王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。

薄明 喰

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第4章

sideルナイス【人気投票2位 番外編】

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人気キャラ投票 第2位

ルナイス・アーバスノイヤー



_________________________




僕は糸と針を持ち、布に血桜とドラゴンの印を刺繍している。




しかし、これがなかなか上手くいかない。






ばぁやが居た頃は、全てばぁやが印を縫ってくれてた。

ばぁやが辞めてからは、使用人達に印をつけなくていいと言っていたから何かに僕のって印をつけるのは本当に久しぶりだ。



どうして突然印を刺繍しだしたのかと言うと、4日前にばぁやと会って、その時にそう言えば昔僕の物には僕のって分かるように刺繍したり書いたりしていたねっと話題に上がり、久々に印をつけてみようかなっと思い立ったのが理由だ。









僕のすぐ傍には何枚もの布の残骸がある。

全て途中で糸が絡まって動かなくなってしまったり、針が指に刺さって出た血で汚れてしまったりしてダメになったものたちの山。


「ルナイス様。そろそろ休憩をしましょう。」


積まれた布の山を睨みつけているとヨハネスが声をかけてきて、手に持っていた刺繍道具を強制的に取り上げられてしまった。







すぐ傍の机の上にメルナがティーセットを用意していくなか、ヨハネスは僕の手に止血布を巻いていく。


「もう血は止まってるよ。」


「しかしきちんと消毒しておかねば、細菌が入り最悪指が腫れあがりますよ。」


これではこの後に刺繍が出来ないっと文句を言う僕の言葉をヨハネスは華麗に流していく。



「貴方は聖魔法との相性が悪いのですから、あまり怪我をなされない方が良い。」




ぶーぶーと口を尖らせる僕に、ヨハネスは困ったように笑い小さい子供に言い聞かせるように言うのでさすがに僕も心配してくれている彼にこれ以上文句を言うのは憚られた。














「ヨハネス様はルナイス様に対してノヴァ様の次くらいに過保護ですよね。」

紅茶を飲んで一息つくと、傍に立っていたメルナがそう言った。



メルナの言葉に同じく傍に居たヨハネスが嫌そうに顔を顰めるのが視界の端に映った。





ヨハネスが特別過保護だなんて思ったことなかったけど、確かに言われてみればそうかもしれない。

でも小さい頃からそうだったし、とーさまやにぃ様がずば抜けて過保護だったので気にしたことなかった。



危険なものからは自然に華麗に遠ざけてくれているし、あの学園の悪鬼事件から警護により力が入ったと思う。







「まぁ、過保護っていうか…護衛として凄く優秀だよね。ヨハネスが居てくれるから気が抜けるし。」


「っ勿体ないお言葉を頂き恐悦至極に存じます。」



相変わらず重ったい言葉遣いだけど、別にヨハネスはわざとこの堅苦しい喋り方なんじゃなくて、素でこれなんだよなぁ。


コルダはわりと自由なんだけど、ヨハネスが自由にしてるのってあんまり見たことない。









「あ、そうだ。ヨハネス今を持って仕事は終わりね。私服に着替えてまた僕の所に来て。」


「…はい?」



「メルナ、出かける準備よろしくー。」


「かしこまりました。」






思いついたことを早速実行するためてきぱきと動く。

固まっているヨハネスはコルダに連行させ強制退勤。
















そして一時間ほど後、



目の前には納得いってないお顔をした私服姿のヨハネスが僕の前に座ってる。




僕が思いついたのはプライベートなヨハネスとのお出かけ。

大丈夫。一応これも業務としてお給料は出してもらうから。





「今からヨハネスは僕の友人ね。」


「…」

 
ニコニコの僕と不満顔のヨハネスを乗せて辿り着いたのは街のお肉料理が美味しいで有名らしいお店。

 ここのお肉が美味かったとレオがにぃ様と話しているのを盗み聞いてからずっと気になっていたんだ。



だけど、僕はあまり領地どころかお家から出ないことで有名な公爵家の次男なのでなかなか機会がなかったのだ。






「ルナイス様。此処は騎士や冒険者などが利用する所で、ルナイス様が来るような所ではありません。」


何か言われるだろうな、とは思っていたけど思ったより気に食わない言葉だ。

僕がここに居ることがすごく場違いで浮いてて可笑しいだなんて!



「ルナイス様が居られることで寛いでいた者共が硬直しております。」


言われて、頬を膨らましながら周りを見渡せばヨハネスの言う通り、まるで時間が止まったかのように固まって動かない人達が居た。





皆どうしたらいいのか分からず困惑しているのだと伝わってきて一気に申し訳なさが募る。



「でも…レオとにぃ様は来たって。」



それでも諦めきれない僕は小さな声で抗議する。




「恐らく変装して来たのでしょう。」



ヨハネスに言われて今の自分の服装を見てみる。


明らかに良い服。

そして全く隠してない顔。




あまり家からでなくとも、領民達はさすがに領主の息子の顔は覚えている。





「…帰る。」

これ以上ヨハネスにも領民にも迷惑はかけられないかっと、意気消沈で帰り支度をする。



騒がせるだけ騒がして何も食べずに帰るのも微妙なので、僕の首からぶらさげていた袋から迷惑料ですっとお店の人に渡すと「とんでもありません!」と受け取りを拒否された。







「…持ち帰り用におすすめの品をいくつか包んでもらえるだろうか。」


「っ!もちろんです!少々おまちくださいませ!!」



迷惑かけて帰る公爵家の次男って最低だっと項垂れていると、ヨハネスが何かを店員さんに告げて、店員さんは慌てた様子で走って行った。

騒がせたことの処理をヨハネスがしてくれているのだと思い、僕は更に落ち込んでお店の外に出てすみっこにしゃがみ込む。




隅っこに座り込んですぐに慌てた様子のヨハネスが勢いよくお店から出てきてそのまま走って行きそうだったので慌ててヨハネスを呼ぶとほっとした様子で息を長く吐き出した。



「店を出るのなら一言お願いします。」


ヨハネスに言われて更に反省した僕はもう地面に伏した。






「ルナイス様!!」

慌ててヨハネスが僕の頭を持ち上げようとするけど、僕は頭を更に膝にくっつけて丸まる。


意気揚々とヨハネスを連れ出しておいて、周りに迷惑かけるだけかけて帰ることの不甲斐なさと羞恥心とでもう僕は地面になりたい。






バン!!

「お!おまたせしましたあぁあああ!?」




再び勢いよく開いた扉から出てきた店員さんらしき人が僕達の様子を見て混乱の声を上げた。







結局僕はその後立ち直ることができなくて、ヨハネスに抱き上げられ帰宅した。


丁度帰ってきたばかりのにぃ様とレオに玄関で遭遇し、ばっちりヨハネスに抱えられている姿を見られ更に落ち込む。




「あぁ…ルナイスそんなに落ち込まなくていい。部下を労おうとしたのだろう?立派だ。」


粗方の事情をどっかの誰かさん(姿は見えなかったし声もしなかったけど恐らくコルダ)から聞いたにぃ様がそう言ってくれてほんの少しだけ気分が上がる。

しかし今までに受けたダメージが大きすぎてにぃ様の励ましの言葉でも立ち直れない。





「ルナイス様。あの店の料理を包んでもらいました。よければご一緒にいかがでしょうか。」


項垂れる僕を丁寧に地におろしたヨハネスが僕の前に跪いて胸に手をあて片手は僕に差し伸べて言う。

その姿はまるで絵本の中の王子様のようで、思わずトキめいてしまう。



ヨハネスの手を取った僕にヨハネスは爽やかに笑い、機嫌の直った僕にほっとしたにぃ様が頭を撫でてくれる。










ヨハネスの誘いを受けて食べた肉料理はとっても美味しくて、ヨハネスも美味しいと笑ってくれた。


後日ノヴァに一番綺麗に刺繍できたハンカチを渡し、一連の騒動とヨハネスが恰好良かったと力説する僕にノヴァは何故か微妙な顔をしていたけれど、気にせず最高の騎士であるヨハネスの魅力について話す僕なのであった。





_________


人気投票のお話なのでノヴァとのらぶいお話をと思ったのですが…

ずっとルナイスの傍で従者として働いているヨハネスとの関係に触れたくなってしまい
ヨハネスとのある日の出来事になりましたw

印についても、久々にお話に出したくて最初の方にこっそりとぶち込みました。


楽しんでいただけると幸いです。


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【お知らせ】登場人物を更新しました。世界観など設定を公開しました。(R6.1.30)
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