良い子【短編】

5

(アレクside)



「ヤトー！！ヤト！ヤト！」




ぐったりとして炎の中にいるヤトに止める父上の手を振り払い

燃えているヤトを囲み笑っている奴等をなぎ払う。


水魔法で炎を消し、ピクリとも動かないヤトを黒ずんだ木から離す。




だがほぼ全身に火傷を負った体は下手に動かせなくて…


「ヤト…ヤト…」



呼びかけても、開かない瞳の左側は爛れて、痛みでだったのか、それとも生理現象なのか…ヤトの両目から流れる涙にどうしようもない…殺意以上の…呪いのような、黒いドロドロとした感情が湧き上がる。










「アレク。その子を。」

ヤトの前で動けずにいる俺の肩を父上が掴みヤトから引き離す。

騎士団の中の治癒士がヤトへ治療を施すが、ヤトはピクリとも動かないまま。



交代で治癒士が治療を施すが、爛れた皮膚から流れ出る血が止まるだけで一向にヤトが目を覚ます様子はなかった。









「公爵様…恐らくあの子は…」


「…それでも、出来うる限り頼む。」


「…はい。」




治癒士の1人が小さな声で父上に告げるのが耳に届く。

分かってる。



火を消して、木から離した時には息をしてなかった。

食いしばって、痛みに耐えたのだろう。



ぐっとしまった口は指を入れても開かなかった。










「何をするんだ！」

「それを生贄に捧げねば私たちが死んでしまうのよ！」


ふっとヤトをこんな姿にした村人達はどうしたのかと周りを見渡せば

騎士達に捕らえられ、それでも尚ヤトを殺せと騒いでいる。




その中にはヤトの両親もいて

きっとヤトを木に縛ったのもあの両親なのだろう。




ヤトはどんな思いで、自分を喜んで殺そうとする両親を見ていたのか…


痛かったろう

悲しかっただろう

虚しかっただらう



そしてお前は自分に言い聞かせたのだろう。







仕方ない


良い子になれなかったのだから


仕方ない






そんな哀しいことを

自分に言い聞かせて目を閉じ、焼かれる痛みに声を上げないよう歯を食いしばり耐えたのだろう。

最後まで両親の言う良い子になろうと頑張ったのだ。




再び治療をうけているヤトに視線を向ける。



強く握られている掌に爪が刺さっている。


ゆっくりと近づいて、そっとヤトの手を握り、突き刺さった爪を抜いてやる。




爪が刺さって穴が空いていた皮膚は治癒士の魔法ですぐに塞がった。

血も出てないし

爛れも治ったが、茶黒くなった皮膚はなかなか治らない

なによりヤトの心臓は止まったまま。










「早くそいつを殺せー！」


もう駄目なんだろう…


その現実を受け入れようと思った時




聞こえてきた声に


俺の中の何かが壊れる音がした。












「やめろアレク！！」