266 / 317
第4章
神獣
しおりを挟むこれ以上の情報は得られないだとうという判断を下し、次はヒュー様達が魔獣と戦っていたヒル領の方へと移動する。
今回は緊急性を鑑みて転移魔法を申請等なしで使用することが許可されている。
転移陣を使わなくてもノヴァが転移魔法を使えるので、ノヴァには申し訳ないけれど頑張って調査隊の全員を移動させてもらっている。
消費が激しければ僕の無駄にある魔力を取ってもらったらいいしね。
小さい頃からノヴァの魔力は体に馴染みがあるし、結婚する前ににぃ様から魔力循環を二人でよくよく練習するよう言われていたのでお互いに魔力譲渡はちょちょいっとできちゃう。
ただノヴァの魔力に馴染みのない他の人達は転移する度に少し酔ってしまうらしく、何名かは既に顔が白い。
「っ…凄い臭いだね。」
「あぁ。浄化をしたはずだが…原因はあれだな。」
転移した途端鼻をついた死臭に鼻を摘まむ。
ノヴァが歩いていく先には魔法陣の上に槍で固定され力なく横たわる大きな動物。
まだ息があるようで呼吸に合わせてヒーヒーという音が聞こえてくる。
労わるように動物を撫でるノヴァに僕も近づいて、ふっと不思議な感覚に囚われた。
あ…この子、助けられる。
そう思った時には僕は両手を前に突きだし魔力を放出していた。
「ルナイスなにを!?」
僕の異変に気が付いたノヴァが僕の腕を掴もうとしたが、動物から溢れていた血液が動き出したことで目を見開き動きを止めた。
四方へ広がっていた血液は一か所に凝縮され、丸い球体となり動物の体を包み込み始めその中からはグチュグチュと臓器を揉むような音とバギバギという骨が鳴るような耳を塞いでしまいたくなる音がする。
「…できた。」
しばらくして感覚的にもう大丈夫と魔力の放出を止めると同時に血液でできた球体が弾けずるずると中から現れた巨体の中へと吸い込まれていく。
先程まで死へと向かっていた命が戻ってきた瞬間であった。
驚くことに助けた動物はただの動物ではなく神獣であった。
『龍神の子よ、吾輩の命を救ってくれたこと深く感謝する。』
念話という形で意思疎通がとれる神獣は疲れた様子ではあったが、体に支障はないようだ。
「神獣である貴方が何故あのようになっていたのか、お聞かせ願えますか?」
『うむ。吾輩はこの地のざわめきを感じ取り様子を見にやって来た。その時に禍々しい気配の者共が突如空間を捻じ曲げ現れたのだ。神獣と言っても吾輩は早く走ることと泳ぐことは出来ても戦うには弱いので碌な抵抗も出来ずあのような姿にされてしまったのだ。いやはや何とも情けのない話であるが…この地の乱れを正したのはそこの人と魔族の子だな。折角綺麗に浄化をしてくれたというのに、吾輩が情けのないばかりに…申し訳ない。』
ノヴァが回復魔法をかけながら問うと神獣は快く頷き、そして本当に悔しそうにノヴァへ謝った。
その瞳からは涙が溢れており神獣の心根の優しさが伺える。
『龍神の子が吾輩を救うため行使した魔法は死者蘇生の術。闇魔法に愛される子のほんの一部が行使することのできる特別な魔法であるが、死者蘇生で蘇った吾輩はもう神獣ではなく死霊獣となった。此処に居ては神の怒りを買ってしまうのでなるべく早くこの場を去らねばならん。一部の吾輩の記憶を人と魔族の子に託そう。あの凶悪な者共をどうか葬ってほしい。』
神獣から言われた言葉が直ぐには理解できなくて、固まっている間にノヴァは彼から記憶の一部を引き継いだらしい。
僕の使った魔法が死者蘇生であったことも直ぐには理解できないほどの衝撃だけど、目の前の神獣が今は死霊獣となってしまったことも衝撃だ。
あと、驚いている僕達を待たずにほいほい記憶を授けたり勝手な事をするのは止めてほしい。
『もうひと眠りしてから吾輩はここを去ろう。』
「ま、まって!眠るな!」
では、とでも言いそうな様子の彼に慌てて待ったをかけた。
思わず乱暴な言葉遣いになったことは目を瞑ってほしい。
339
お気に入りに追加
3,064
あなたにおすすめの小説
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます
オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。
魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。
気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた。
しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエルがなんだかんだあって、兄達や学園の友達etc…に溺愛される???
家庭環境複雑でハチャメチャな毎日に奮闘するノエル・クーレルの物語です。
若干のR表現の際には※をつけさせて頂きます。
現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、改稿が終わり次第、完結までの展開を書き始める可能性があります。長い目で見ていただけると幸いです。
2024/11/12
(第1章の改稿が完了しました。2024/11/17)
転生先がハードモードで笑ってます。
夏里黒絵
BL
周りに劣等感を抱く春乃は事故に会いテンプレな転生を果たす。
目を開けると転生と言えばいかにも!な、剣と魔法の世界に飛ばされていた。とりあえず容姿を確認しようと鏡を見て絶句、丸々と肉ずいたその幼体。白豚と言われても否定できないほど醜い姿だった。それに横腹を始めとした全身が痛い、痣だらけなのだ。その痣を見て幼体の7年間の記憶が蘇ってきた。どうやら公爵家の横暴訳アリ白豚令息に転生したようだ。
人間として底辺なリンシャに強い精神的ショックを受け、春乃改めリンシャ アルマディカは引きこもりになってしまう。
しかしとあるきっかけで前世の思い出せていなかった記憶を思い出し、ここはBLゲームの世界で自分は主人公を虐める言わば悪役令息だと思い出し、ストーリーを終わらせれば望み薄だが元の世界に戻れる可能性を感じ動き出す。しかし動くのが遅かったようで…
色々と無自覚な主人公が、最悪な悪役令息として(いるつもりで)ストーリーのエンディングを目指すも、気づくのが遅く、手遅れだったので思うようにストーリーが進まないお話。
R15は保険です。不定期更新。小説なんて書くの初めてな作者の行き当たりばったりなご都合主義ストーリーになりそうです。
【本編完結】まさか、クズ恋人に捨てられた不憫主人公(後からヒーローに溺愛される)の小説に出てくる当て馬悪役王妃になってました。
花かつお
BL
気づけば男しかいない国の高位貴族に転生した僕は、成長すると、その国の王妃となり、この世界では人間の体に魔力が存在しており、その魔力により男でも子供が授かるのだが、僕と夫となる王とは物凄く魔力相性が良くなく中々、子供が出来ない。それでも諦めず努力したら、ついに妊娠したその時に何と!?まさか前世で読んだBl小説『シークレット・ガーデン~カッコウの庭~』の恋人に捨てられた儚げ不憫受け主人公を助けるヒーローが自分の夫であると気づいた。そして主人公の元クズ恋人の前で主人公が自分の子供を身ごもったと宣言してる所に遭遇。あの小説の通りなら、自分は当て馬悪役王妃として断罪されてしまう話だったと思い出した僕は、小説の話から逃げる為に地方貴族に下賜される事を望み王宮から脱出をするのだった。
孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話
かし子
BL
養子として迎えられた家に弟が生まれた事により孤独になった僕。18歳を迎える誕生日の夜、絶望のまま外へ飛び出し、トラックに轢かれて死んだ...はずが、目が覚めると赤ん坊になっていた?
転生先には優しい母と優しい父。そして...
おや?何やらこちらを見つめる赤目の少年が、
え!?兄様!?あれ僕の兄様ですか!?
優しい!綺麗!仲良くなりたいです!!!!
▼▼▼▼
『アステル、おはよう。今日も可愛いな。』
ん?
仲良くなるはずが、それ以上な気が...。
...まあ兄様が嬉しそうだからいいか!
またBLとは名ばかりのほのぼの兄弟イチャラブ物語です。
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです
魚谷
BL
ジェレミーは自分が転生者であることを思い出す。
ここは、BLマンガ『誓いは星の如くきらめく』の中。
そしてジェレミーは物語の主人公カップルに手を出そうとして破滅する、悪役王子の取り巻き。
このままいけば、王子ともども断罪の未来が待っている。
前世の知識を活かし、破滅確定の未来を回避するため、奮闘する。
※微BL(手を握ったりするくらいで、キス描写はありません)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる