王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。

薄明 喰

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第2章

従者とは

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チルの大きな声は大きなバンケットルームに響いていて、とーさまとヒル侯爵夫妻がこちらへ来られて、未だ修行する!と言うチルをヒル侯爵夫人が抱き上げて宥める。


「立派な心を持っていて母は誇らしいです。ですがチル。強くなるにも順序があります。貴方はまず基礎体力をつけていかねばなりません。明日からチル専用メニューで修行ができるよう手配しますから、頑張りましょうね。」


「はい!チルがんばる!」



夫人は手を挙げて宣言するチルを微笑ましそうに見ていて、ちゅっとまろい頬にキスを落とす。

母からのキスにチルはきゃーっと喜んでいて、ふっと母上を思う。


少し前だったら目の前の光景を見て、堕ちていただろう心が今は自分でも驚くくらい凪いている。



前世の母はああいう風な愛情表現をする人でなかったし、母上は僕を産んで直ぐに亡くなってしまったので前世込みの記憶の中であんな風に母という存在からキスを送られたことはない。

しかし、母上が生きておられたらきっと…夫人のように抱きしめてキスを送ってくれていただろうなっと思う。







ぼぅっと夫人とチルを見る僕に心配したお顔のとーさまがそっと近づいてきてこっそり背中を撫でてくれる。



そんなとーさまに大丈夫だと、見上げて笑いかければとーさまも微笑んでくれる。

母上に会ってお話して触れ合って…そんな日々に憧れはする。


だけど、それはどう頑張ったって叶わない夢、だから…




それに、今の僕にはちょっと困ってしまうくらい過保護なとーさまとにぃ様が居て、いつも助けてくれる頼りになるノヴァがいる。

可愛い可愛いと褒めてくれ、時に厳しく叱ってくれるばぁやがいて、僕をいつも傍で見守ってくれる騎士ナイト達がいる。



いいなって思う気持ちはどうしてもあるけれど、大切に思ってくれ人が居ることを今の僕はちゃんと分かっているから昔みたいに気持ちが堕ちちゃうことはない。








チルが落ち着いてしばらく。

それぞれに談笑をし、各々が仕事などに戻らないといけないという時間に解散した。


チルはもう少し此処に居たいと言っていたけど、ヒル侯爵様に担がれて強制退場となった。






ヒル侯爵ご一家を見送って、そしてまたしばらく経ってとーさまとにぃ様を見送って、談話室にノヴァとヨハネスとガンナーを集めた。


鬼族の長として生きてきたガンナーは人族のことをあまりよく知らないようなので、護衛として学ぶよりも先に人間について知ってもらおうと思った。






談話室のソファに僕とノヴァが座り、対面のソファにヨハネスとガンナーを座らせた。



「これから人間についてお話をします。ガンナーは質問があればその時に遠慮なく聞いて。」


「はい。」


「…ルナイス様。私は立っていてもいいのでは?」


「ヨハネス、おすわり。先輩なんだからヨハネスもちゃんと聞いておいて。ノヴァは僕の言葉に分かりづらいところがあったりしたら補足をよろしくね。」




隙あらば立とうとするヨハネスを座らせて、返事をする隙を与えないようにノヴァに話しかける。

ヨハネス一人だけ立ってる空間なんて、気が散っちゃう。

それに後輩が座ってて、先輩が立ってるのもアレでしょ?



ヨハネスがそんなこと気にする人じゃないことは分かっているし、僕もノヴァもそういうのどうでもいいタイプだけど、これからたぶん社交の場に出ることが増える僕を護衛するのだから、先輩、後輩の最低限のマナーは知っておいてもらわないと。





無駄な争いごとや嫌味を言われる機会は少ないほうがいいもんね。








「まずはぁ…ガンナーは人間を見て不思議だなって思うことはある?」


人間についてお話すると言っても、僕も人間でありながら人間のことなんてよく分かっていないので、ガンナーが僕達を見ていて疑問に思うことからお話していこうと問いかけてみる。



「では…ヨハネス殿は座ることを主から勧められているのに、何故座るのを嫌がっているのですか?」


「…私達は従事者です。主と対等に、主の目の前に、座って話をするのは本来あってはならないことです。なぜなら、こういった些細なことで主の悪い噂を流す者がいるからです。従者に馬鹿にされている。従者を甘やかすほど甘い人間だから簡単に騙されるだろうなどと言い出す愚者が残念ながら存在するので、主が馬鹿にされないためにも私たちはそういった愚者達にも主に忠義を示さないといけないのです。」


ガンナーのひとつめの質問にはヨハネスに答えてもらった。




「別に主が馬鹿にされても、あらぬ噂を流されてもいい人物だって思うならそうしてもいいよ?」


「「ルナイス(様)!!」」



ヨハネスの言葉に補足するとヨハネスとノヴァからお叱りの声が飛んできた。


言葉にしなくても『なんてことを言っているんだ』って気持ちがすごく伝わってくるけど、主に忠義を示すかどうかは従者の自由だと僕は思うんだ。

特にガンナーは、僕が望んで従者になってもらったのだし、まだ従者になって一日も経っていないのだから忠義もなにもないだろうし。






二人からの視線を無視してガンナーにニコっとすれば、ガンナーはそんな僕をじっと見つめ、しばらくしてから大きく一回頷いた。




「俺はルナイス様が軽んじられることを腹立たしく思う。しかしルナイス様はあまり堅苦しい態度を取られるのが苦手なように思う。俺は俺なりの忠義を示していきます。」


そんなガンナーの言葉に僕は嬉しくなって座ったままばんざーいっと両手を上げる。

なんなら「ばんざーい」って声に出して言った。


これは前世だとわりと普通にする人いたけど、今世では偉い人が関わる祝賀祭などでしかしないことなので皆が首を傾げていたけれど、気にしない気にしない。




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【お知らせ】登場人物を更新しました。世界観など設定を公開しました。(R6.1.30)
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