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第2章

にぃ様がカオスを生み出している

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 目が覚めて、しばらくぼーっとしているとすぐ側からノヴァの声がした。


「おはよう、ルナイス。」


 何でノヴァがここに居るんだろうと思いながらも優しく頬を撫でられるのが心地よくて、ノヴァが此処に居る理由なんてどうでもよくなった。






「眠たいところ悪いが、アドルファス様の怒りを鎮めてくれないか?」

 再び瞼を閉じようとした時にノヴァから発せられた言葉にえ?っと瞼を開く。

 にぃ様の怒り?



「どうやら例の件での処分内容が気に入らないと乗り込んでサンコン子爵が泣き出し、ヤックルは自害する勢いだそうだ。」


 カオス。

 にぃ様がカオスを生み出している。



 正直そんな現場には行きたくない。
 今回の事で僕がサンコン子爵とヤックルを助ける義理はないし…。

 でも、僕の事でにぃ様が怒ってくれているというのなら僕はもうこの件はどうでもよくなってるので怒りを鎮めて心穏やかになって欲しいと思う。









 と、いうわけで…やってきました。応接室。


「それで?私の言いたいことが最もだと言うのならどのように処罰するのです?」

「そ、それは…あの…と、特別クラスに入れ、一切我が子とは連絡を取りません!面会も致しません!」


「それで?」


「え?それ、それで…それで…」



「はぁ…その特別クラスという名前自体気に入らない。何が特別だ。罪人予備軍が相応しいと思いませんか?して?彼らの精神的成長はそのクラスでいかに育まれていくのですか?」


 少しだけ扉を開けて中の声に聞き耳を立てればにぃ様のイラついた声とサンコン子爵の震えた声が聞こえてきた。


 にぃ様がめちゃくちゃキレてる。




「彼等は加害者であるがルナイスと同じ8歳だ。その歳で犯罪者予備軍などと呼ばれれば未来が途絶える。今回の件でそこまで大事にするつもりはない。」


「それは公爵としての言葉ですか?それとも父親としての言葉ですか?」



 とーさまの冷静な言葉に食い込むように言葉を返すにぃ様。



「どちらとしてもだ。アドルファス冷静になれ。今回の件では負傷者がでていない。今過剰な処分を下せば悪鬼の事も含めルナイスに目を向けるものが増える。そうなればルナイスがより事件に巻き込まれる危険性が高くなる。」


 怒るにぃ様へのとーさまの言葉に僕もなるほどっと頷く。

 確かにとーさまの言う通り、前回の悪鬼の件で僕が悪鬼を生きて捕縛したことで少し貴族の間で噂になっているとテトラ君から聞いている。



 まだ噂が絶えていない中で今回の件。

 厳しい処分を求め過ぎれば悪目立ちしてしまう。
 社交の場にあまり露出していない僕なので根も葉もない良くない噂が出回る可能性が高い。



 それをとーさまは危惧していたのかとふむふむ頷く。

 眠って嫌な気持ちは無くなったし、そこまで考えが至らず拗ねていた自分が恥ずかしく感じた。



 もじもじしていると僕の後ろにいたノヴァが扉をコンコンとノックした。


 その音で皆がこっちをばっと一斉に向いたから肩がびくっとしてしまった。





 ほらっとノヴァに促されて部屋の中に入ればすぐににぃ様が傍に来てくれる。

 反射的ににぃ様に向かって両手を伸ばしてしまったけど、にぃ様もそれが当たり前というように僕をぎゅっと抱き締めてくれた。







「僕、拗ねて困らせてしまってごめんなさい。」

にぃ様の匂いを肺いっぱいに吸い込んでほっと息をついた僕はにぃ様から離れて、とーさまや先生達に頭を下げる。

ヤックルは僕にもう剣を教える気がもうないんだってことが寂しくて我儘を言ってしまった。




「アーバスノイヤー君が謝る必要性は一切ありません。今回の処分で彼等が改善しない場合は更なる処分が科せられます。今回は3名の生徒を特別クラスへという処分で許して欲しい。」

ぺこっと頭を下げた僕にすかさずグリシャム先生がそう言ってぺこっと頭を下げた。

グリシャム先生に続いてとーさま以外の大人が皆頭を下げる光景に居心地の悪さを感じる。




「その処分で大丈夫です。あ!でも、もう二度と僕に関わらないって誓約書だけ下さい。」

先生達の監視下に置かれるとしても、もしかしたら何かしらの偶然で僕と彼等が接近するかもしれない。

その時に今回みたいに絡んでこなければ僕はもう彼等のことなんてどーでもいい。
本当にどうでもいい。





「必ず。」


「あの…発言をよろしいでしょうか。」


この話も終わりかなっと思った時、ヤックルが声を上げた。
とーさまが僕を見たので僕がヤックルに発言を許可する。



「我が息子はやはり領地へ向かわせようと思います。家で息子含め話した時の様子を見て、息子が今回の件を心から反省しているようには見受けられませんでした。今回の件、率先してルナイス様へ攻撃を仕掛けたのは息子だと聞いております。このような状況でルナイス様の近くには置いておけません。…息子がルナイス様にあのようなことを仕出かした原因は自分にもあったと思い深く反省しております。ここで息子を捨て置くことが自分にはできません。申し訳ございません!」


ヤックル僕を真っ直ぐ見てそう言うと再び土下座をしようとするので、慌てて止める。

ヤックルが彼を領地にって判断した理由も分かったし、僕も少し眠ったこととにぃ様が僕以上に怒ってくれたことで落ち着いて冷静になった頭で考えれば今回彼等に下された罰が決して軽すぎるものでないことも理解した。




「ヤックルと剣の稽古が出来なくなるのは寂しい。だけどヤックルの言いたいこともきちんと分かったからもういいよ。」


今回僕の口から出た『もういいよ』はちょっと前の『もういいよ』とは気持ちが違う。

僕がムアンマルの立場で、ヤックルがとーさまだったらって想像したらヤックルの言いたいことも判断もよく解った。



「きちんと息子と向き合います。」


強く頷きそう言ったヤックルの目を見て僕もうんっと頷いた。





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