情けなく床に転がった。



「ありがとう坊。助かったよ。」


「なっ!そ、それは!!キメラ魔獣!!」


「なにぃ!?」


「だ、誰かすぐにそれを排除せよ!」




兵を床に寝かせた煙の正体は僕のペットの坊。

出会った頃より大きくなって、小さかった背中の羽や鋭く大きい立派な牙は一目見て只のオスクロマオではないことが分かる。


最初小さい頃はノヴァにも坊がキメラ種であることは隠していたのだけど、成長と共に隠せなくなりバレた時にはすっごく呆れられた。



でも坊はよく懐いて僕の言う事をきくお利口さんだったから引き離されることはなかった。







一般的にキメラ魔獣は通常の魔獣よりも力が強いので恐れられている。

人がよく通る森等で発見された時には高順位の冒険者へ討伐依頼がだされるような種である為、周りの王族達は慌てて席を立ち僕から離れて行く。


国王様はじろりと僕を睨み、隣にいるクラージュ殿下は頭を抱えている。




「大丈夫ですよ。この子は僕やこの子に危害を加えない限り貴方方を害することはありません。先程は愚かにも自分の機嫌を損ねたからと僕を殺そうとした輩が居たのでこの子が守ってくれただけです」



ほら、可愛いでしょ?と坊をずいっと前に出せば坊もあざとく首を傾げ可愛い声で鳴いた。

しかしキメラ魔獣が余程怖いのかひぃっという悲鳴が上がるばかりで誰も坊を可愛いとは言わなかった。










「ふぉっほん…キメラ魔獣をペットにするという報告は受けておらんはずだが…取り合えず今は良い。躾られておるようだしな」


「なっ!我が兵を害しておきながら躾られていると申すのか!!」


「先に刃を向けたのは其方であろう?あー…もうよい!そちらが我が国を見下し愚弄するのであれば我が国は貴様の国との国交は絶つ!」



「横暴な!!戦争だ!戦争!」




バン!!





「仮にも一国の王が軽々しく戦争するなどと口にするな!戦うのは騎士!傷つくのは民!貴様が武器を手に取り戦地に行ってみろ!戦場を掛けたこともない阿呆が軽々しく戦を口にするでない!!」


机を叩いたのは、アマ国の王。


確か彼は戦争が自国で起きれば、自ら戦地に赴いていると聞いている。
だからこの場の誰よりも戦場の過酷さや悲惨さを身に染みて分かっているからこそ、軽々しく戦争だと声を上げる阿呆が許せないのだろう。




先程は高圧的な態度で鼻で笑われたが…国王としては尊敬に値するお方だ。




アマ国王の迫力に唖然とする他国の王達をジロリと見渡して、そして僕をジロリと睨む。




「そもそも我等がアーナンダ国を不安視したのはそっちにやたらとドラゴンに好かれる奴が居るからだ。その上キメラ魔獣まで手懐けているだぁ?きっちり証明してみろよ。そいつらを使って俺達を従属させようって意思がないってことをな」



「もちろんです。そのために僕は国王様にも黙ってこの子達を連れてきたのですから」




「まてルナイス。この子とは何だ?」





アマ国王へ胸を張って言う僕にクラージュ殿下が待ったをかける。





「よく知らないから怖いのでしょ?ならよく知ってもらえばいいのです。よく知ってもらうには実際に経験をしてみないとですよ?では、広場に移動をお願いします」


待て待て待てと声を上げるクラージュ殿下を放って僕はさっさと会議室を出て広場へ向かう。


只の専門家が国王達を動かすだなんて不敬極まりないことなのは承知してるけれど、移動してもらわないと証明できないのだから仕方ないよね。







しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?

麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。

可愛い悪役令息(攻)はアリですか?~恥を知った元我儘令息は、超恥ずかしがり屋さんの陰キャイケメンに生まれ変わりました~

狼蝶
BL
――『恥を知れ!』 婚約者にそう言い放たれた瞬間に、前世の自分が超恥ずかしがり屋だった記憶を思い出した公爵家次男、リツカ・クラネット8歳。 小姓にはいびり倒したことで怯えられているし、実の弟からは馬鹿にされ見下される日々。婚約者には嫌われていて、専属家庭教師にも未来を諦められている。 おまけに自身の腹を摘まむと大量のお肉・・・。 「よしっ、ダイエットしよう!」と決意しても、人前でダイエットをするのが恥ずかしい! そんな『恥』を知った元悪役令息っぽい少年リツカが、彼を嫌っていた者たちを悩殺させてゆく(予定)のお話。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。

悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです

魚谷
BL
ジェレミーは自分が転生者であることを思い出す。 ここは、BLマンガ『誓いは星の如くきらめく』の中。 そしてジェレミーは物語の主人公カップルに手を出そうとして破滅する、悪役王子の取り巻き。 このままいけば、王子ともども断罪の未来が待っている。 前世の知識を活かし、破滅確定の未来を回避するため、奮闘する。 ※微BL(手を握ったりするくらいで、キス描写はありません)

侯爵令息は婚約者の王太子を弟に奪われました。

克全
BL
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。 魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。

【BL】水属性しか持たない俺を手放した王国のその後。

梅花
BL
水属性しか持たない俺が砂漠の異世界にトリップしたら、王子に溺愛されたけれどそれは水属性だからですか?のスピンオフ。 読む際はそちらから先にどうぞ! 水の都でテトが居なくなった後の話。 使い勝手の良かった王子という認識しかなかった第4王子のザマァ。 本編が執筆中のため、進み具合を合わせてのゆっくり発行になります。

処理中です...