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第5章

自分の傲慢さに気が付くクラージュside

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やってしまった。



ドラゴンを軽視しているつもりはなかったし、ルナイスを怒らせる気もなかった。

しかしドラゴン達が我が国を守ってくれるようになって、私は愚かにも心の底でドラゴン達を国の所有物だと認識していたのだと今になって気が付いた。



窓から飛び降りたルナイスはホルス殿が背に乗せて飛んで行ったので、怪我はしていないと思うが…窓から飛び降りてしまうほどルナイスにこの場に居たくないと思わせたのだと気が落ちる。







ドラゴン達と共に国を出ると言っていたこともあって、慌てて国王へ自分が犯した過ちを報告すると国王は顔を顰めアーバスノイヤー公爵を城へ呼び出した。

私の失態を謝罪し、問題解決に向けて話し合うのだと思ったのだが国王はアーバスノイヤー公爵の子がドラゴンを連れて国を出るとアーナンダ国の安全を脅かす行いをしたことについてアーバスノイヤー公爵に直ちに息子を呼び戻せと、命令に背くようであれば貴殿を拘束するとまで言い出した。



もちろんすぐに国王へ抗議したが、国王は聞く耳を持たず、公爵はしばらくの沈黙の後にルナイス・ウォードを連れ戻すことは出来ないと静かに告げた。

そんな公爵を国王は客間の一つに軟禁するという暴挙に出た。





「クラージュ。今回の件は他国のこともある。王家とアーバスノイヤーの力の均衡が傾き始めている今、アーバスノイヤー家の者が国を脅かす行動に出たことは許されざることだ。子供の我儘では許されん」


国王へしつこく抗議する私に国王は大きく息を吐き出して、そう告げられた。


国王の立場として父上の言わんとする事は分かるが、父上は言葉が足りない上に行動を間違えている。

ルナイスへの言葉を選びを間違えた私が言うのも違うのかもしれないが…父上は気が付いておられないのだ。
王家とアーバスノイヤー家の力の均衡など、とうの昔に崩れている。


ただアーバスノイヤー家は王になる野望もなければ、王家に逆らう理由も利点もないから今まで通り仕えてくれていただけで、アーバスノイヤー家が本気をだせばこの国を潰すことくらい簡単なことなのだ。





あー


この感じ前にもあったなっと過去を思い出しながら、これ以上父上に何を言っても意味がないと判断し私は軟禁されている公爵の元へと向かった。



部屋の前では近衛騎士が二名立っていたが、私が現れてもピクリとも動かず、止められることなく私は公爵の元に辿り着くことができた。




「ご機嫌よう。クラージュ王太子殿下」


「っ…まず、貴殿の大切な子息に不快な思いをさせたことを詫びる。そして、私に弁明の余地を与えて欲しい」


「なるほど。しかしクラージュ王太子殿下。貴方はこの国の次期国王になろうと言うのに私に怯え許しを請うなど己が情けなくはないのですか?」



謝罪をし、言い訳の時間を願う私を公爵は鼻で笑う。

あまりの威圧感に今すぐこの部屋から出ていきたくなるほどだが、此処で逃げるわけにはいかない。

それこそ次期国王として。





「王族であろうと間違った時には清く謝罪をすることもできなければ国民達を守れない場面もあると思う。それに今回の件で国王は他国の反応を気にされているが…今一番警戒すべきは貴殿等騎士であると私は思っている」


「ほう。それは何故かお聞かせ願えますか」


「他国との戦闘が激化し、ドラゴンと共に戦地を駆ける騎士たちが此度の件を耳にして不信感を抱かないはずがない。いくら国王が命じようと騎士達が動かないのでは守れるものも守れなくなる」



「騎士が動かなくなっては困る。だから形だけの謝罪をして結局はドラゴン達を自分達の都合の良いように扱おうとしているのでしょう?羽を縛って各国に見せびらかせば他国は安心してこれからもアーナンダ国と友好的に過ごしてくれる…本当にそれでアーナンダ国を敵に回そうと企む国を抑制できるとお考えなのですか」




「形だけの謝罪ではない。しかし、ドラゴンと共に戦うアーナンダ国の騎士に不安を抱いている国は一つや二つではないのだ!その不安を取り除き不要な戦争の種を摘み取るにはドラゴンが人を脅かさない証明をしなくてはならない!」



「恐れながらクラージュ殿下。貴方は何故ルナイスが怒りドラゴン達を連れ国外へ出ようとしているか…理由をきちんと理解しておいでなのか」




段々と感情が制御できず、声の大きくなる私とは違い公爵はずっと淡々と私に問いかけてくる。

その冷静さと余裕な姿に力の差を感じ、私は更に公爵を相手に話をすることが怖いと感じる。


王家がアーバスノイヤーを傍に置きながらも警戒しているのは圧倒的な力の差もあるが、常に一挙手一投足を観察され自分の主に相応しいかを見定められているような気がしてとんでもない疲労を感じるからだ。







「っ…ふぅ…ルナイスはドラゴンの恩恵を受けていながらドラゴンを一時的にでも害そうとしたことに怒ったのだと理解している」


焦り、語気を荒げそうになる自分を息を吐き出して何とか落ち着かせ、公爵からの問いに答える。



「それもそうだが、ルナイスだけでなく我等は無意識にこの国がドラゴンの力を己の力と勘違いしていることに気が付いていない愚かさを嘆いているのです。ドラゴンを不安視する同盟国にまずは説明をきちんとし、そしてドラゴンのありのままの姿を見てもらおうと何故思わないのですか。それもせず、始めからドラゴンの力を自分達は自由自在に扱えるのだと他国へアピールしたところで、より不安を煽ると何故分からない」



「っ!」


公爵の言葉に言い返す言葉も何もなかった。


自分は分かっているつもりで分かっていなかったのだ。




ドラゴンの力を抑えることで、他国にドラゴンの安全性を訴え納得が得られると思い込み、ドラゴンの力を抑え込む我が国に他国が更に不安視するなどとは思いもしなかったのだ。






「ルナイスは確かにドラゴンに好かれやすい子ですが、ドラゴンはルナイスや我等の思いのままに動く人形ではありません。龍神の加護というのはそういうものではないのです」



「…」


ショックだった。


ドラゴンに好かれているのはルナイスだけで、そのルナイスが居るこの国はルナイスを通してドラゴンを思うように動かせると思っていた自分が居たことが酷くショックだった。

悪い王ではないが、少し傲慢なところのある父王とは違い、多種多様な国民の意見に耳を傾けより共存できる社会を築いていこうと思っていた自分の傲慢さに口から乾いた笑みが零れ落ちた。




「…国王へ他国の不安感を拭う別の策について提案してくる」




そう言って背を向ける私に公爵は何も言わなかった。






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