青より青く

60話 この世で最も美しい青と白

60話　この世で最も美しい青と白



透弥side





恋心に気が付いてしまった。


じゅんくんへの想いに、やっと、気が付いた。

あんなにもじゅんくんを救いたいと思ったのは、じゅんくんが好きだから…

同情や友情なんかじゃなかった。

じゅんくんの為に、なんでもしたいと思ったのは…

じゅんくんを好きだったから…
愛していたから…

今、わかった…



雪とキスできなかったのは、そういう事だったんだ。

なんで、今ままでこの気持ちに気が付かなかったのだろう…
近くに居すぎて、当たり前すぎて、大切な人の存在に気が付かなかったなんて…


俺、ほんとに…馬鹿だな。




じゅんくんはこの世に、残酷な程に綺麗な青を残して逝ってしまった…


俺とこの美しすぎる綺麗な青を残して…。



あんなに傍にいて、いつも一緒だったのに、
それが当たり前すぎて、気が付かなかったなんて、ほんとに馬鹿な俺。

キスが気持ちいいのも、抱き締めた肌が心地いいのも…じゅんくんと一緒に昇って一緒に堕ちたあの瞬間が愛おしいと感じるのも…

全部、全部、じゅんくんを愛していたから…だったんだ。

今頃気が付くなんて…
もう、遅い。

込み上げてくる吐き気と、胸を締め付ける激痛は、苦恋花病の症状なのだろう。



じゅんくんを好きだと気が付いた瞬間に、俺は失恋したのだ。


どう、足掻いても…もう手に入ることのないこの恋。


体中にじゅんくんの真っ青な薔薇の棘トゲが刺さる。



じゅんくんは、この吐き気や激痛に何か月も耐えていた…


でも、俺は…ひとりじゃとても耐えられそうにない…


『…じゅん…くん…』

この青い世界に響くカンパニュラ



♪　守りたかった　あなたを
　　気づかなかった　想いに
　　守れなくてごめん　大切な人
　　真っ青な空に　揺れるカンパニュラ

　真っ青な空を　埋めていく　
　真っ白なカンパニュラ
君が笑う様に　揺れる　白い花

悲しいなんて　苦しいなんて　もう遅いのかな
大好きだったなんて　今頃気が付いてみても
もう　遅いのかな

守りたかった　あなたを
　　気づかなかった　想いに
　　守れなくてごめん　大切な人
　　真っ青な空に　揺れるカンパニュラ

君が鳴らした　あの鐘を　なぜ気が付けなかったのだろう

必死で鳴らした　鐘の音が　真っ青な空に響き渡る

君が笑う様に揺れる　白い花
最後にもう一度　その花を揺らして

守りたかった　あなたを
　　気づかなかった　想いに
　　守れなくてごめん　大切な人
　　真っ青な空に　揺れるカンパニュラ

　大好きだよ　大切な人　もう遅いのかな
　ごめんね　カンパニュラ






部屋に流れていたのは【カンパニュラ】

ふたりで踊ったカンパニュラが永遠にリピートされていた。


これを聞きながら、じゅんくんは逝ったのうか？



あぁ…これは、俺とじゅんくんの歌だった。


『う゛っ…おぇっ…うぅっ…』
真っ白なカンパニュラがカラダの奥底から溢れてくる。


吐き出した真っ白なカンパニュラが、真っ青な薔薇と混ざり合って、綺麗な青と白のコントラストを生み出す。


お生い茂った蔓つるを掻き分けて、じゅんくんの手をきゅっと握った。




もう、離れたくない。


ーーーもう、離さない。


そう思った。



―――もう離れない。


そう言っているかのように、じゅんくんと繋いだ手に蔓が巻き付いて、ふたりの手をぐるぐると縛り付けた。





このまま一緒に眠ってしまおう。


ひとりでは、この痛みに耐えられそうもないから…。




でも、じゅんくんと一緒なら、大丈夫。


このままじゅんくんと、真っ青な薔薇に包まれて、真っ白なカンパニュラと共に眠ろう。



激しい胸の痛みと込み上げる吐き気、全身をじわじわと包み込んでいく薔薇のトゲの痛みや、全てから解放されて眠りに就こう



じゅんくんがいない世界なんて考えられない


このまま、ふたりでどこまでも堕ちていこう。


待ってて、俺ももうすぐそこへ行くから。







青い薔薇の花言葉は、【不可能】


数年前まで青い薔薇を作り出すことは不可能とされていた、でも、現在では青い薔薇を作り出すことが可能になり、

夢と努力が実を結んだ、奇跡の花と呼ばれるようになった。



そして、青い薔薇の花言葉は、【不可能】から【夢が叶う】、【神の祝福】になった。



神様に祝福されるみたいに、ふたりをこの世で一番綺麗な青が包んで




『…透弥、一緒に堕ちていこうっ』


『じゅんくん、一緒に昇って…そしてどこまでも堕ちよう。どこまでも、どこまでもふたりで昇って、どこまでも、どこまでも…一緒に堕ちよう』



『一緒なら、どこまでも堕ちていけるね』



真っ青な薔薇の花びらと、真っ白なカンパニュラが部屋中を染めた。








　　　終