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第3章
先輩A 捕獲
しおりを挟む競技会が無事終わり、テトラ君とオスカル君に別れを告げ僕を待ってくれているとーさま達のいる馬車止めまで急ぐ。
「おい。」
向かう先に見覚えのある顔を見つけ、声もかけられたけど無視。
だって僕おいって名前じゃないし。
「おい!聞こえてんだろうが!!」
「触るな!」
無視した僕の手を掴んでこようとした相手の手を風魔法で弾く。
親しくもない、僕を睨みつけるような奴に触れられたく何てない。
「お前…あの模擬戦、全力じゃなかっただろう!俺と本気で戦え!」
「はぁ?なんで?僕に何の旨味があるんですか?」
声をかけてきたのは競技会で最後に戦って僕達に惨敗した先輩A。
競技会が終わってからもこうして絡んでくるなんて…つくづく実力はあるのに残念な人である。
僕は今世、沢山の人から甘やかされている自覚があるけれど、だからといって誰かに守ってもらわないと駄目な人間ではないつもりだ。
やられたら、やられる前にやり返すのが僕です。
今世とは違って頼れる人がいなかった前世の僕はそうやって自分の身を守ってきた。
その記憶があるので未だにその思想は僕の中にある。
まぁ…そんなことはどうでもよくて…
「いいから黙って剣をとれ!!」
「帯剣してないし。」
あなたはどうやってか剣を持っているようですが、それ校則違反です。
再び先輩に背を向けて歩き出そうとしたところで、背後からこちらへ向かってくる気配に思わず大きなため息がこぼれる。
ドプン
「ほーんと…面倒くさい。」
先輩Aを僕の影の中へドボンさせて、とりあえずこのままとーさま達の所へ向かう。
社交に疎い僕では先輩Aがどういった立場の人か分からないし、これ以上とーさま達を待たせるわけにもいかない。
影に落ちたのは一瞬だから闇魔法ってことには気づかれていないと思うけど…。
もし気づかれていたらノヴァにお願いして記憶を消してもらおう。
僕も忘却魔法は習っているんだけど、どうにも上手くいかなくてほぼ全ての記憶を消去してしまうから人には使えないんだよね。
「ルナイス、何があった。」
「にぃ様。ちょっと一匹捕獲したのですが、対処に困ってます。」
「…ワイアット。」
「っは!」
やっぱり予定よりも遅かった僕を心配してにぃ様が走りだそうとしていたようで、僕を見つけたにぃ様が何かあったこと確定で聞いてきたので、僕も正直にお答えする。
しかし、僕の返答を聞いて素早く反応したのはとーさま。
少しして急遽僕達は馬車止めの近くの応接室へとやってきた。
「ルナイス。捕獲した者は影の中か。」
「はい。出すと暴れだすかもしれませんが…」
「出しなさい。」
まるで赤子にぺっしなさい!というような感じで言ってきたとーさまに、ちょっと不安を抱えながらも影の中からどっこらしょっと先輩Aを取り出す。
「っ!なっ、なんだ!!?」
急な暗闇から急な明るい所へ入れられ出され、そして自分を囲む多めの人々に先輩Aはさすがに怯えた様子で縮こまる。
「君は…確か平民でありながら豊富な魔力量と剣技が認められ入学したユーリス君で間違いないか。」
「え…あ…はい。」
先輩Aを見て少し考えたにぃ様が確認すると、僕と対等している時とは違って大人しく返事をする。
「で?」
「え?」
そんな先輩A改めユーリス先輩にかけられた強めの「で?」
にぃ様は何故僕にドボンされるようなことになったのかと問うているのだけど、言葉足らずすぎて何にも伝わっていない。
「先輩が僕を待ち伏せして、本気でもう一度勝負をするように言ってきました。でも、僕剣を握れと言われても先輩と違って帯剣してないですし、何の利益もないのでお断りをしたのですが、背を向けた僕に先輩が切りかかって来たもので、渋々、渋々捕獲させてもらいました。」
仕方なく僕がきちんと説明をするとどんどんにぃ様のお顔が怖くなっていく。
にぃ様だけじゃない。
黙って見ていたヒュー様も、エイド様も、いつの間にやら従者の姿へ変装している殿下も怖い顔をしてユーリス先輩を見ている。
とーさま達、大人組も険しいお顔だ。
何故なら、彼が校則で許されていない帯剣をしていて、その剣で無防備な相手に切りかかったからだ。
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【お知らせ】登場人物を更新しました。世界観など設定を公開しました。(R6.1.30)
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