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第3章
呆気ない勝利
しおりを挟む2人を見送ったところで迫ってきた気配に水魔法で壁を作る。
ジュっと音を立てて消えた炎魔法に視界を奪ってもやっぱりあんまり意味ないなっと、炎をぶっ飛ばしてきた主に視線を向ける。
視線が合わないことから彼の視界は未だ真っ暗なままであることが分かる。
それでも適格に僕の方へ炎をぶん投げてきたのだからやっぱり実力のある人なのだ。
再びこちらへ炎を放とうとしている気配に、先ほど下学年の子にしたみたいに今度は自分へ気配遮断魔法を展開しススススーと先輩と剣を交えているテトラ君へ近づく。
突然気配が消えた僕に向こうの先輩はすごく苛立っている様子だけど、今は無視。
「テトラ君。」
「っ!ふっ!」
こそっと耳元で声をかけるとよっぽど驚いたのかテトラ君の体がぎゅっと力み、先輩の剣を強く押し返し素早く距離を取った。
「ルナイス!危ないだろう!」
「ごめんなさーい。」
凄い形相で怒るテトラ君に気配遮断魔法を解いて謝る。
用事があったのと、ちょっとした悪戯心からの行動だったのだけど…確かに剣を交えて戦っているところへあれはまずかったなと反省。
反省ついでにテトラ君と対等していた先輩にも暗視魔法をかけておく。
「下学年の子は司会者の所へ避難させておいたよ。それでね、僕あんまりこの模擬戦長引かせたくない。面倒臭い。早く終わりたい。あの先輩の相手嫌。」
突如見えなくなった視界に困惑している先輩達を尻目にこそっとテトラ君に言いたいことを全部言う。
僕の言葉にテトラ君は呆れた顔で大きく息を吐き出し、仕方ないと言ってくれた。
テトラ君の風魔法で巻き上げられた先輩達が一か所に集まったところで、僕が重力魔法を使い先輩2人は呆気なく地面に伏す。
重力魔法はずっとオリヴァーから教わっているのだけど、なかなか調節の難しい魔法で未だに集中力がいる。
だから戦いながら使うと相手を圧死させてしまうので、模擬戦など相手を殺してはいけない場合にはなかなか使えない魔法。
でもテトラ君が一か所に集めてくれて、強力な風に手足をとられている相手であれば死なせない程度に調節しながら集中して魔法を使うことができるので、この模擬戦を早く終わらせるには彼の協力が必要不可欠だったのだ。
重力に押しつぶされながらも先輩達はなかなか降参してくれなくて、結局しばらくしてから下学年の棄権宣言と司会者からの制止で模擬戦は終了した。
「アーバスノイヤー先輩!先ほどは僕達を逃がしてくださってありがとうございました!」
やーっと終わったぁっと退場したところで下学年の2人から声をかけられ足を止める。
「どーいたしまして。僕達が下学年の時は競技会への参加はなかったけど…あれは君達には怖すぎるよねぇ。」
「はい…僕達怖くて一歩も動けなかったです。」
「ん?君は結界張ってしっかり相棒を守ってたでしょ?それができただけでも十分凄いから顔上げて堂々としているといいよ。」
落ち込む2人にそう声をかけじゃあねっと返事を待たずその場から離れる。
背後から「ありがとうございます!」何て元気のいい声が聞こえてきたけれど、聞こえてませんってことで。
「何を照れてるんだ?」
「うるさいよ。」
気持ち早足の僕の横を平然と歩くテトラ君が僕の顔を覗き込み不思議そうに聞いてきたけど、うるさいよほんと。
感謝の気持ちを伝えられるのは慣れてないというか…どう対処すればいいか分かんないんだもん。
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