上 下
69 / 328
第2章

担任は決して生徒に好かれるタイプではなさそう。

しおりを挟む

下を向いて周りの視線から耐えているとジジジという音の後、渋めの男の人の声が体育館内に響き渡った。


「本日はお忙しい中ご来賓頂きまして誠にありがとうございます。そして新入生の皆さん、ご入学おめでどうございます。これからこの学園で助け合える友を得、勉学に励み将来の可能性を広げ、理不尽に打ち勝てる力を身に着けていってもらいたいと思っております。よろしくお願いします。」


舞台の隅でそう言って挨拶を終えた先生らしい人は一礼をして舞台袖にはけて行った。

そしてその先生と入れ替わりで、今度は舞台の中央に立った人。
確かあの人はこの学園の学園長。

この学園ができる前は、教会などで無償で子供達に教育をしていたのだとか。

教育というのは学だけのことではなく、処世術しょせいじゅつなども教えていたそうだ。
例えば、人の物を盗んではいけない。なぜなら~という風に何をやってはいけないのか…そしてそれをすると何故いけないのかという理由までしっかり教えていたという。
根っからの教育者だ。



そんな風に話されている学園長は確かに威厳のある人だった。

これだけの人を目の前にしても少しも緊張をしている様子もなく、堂々としており落ち着いている。




「私は長年子供達に色んなことを教えてきた。多くの教え子達はこの学園を巣立ち、国に貢献したり、あるいは外国で偉業を成し遂げたり。様々な形で私を楽しませてくれている。しかし…中には残念なことに、悪の道に足を進めて行く者もいる。君達の中から悪の道へ足を踏み入れ、恐ろしい猛獣に噛み千切られないことを真に願っているぞ。」


学園長はそう言って舞台袖にはけて行った。

最後の方に目がばっちし合ったように感じたけれど気のせいだろうか?
もし気のせいでないのなら…



学園長は僕をもしかして問題を起こすような厄介な生徒だと思っているのだろうか?

初対面で?


後でにぃ様にご相談してみよう。






その後も長ったらしく話をする教員はおらず、学園での大きな注意点だったり、学業の大まかな説明だったりを受けてそれぞれ決められたクラスへ移動するように指示が出た。

それぞれのクラスを案内してくれるのは教員ではなく、在校生のようで、僕の所属するクラス1組を案内してくれるのはどうやらにぃ様のよう。


嬉しくて駆け寄りたい気持ちだったけど、今はそのように振る舞うべきではないと理解している為ぐっと堪えて、お行儀よく並び案内されるままに歩いて行く。



すでに仲のいい友人同士でくっついて話している人が多くいて、僕みたいに一人で黙って歩いている生徒はまばら。




何かやらかした記憶はないが、ひしひしと感じる「関わってくれるな」オーラが凄いので、僕から周りの生徒に話をかけることもできずとぼとぼと歩くしかなかった。

別に誰かといないと不安なタイプではないので、一人で行動するのはいいのだけど…これからあるだろうグループでの授業を思うと少しばかり憂鬱ではある。



きっと誰も僕と組みたくなくて一人ぽつんと弾かれていることだろう…。





鬱鬱としながら辿り着いた教室で自分の名前が表示されている机に座り机の上に置かれていた教材をチェックしていく。

にぃ様は僕達を案内し終わると颯爽と教室を出て行かれたのでもう居ない。



一通り教材のチェックと片付けが終わった頃、教室に担当の教師だろう人が現れて、バラけて話し込んでいた学生達がささっと自身の席へと戻っていく。





「今日からとりあえず一年、1組の担当となりました、エドガー・グリシャムです。君達が面倒ごとを起すような生徒でないことを期待しています。では、配布されている教材に不備がないか確認します。不備があったものは速やかに挙手するように。」


自己紹介をした担当の教師はきちんと僕達と一線を引いて、教師と生徒という立場をはっきりとさせた。

そんなグリシャム先生に対して顔を顰めている生徒が数名いたが、先生は気にする様子もなく淡々と配られている教材を口にしていく。



熱血教師とかでなかったので僕は万々歳だけど、なかなかにクールな先生故に生徒たちからは好かれにくいだろうグリシャム先生は配られた教材に不備がなかったことを確認し終わると、今日はもう解散と告げて教室をばばばっと出て行った。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?

麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

婚約破棄を望みます

みけねこ
BL
幼い頃出会った彼の『婚約者』には姉上がなるはずだったのに。もう諸々と隠せません。

狂わせたのは君なのに

白兪
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。 完結保証 番外編あり

最終目標はのんびり暮らすことです。

海里
BL
学校帰りに暴走する車から義理の妹を庇った。 たぶん、オレは死んだのだろう。――死んだ、と思ったんだけど……ここどこ? 見慣れない場所で目覚めたオレは、ここがいわゆる『異世界』であることに気付いた。 だって、猫耳と尻尾がある女性がオレのことを覗き込んでいたから。 そしてここが義妹が遊んでいた乙女ゲームの世界だと理解するのに時間はかからなかった。 『どうか、シェリルを救って欲しい』 なんて言われたけれど、救うってどうすれば良いんだ? 悪役令嬢になる予定の姉を救い、いろいろな人たちと関わり愛し合されていく話……のつもり。 CPは従者×主人公です。 ※『悪役令嬢の弟は辺境地でのんびり暮らしたい』を再構成しました。

処理中です...