良い子【短編】

薄明 喰

文字の大きさ
上 下
2 / 10

2

しおりを挟む

村の馬の糞を掃除している時に、この村の教会に誰でも入れる図書館ができたと耳にした。



図書館は本が沢山ある所だって知ってた僕は、急いで掃除を終わらせて日が暮れる前に何とか噂の図書館にやってきた。








だけど、図書館はすでに閉まっていて中に入ることはできなかった。











それからしばらくして、村の隅でお薬屋さんをしているお姉さんのお家の屋根の修理を終えた時、お姉さんが僕がまだお手伝い中だってことにしとくからフード付きの布これを着て図書館に行っておいでと言ってくれた。


僕は図書館に行ってみたいなんて誰にも言ったことがないのに何で分かったんだろう?と不思議に思いながらも断ろうとした。

だっては嘘をついたら駄目なんだ。




折角両親に良い子だと言われることが増えたのに、そんな事をしてはまた頭がイカれた子に戻ってしまう。


だけどお姉さんはいいから行っといでと僕の体をぐいぐい押すから、仕方なく僕はフードを深く被り、人目のない道を歩き図書館へとやってきた。






「うわぁ…」


図書館に入って漏れ出た声に慌てて両手で口を抑える。

図書館では静かにしてくださいねと入口に書いてあったのに、やっぱり僕は良い子にはなれてない。




ゆっくりと中に入り、中で紙に何かを書いている見たことの無いお兄さんに小さく声をかける。


「あ…あの…」

「ん?君は?」


フードを被る僕に顔を顰めたお兄さんに慌ててフードを取り顔を見せ



「ヤトって言います。」



と挨拶をした。





「あぁ…よく働いている子だね。本を読みに来たのかい?」


「ぁ…はい…だめ、でしょうか?」


「いいよ。好きに読みなさい。」



汚い、異常者な僕じゃ、やっぱり教会の図書館の本を読んではいけないのかと諦めて帰ろうとしたらお兄さんは微笑んで本を読む事を許してくれた。


僕は嬉しくて何度もお礼をいいながら読めそうな本を選んで図書館の隅の人目に付きにくい場所で静かに読書をした。













あれから薬屋さんのお姉さんのとこでの仕事の時は図書館へ行くようになり

両親に嘘をついていることへの罪悪感を抱えながらも本を読むことに夢中になっていた。




ここ最近僕が読んでいるのは恋物語。

沢山の人から愛される主人公を良い子になる為の参考にしているのはもちろん…


読んでいるとまるで僕まで愛されているかのように錯覚することができて、本を読んでいる間は言いよう良ないほどに幸せだった。










「君は最近そういった話のものばかり読んでいるね。好きなのかい?」


「ぇ…ぁ…はい」


「どんなとこが面白いの?」



「…ぃ…良い子になるために……僕は僕じゃだめなので…主人公みたいになれたら…僕…」




お兄さんの質問にもじもじしながら頭を高速で動かして言葉を紡ぐ。

大丈夫かな

傷つけてないかな

おかしくなかったかな

いい子かな





「…決めた……ヤト。少しの間ここでお留守番しててください。」


「ぇ…で、でも…僕…帰らないと…」



「大丈夫。私がご両親にきちんと説明するから。」




「……はい。」




お兄さんの力強い目に勝てなくて、僕は諦めて頷いた。

時間通りに帰らないとまた閉じ込められてしまうかもしれない。


だけど、お兄さんが両親に言ってくれれば、もしかしたら怒られなくて済むかも…


そんな事を思いながら図書館を去っていくお兄さんの姿を見送った。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生場所は嫌われ所

あぎ
BL
会社員の千鶴(ちずる)は、今日も今日とて残業で、疲れていた そんな時、男子高校生が、きらりと光る穴へ吸い込まれたのを見た。 ※ ※ 最近かなり頻繁に起こる、これを皆『ホワイトルーム現象』と読んでいた。 とある解析者が、『ホワイトルーム現象が起きた時、その場にいると私たちの住む現実世界から望む仮想世界へ行くことが出来ます。』と、発表したが、それ以降、ホワイトルーム現象は起きなくなった ※ ※ そんな中、千鶴が見たのは何年も前に消息したはずのホワイトルーム現象。可愛らしい男の子が吸い込まれていて。 彼を助けたら、解析者の言う通りの異世界で。 16:00更新

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

嫌われ者の僕

みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈学園イチの嫌われ者が総愛される話。嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。 ※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。改行多めで読みにくいかもです。

【BL】婚約破棄されて酔った勢いで年上エッチな雌お兄さんのよしよしセックスで慰められた件

笹山もちもち
BL
身体の相性が理由で婚約破棄された俺は会社の真面目で優しい先輩と飲み明かすつもりが、いつの間にかホテルでアダルトな慰め方をされていてーーー

「陛下を誑かしたのはこの身体か!」って言われてエッチなポーズを沢山とらされました。もうお婿にいけないから責任を取って下さい!

うずみどり
BL
突発的に異世界転移をした男子高校生がバスローブ姿で縛られて近衛隊長にあちこち弄られていいようにされちゃう話です。 ほぼ全編エロで言葉責め。 無理矢理だけど痛くはないです。

つぎはぎのよる

伊達きよ
BL
同窓会の次の日、俺が目覚めたのはラブホテルだった。なんで、まさか、誰と、どうして。焦って部屋から脱出しようと試みた俺の目の前に現れたのは、思いがけない人物だった……。 同窓会の夜と次の日の朝に起こった、アレやソレやコレなお話。

家の中で空気扱いされて、メンタルボロボロな男の子

こじらせた処女
BL
学歴主義の家庭で育った周音(あまね)は、両親の期待に応えられず、受験に失敗してしまう。試験そのものがトラウマになってしまった周音の成績は右肩下がりに落ちていき、いつしか両親は彼を居ないものとして扱う様になる。  そんな彼とは裏腹に、弟の亜季は優秀で、両親はますます周音への態度が冷たくなっていき、彼は家に居るのが辛くなり、毎週末、いとこの慶の家にご飯を食べに行く様になる。  慶の家に行くことがストレスの捌け口になっていた周音であるが、どんどん精神的に参ってしまい、夜尿をしてしまうほどに追い詰められてしまう。ストレス発散のために慶の財布からお金を盗むようになるが、それもバレてしまい…?

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

処理中です...