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(アレクside)
村人が恐らく全て死んだのだろう
ヤトの体が柔らかい光に包まれた。
人は悪魔に悪い印象を抱いているが、悪魔の多くは堕天した天使という話もある。
目の前の様子を見て、元々は天使であったという説は正しいのかもしれないと感じる。
しばらくして、ヤトの口からゴプリと大量の血が吐き出された。
慌てて喉に血がつまらないよう体を横向きに動かす。
爛れて、触れたらヤトに苦痛を与えるのではないかと思い触れなかった体は治癒士たちの治療のおかげで、まだ痛々しい痕はあるが気にせず触れられた。
血を吐かなくなって、口元へ手を向ければ呼吸が戻っていることが確認でき
胸に耳を押し付ければ
ドグ
ドグ
と規則正しい鼓動が聞こえてきた。
聞こえる心音にぶわっと涙が溢れ出し、嗚咽が零れる。
生きている
理不尽に奪われた命が
戻ってきた
そのことが多くの命を代償にしたことなど本当にどうでもいいと思えるほどに
嬉しくて仕様がない。
「契約は成された。言っておくが、多くの魂を材料に死者蘇生を行ったお前やその子が死後、普通に転生できるとは思うな。」
「肝に銘じておく。…契約とは言え、ヤトを生き返らせてくれたこと心より感謝申し上げる。」
「…もう二度と呼び出されることがないことを願おう。」
お礼を告げた俺に悪魔はふっと笑みをこぼし姿を消した。
それを見送ってヤトを抱き上げる。
「アレク…お前は自分が何をしたのか理解しているな。」
ヤトを抱き上げ、父上の前に立つと険しい顔をした父上が厳しい視線で俺を捕らえ問うた。
「父上…俺は村人達については、少しも後悔していない。」
そんな父上を俺も真っ直ぐ見据え、言葉を返す。
「お前は良くても、その子が目を覚ました時に多くの命を代償に生き永らえたことを知ってどう思う!」
「…きっと…ヤトは「そうなんだ」としか言わない。父上…ヤトがどれほど愛されずとも優しさを向けてもらえるように努力してきたのか貴方は知らない。そんなヤトに、ヤトの両親が…村人達が…どんな仕打ちをしてきて、最後には燃えて苦しむ自分を笑って見ているあいつらを見て…そんな奴らにもう砕ける心を持っていると思いますか。あの悪魔が言っていたでしょう。魂すら壊れかけている、と。罪のないヤトが魂まで壊されて、害悪者が平穏に生きている世界何て…そんな世界はいらないんですよ。俺は受け入れない!」
ヤトが生きている理由をヤトに話すつもりはない。
話したところで、もうどうにもならないしどうにかする気もない。
これ以上、無闇矢鱈にヤトを傷つける必要はない。
「父上…このようなかたちで貴方の期待を裏切ることになった。…正直その事だけは心残りです。」
そう。
ただ一つ
後悔というよりも…心残りがあるとすれば、次期当主としてここまで育ててくれた父上や母上、そして自分に憧れてくれている弟の期待を裏切り、虐殺者の家族としてしまった。
これからの家族のことを思うと、申し訳なく思う気持ちはある。
だが、今腕に抱くヤトの戻ってきた温もりに…やはり後悔はないのだ。
「…この場を持って…お前を破門とする。虐殺者アレクは混乱の場に紛れ見失ってしまった。」
父上はゆっくりと瞼を閉じ、そう告げると俺に背を向け死んだ村人達の遺体の回収へと向かう。
傍にいた騎士や治療士達も静かに背を向け離れて行く。
そんな父上…ダグレス公爵達へ深く頭を下げ、ヤトを抱えて深い森の中へと歩き出した。
村人が恐らく全て死んだのだろう
ヤトの体が柔らかい光に包まれた。
人は悪魔に悪い印象を抱いているが、悪魔の多くは堕天した天使という話もある。
目の前の様子を見て、元々は天使であったという説は正しいのかもしれないと感じる。
しばらくして、ヤトの口からゴプリと大量の血が吐き出された。
慌てて喉に血がつまらないよう体を横向きに動かす。
爛れて、触れたらヤトに苦痛を与えるのではないかと思い触れなかった体は治癒士たちの治療のおかげで、まだ痛々しい痕はあるが気にせず触れられた。
血を吐かなくなって、口元へ手を向ければ呼吸が戻っていることが確認でき
胸に耳を押し付ければ
ドグ
ドグ
と規則正しい鼓動が聞こえてきた。
聞こえる心音にぶわっと涙が溢れ出し、嗚咽が零れる。
生きている
理不尽に奪われた命が
戻ってきた
そのことが多くの命を代償にしたことなど本当にどうでもいいと思えるほどに
嬉しくて仕様がない。
「契約は成された。言っておくが、多くの魂を材料に死者蘇生を行ったお前やその子が死後、普通に転生できるとは思うな。」
「肝に銘じておく。…契約とは言え、ヤトを生き返らせてくれたこと心より感謝申し上げる。」
「…もう二度と呼び出されることがないことを願おう。」
お礼を告げた俺に悪魔はふっと笑みをこぼし姿を消した。
それを見送ってヤトを抱き上げる。
「アレク…お前は自分が何をしたのか理解しているな。」
ヤトを抱き上げ、父上の前に立つと険しい顔をした父上が厳しい視線で俺を捕らえ問うた。
「父上…俺は村人達については、少しも後悔していない。」
そんな父上を俺も真っ直ぐ見据え、言葉を返す。
「お前は良くても、その子が目を覚ました時に多くの命を代償に生き永らえたことを知ってどう思う!」
「…きっと…ヤトは「そうなんだ」としか言わない。父上…ヤトがどれほど愛されずとも優しさを向けてもらえるように努力してきたのか貴方は知らない。そんなヤトに、ヤトの両親が…村人達が…どんな仕打ちをしてきて、最後には燃えて苦しむ自分を笑って見ているあいつらを見て…そんな奴らにもう砕ける心を持っていると思いますか。あの悪魔が言っていたでしょう。魂すら壊れかけている、と。罪のないヤトが魂まで壊されて、害悪者が平穏に生きている世界何て…そんな世界はいらないんですよ。俺は受け入れない!」
ヤトが生きている理由をヤトに話すつもりはない。
話したところで、もうどうにもならないしどうにかする気もない。
これ以上、無闇矢鱈にヤトを傷つける必要はない。
「父上…このようなかたちで貴方の期待を裏切ることになった。…正直その事だけは心残りです。」
そう。
ただ一つ
後悔というよりも…心残りがあるとすれば、次期当主としてここまで育ててくれた父上や母上、そして自分に憧れてくれている弟の期待を裏切り、虐殺者の家族としてしまった。
これからの家族のことを思うと、申し訳なく思う気持ちはある。
だが、今腕に抱くヤトの戻ってきた温もりに…やはり後悔はないのだ。
「…この場を持って…お前を破門とする。虐殺者アレクは混乱の場に紛れ見失ってしまった。」
父上はゆっくりと瞼を閉じ、そう告げると俺に背を向け死んだ村人達の遺体の回収へと向かう。
傍にいた騎士や治療士達も静かに背を向け離れて行く。
そんな父上…ダグレス公爵達へ深く頭を下げ、ヤトを抱えて深い森の中へと歩き出した。
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