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第4章

タシターニさんは慣れてない

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ぶっぱな事件の翌々日



今日は僕達が中央へ帰還する日である。


「では、報告書の件は貴方達にお願いする。それからタシターニ、南の地の料理を知ってもらう貴重な機会だ。よろしく頼んだ」


「っはい」



銃についての報告書をラプラス様から預かり、僕達は肉屋のおじ様…タシターニさんを連れて馬車に乗り込む。

タシターニさんは僕達と同じ馬車に乗り込むことを最初ひぃひぃ言いながら拒絶していたけれど、そんなに馬車を何個も用意しては面倒だし、移動に時間が掛り危険度が増すのだと説明しなんとか大人しく馬車に乗り込んでもらった。



タシターニさんには絶対に南の地の料理を中央へ…まずはウォード家に広めてもらわなくてはいけないので絶対に守る所存である。






タシターニさんは屈強な体つきをしているが戦闘経験は店で売るための魔獣討伐くらいで、対人との戦闘経験はないとのこと。

昨日どれくらいの戦闘力があるのか念の為に僕の護衛と模擬戦をしてもらったのだけど、人に向かって剣を向けることに躊躇いがあるようで終始剣を握る手が震えていて全く戦いにならなかった。



試しに人とは見た目が少し違う獣人の護衛や鬼神であるガンナーとも手合わせをさせてみたが、タシターニさん惨敗。




まぁ、僕に付いている護衛が強すぎると思うので負けるわけはないのだけど…それにしても、であった。








なのでそんな彼を騎乗させて移動するのは逆に危ないってことで馬車に同乗してもらうことが決定したのである。








「ラプラス様。またノヴァのお父様が会いに来られたら「あなたの息子はルナイス・アーバスノイヤーが貰ったので」とお伝えください」



「分かった。必ず伝えよう」




南の地に居る間にもしかしたらノヴァの父であるマモンが現れるかなっと思っていたのだけど、結局彼は姿を見せなかった。

滅多に来ないとも最初に聞いていたので可能性は低いと思っていたけれど、会ったら言っておかねば!と思っていたことがあったので、ラプラス様に伝言をお願いすることにした。

ラプラス様は面白そうだと言って不敵に笑い伝言を預かってくれた。
絶対マモンをおちょくる気でいるのだ。



僕の言葉に隣のノヴァは体を少し揺らしたので、たぶん照れくさい気持ちを必死に抑えているのだろう。

僕の夫はクールに見えて可愛いところのある人なのだ。







ラプラス様に手を振り馬車が出発。

緊張してカチコチに固まっているタシターニさんに闇市で出会ったヨンギの話をしてみると、タシターニさんはヨンギの事を知っていた。


何でも仕入れたお肉の取引先らしく、お肉を受け取るのはあの店でヨンギの役目だったみたいで、世間話もする仲なのだとか。




ヨンギの可愛さについて話していると段々とタシターニさんの体から力が少しずつ抜けていき、中央まであと少し、っという所まで来るとタシターニさんは随分と気楽に話してくれるようになっていた。




コツコツ


「お帰りなさいませノヴァ・ウォード様、ルナイス・ウォード様。」


馬車の窓が叩かれ、数センチほど窓を開けると門番さんが胸に手を当てて恭しく帰還への挨拶をしてくれた。

僕達にとっては見慣れている光景で、当たり前のことなのだけれどタシターニさんにとっては慣れない光景に再び体を硬直させて大きな体を少しでも隠そうと身を隅に寄せているが、当たり前にその巨体は隠せていない。




「そちらの御仁が料理人講師のタシターニ殿ですね。失礼ですが、推薦書のご提示をお願いしてもよろしいでしょうか。」

門番は馬車の中をさっと見渡してタシターニさんを見つけるとニコっと笑みを浮かべた。

事前に料理人講師を連れ帰ることは伝令していたので、推薦書を見せるだけで門を通過できるのだけどタシターニさんはこういうのが初めてで、とても緊張しており…



「ぁ…は…っ!」


慌てて鞄から取り出そうとした推薦書を落としてしまい、拾おうと伸ばした手の風圧で推薦書がひらりと飛びタシターニさんの手をすり抜けて更に慌てるタシターニさんの動きで馬車がぐわんぐわん揺れる。




酔いそうな揺れに慌てて僕は手を伸ばし推薦書を人差し指と中指の間で挟み取り、ノヴァが魔法でタシターニさんの動きを止めたことで、何とか悲惨な場を作らずに済んだ。



これには門番さんも苦笑いで…何事もなかったですよーっと推薦書をすいっと差し出す僕にのっかってくれ、何も見てませんよーって感じで門番さんは推薦書を受け取ってくれた。






ノヴァによって静かにゆっくりと席に座り直されたタシターニさんをチラリと見れば、先程の自分の行動が余程恥ずかしかったようで、頬と言わず体全体が真っ赤に染め上げていた。

それを指摘するのも見るのも彼には酷だろうと、すぐに視線を逸らし見なかったことにして門番から返された推薦書を受け取り馬車を出発させた。



「タシターニさん、推薦書お返しします。この後は直接我が家に向かいますので推薦書は出すことはありませんが、明日の挨拶回りの際には必要になる場面があるかと思います。取り出しやすいよう折ってあっても構いませんので、服の内ポケットに入れておいてください」


「…はい」



ちょっと言い出しにくいなっと言葉を選びながらタシターニさんに推薦書を返す。

面倒だけれど、僕が先ほどのように代わりに出してもいいのだけど推薦書が出てくるのはタシターニさんからの方が余計な詮索がされなくて済むので気の毒だけど彼に持っていてもらわないと。



それに、ないとは思うが万が一僕達と離れて動くことになった際にその推薦書が彼の身分証明書となるので、タシターニさんには推薦書を取り出すのに慣れてもらうしかない。






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