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第4章

神獣

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これ以上の情報は得られないだとうという判断を下し、次はヒュー様達が魔獣と戦っていたヒル領の方へと移動する。

今回は緊急性を鑑みて転移魔法を申請等なしで使用することが許可されている。



転移陣を使わなくてもノヴァが転移魔法を使えるので、ノヴァには申し訳ないけれど頑張って調査隊の全員を移動させてもらっている。

消費が激しければ僕の無駄にある魔力を取ってもらったらいいしね。
小さい頃からノヴァの魔力は体に馴染みがあるし、結婚する前ににぃ様から魔力循環を二人でよくよく練習するよう言われていたのでお互いに魔力譲渡はちょちょいっとできちゃう。



ただノヴァの魔力に馴染みのない他の人達は転移する度に少し酔ってしまうらしく、何名かは既に顔が白い。







「っ…凄い臭いだね。」


「あぁ。浄化をしたはずだが…原因はあれだな。」



転移した途端鼻をついた死臭に鼻を摘まむ。

ノヴァが歩いていく先には魔法陣の上に槍で固定され力なく横たわる大きな動物。
まだ息があるようで呼吸に合わせてヒーヒーという音が聞こえてくる。


労わるように動物を撫でるノヴァに僕も近づいて、ふっと不思議な感覚に囚われた。




あ…この子、助けられる。






そう思った時には僕は両手を前に突きだし魔力を放出していた。



「ルナイスなにを!?」



僕の異変に気が付いたノヴァが僕の腕を掴もうとしたが、動物から溢れていた血液が動き出したことで目を見開き動きを止めた。



四方へ広がっていた血液は一か所に凝縮され、丸い球体となり動物の体を包み込み始めその中からはグチュグチュと臓器を揉むような音とバギバギという骨が鳴るような耳を塞いでしまいたくなる音がする。





「…できた。」



しばらくして感覚的にもう大丈夫と魔力の放出を止めると同時に血液でできた球体が弾けずるずると中から現れた巨体の中へと吸い込まれていく。

先程まで死へと向かっていた命が戻ってきた瞬間であった。














驚くことに助けた動物はただの動物ではなく神獣であった。


『龍神の子よ、吾輩の命を救ってくれたこと深く感謝する。』


念話という形で意思疎通がとれる神獣は疲れた様子ではあったが、体に支障はないようだ。



「神獣である貴方が何故あのようになっていたのか、お聞かせ願えますか?」


『うむ。吾輩はこの地のざわめきを感じ取り様子を見にやって来た。その時に禍々しい気配の者共が突如空間を捻じ曲げ現れたのだ。神獣と言っても吾輩は早く走ることと泳ぐことは出来ても戦うには弱いので碌な抵抗も出来ずあのような姿にされてしまったのだ。いやはや何とも情けのない話であるが…この地の乱れを正したのはそこの人と魔族の子だな。折角綺麗に浄化をしてくれたというのに、吾輩が情けのないばかりに…申し訳ない。』



ノヴァが回復魔法をかけながら問うと神獣は快く頷き、そして本当に悔しそうにノヴァへ謝った。

その瞳からは涙が溢れており神獣の心根の優しさが伺える。





『龍神の子が吾輩を救うため行使した魔法は死者蘇生の術。闇魔法に愛される子のほんの一部が行使することのできる特別な魔法であるが、死者蘇生で蘇った吾輩はもう神獣ではなく死霊獣となった。此処に居ては神の怒りを買ってしまうのでなるべく早くこの場を去らねばならん。一部の吾輩の記憶を人と魔族の子に託そう。あの凶悪な者共をどうか葬ってほしい。』


神獣から言われた言葉が直ぐには理解できなくて、固まっている間にノヴァは彼から記憶の一部を引き継いだらしい。

僕の使った魔法が死者蘇生であったことも直ぐには理解できないほどの衝撃だけど、目の前の神獣が今は死霊獣となってしまったことも衝撃だ。


あと、驚いている僕達を待たずにほいほい記憶を授けたり勝手な事をするのは止めてほしい。





『もうひと眠りしてから吾輩はここを去ろう。』

「ま、まって!眠るな!」


では、とでも言いそうな様子の彼に慌てて待ったをかけた。

思わず乱暴な言葉遣いになったことは目を瞑ってほしい。







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