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第4章

堕天しても元天使はすごい

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僕だけ頑張って走って辿り着いた名のない森の前。



改めて近くで見る結界は凄い力を感じるし綺麗だって思う。

どうして先ほどまでこれが見えなかったのか、この独特な力を感じ取れなかったのかが不思議なくらいの迫力がある。





結界に触れようと手を伸ばしたところでバシっと腕を掴まれた。


「ルナイス。せめて何をしようとしているのか教えてくれ。」


僕の腕を掴んだのはノヴァで、そう言えば結局全力で走って話してなかったことを思い出す。

でもこれから僕がする行動を僕もよく理解できていないから、どう説明をしたらいいのかが分からない。






「支離滅裂でもいい。」


口を開いては閉じてを繰り返す僕にノヴァは少ししゃがんで目線を合わせて僕を落ち着かせるように頬を撫でながら声をかけてくれる。

そんなノヴァの温かくて優しい手に身を委ねてしばらく…




「僕の力を必要としてるって思ったから…魔力を流そうと思って。」


落ち着いた思考回路で言葉を探して告げるとノヴァは分かったと頷いた。

こんな説明でよかっただろうか?と不安になってノヴァの顔を見上げると思ったよりもすごく近い距離に顔があって、こんな時なのに顔が熱くなる。









「指輪は絶対に外さないこと。ホルス様が戻って来られたら一旦結界から離れること…約束できるか?」


「うん。」


小さい子に言い聞かせるみたいな言葉だけど、すごく心配してくれていることが伝わってきてくすぐったい気持ちになるのと同時にとても心地良い気持ちになる。

名残惜しそうにゆっくりと手を離したノヴァに大丈夫だと頷いてみせてから再び結界へと手を伸ばす。





見える前は何の違和感もなくスルっと通りぬけていたのに、見えるようになったらきちんと結界に触れる感触がするのを不思議に思いながら徐々に結界へと魔力を流していく。

ずっと待ちわびていたのか、結界はスルスルと物凄い速さで僕から魔力を吸い取っていくのでガクッと膝から崩れて地面に膝をついてしまう。


ノヴァ達が慌てた様子で近づいてくるけれど邪魔をするなとでもいうように僕の周りに透明な結界が出来る。




僕も結界から手を離そうとするけれど結界と手が一体化してしまったように離れなくて、その内思考できなくなってきた。


ぼんやりとする頭と視界にやばいなっと思いながらも、どこかで大丈夫だと思っている自分もいた。












どれくらいの時間が経過したのか…



パリン!とガラスが割れるような音がして、飛んでいた意識が戻った時には温かい光に包まれていた。





「大分吸われましたね。しかしおかげで結界はほぼ修復されたようです。よく頑張りました。」


ぼんやりとする視界では声の主が誰なのかは分からないけれど、聞いたことがある声だった。


僕を包んでくれている人からゆっくりと魔力とは違うけれど心地良い力が流れてくるのを感じて、そしてクリアになっていく視界で僕を包んでくれている人物が誰であるかが分かった。






「マルコ…シアス、さん。」


「こんなに吸い取って…これだから神になど仕えたくないのです。」



カスカスの声で僕を包み込んでくれている人物の名前を口にすると微笑みながら優しく額を撫でてくれるけれど、言葉からは怒りが感じ取れる。

僕を包み込んでくれているのはマルコシアスさんの意外と逞しい腕だけではなくて、彼の背中から生えている綺麗な白い翼でも包まれていることに気が付き、その美しさにほぅっと息が零れる。



流石元天使。







どうやらマルコシアスさんは僕に自信の力を分け与えてくれていたようで、それと同時に治癒もしてくれたみたい。

堕天しても天使の頃に身に着けた力はある程度使えるのだとか。



大分回復したところで僕はマルコシアスさんの腕からホルス様の腕に渡る。





理想のむちっとした筋肉に包まれて思わずへら~っと笑って、それを見たテトラ君が「気持ち悪いな」と容赦なく言ったのであった。









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