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59話 残酷な程に美しい青

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59話  残酷な程に美しい青






透弥side




『…じゅん…くん…』







零れる涙が頬を伝い、ポタポタと床に落ちて、小さな水たまりを作っていた。


ベッドから伸びた無数の青い薔薇の蔓(つる)が、部屋を這いまわり、その蔓はじゅんくんのカラダを覆うように、じゅんくんを包んでいた。


顔の半分は真っ青な薔薇とその蔓(つる)で隠され、顔の右半分だけがそれがじゅんくんだという事を認識させる。


不思議とじゅんくんは穏やかな顔で、花に埋もれるその様は、まるで眠れる森の美女だった。

見たこともないような美しい真っ青な薔薇の花に包まれて、胸からは一際大きな一輪の青い薔薇が、心臓を貫くように咲き誇っていた。


残酷な程に美しく、悲しい青


この世で最も残酷で美しい青。



何よりも深い青を見た
どこまでも深く

澄んだ青は

とても綺麗で

残酷だった

空の青よりも
もっと青く

海の青よりも

もっと澄んでいて


藍色よりも

もっと悲しい


涙色



見たこともないような


心に刺さる深い青




この世で最も憂いを帯びた綺麗な青





それは君が残した

世界一美しい青だった

忘れることのできない
綺麗な青






どれほど、この光景に囚われていたのだろうか…



少しずつ、胸の音が静かになって、俺は一歩前に足を進めた。


自分で作った小さな水たまりを越えて、お生い茂る薔薇のつるを掻き分けて、じょうくんが眠るベッドへ向かった。

足を一歩踏み出すごとに、薔薇のトゲが俺に激痛を与える。


ほんの数メートルなのに、伸びたつるに邪魔をされて、掻き分けるほどに皮膚を刺すトゲの痛みで、なかなかじゅんくんに辿り着けない。


茨の道を進んでいく。

やっとの思いでじゅんくんに辿り着いた時には、手や足、顔の皮膚からは真っ赤な血が滲んでいた。



…痛い…痛くて痛くてっ…
鈍い痛みは心まで浸食していた。


じゅんくんは、ずっとこの薔薇の棘(トゲ)の痛みに耐えていたのだ…


たったひとりで、この痛みに耐え…

カンパニュラを踊り切った。

そう思うと、胸が苦しくて溢れてくる涙を止めることが出来なかった。



蔓に隠されていないじゅんくんの右半分の頬に触れると、それは、あの日触れたじゅんくんの肌なのに、冷たくて…全くの別物の様に感じた。


あの日のじゅんくんの肌は温かく、俺を包み込むじゅんくんのナカはもっと温かく安らかで気持ちが良かった。


それなのに…あの温もりは、もうここに無い。

もう…

この世には、存在しないのだ。


失ってしまったその温もりを求めて、蔓に覆われたじゅんくんを必死に蔓から助け出す。



それでも、蔓は硬くお生い茂ってじゅんくんを離そうとはしない。


『じゅんくんっ!!じゅんくんっ…じゅんくん…じゅん…くんってばっ!!…なんでっ…俺を呼ばないの?…俺を呼べってっ…そしたら、すぐに…キスして…抱きしめて…グスっ…じゅんくんっ…なんでっ…なんでっ…』


込み上げてくる感情と言葉が、自分から溢れてしまう。


真っ青な薔薇に囲まれたじゅんくんを、薔薇の花ごと抱きしめて、何度も何度もじゅんくんを呼んだ。




『…っ…じゅんくんっ…じゅん…くんっ///…なんだよって…いつもみたいに…言ってよ!!じゅんくんっ、いつもみたいに笑ってよっ!!』


じゅんくんを抱き締めると強く俺に刺さる棘(トゲ)の痛みと、それよりも痛む胸の痛みに、俺は…耐えられそうもない…。


名前を呼んでも、もう…

その声を聞くことはできない…


俺が助けるなんて、思い上がっていた自分を恨んだ。


癒してあげるだなんて、全然何もしてあげられなかった…


そう思った時、
『おぇ゛っ…う゛っ…』


込み上げてきた吐き気に、口元を押さえたけど
次から次へと花が吐き出された…

吐き出したのは、真っ白な釣り鐘の形をしたカンパニュラ…

えっ…

ツアー中たくさんの花をもらった。
その中にカンパニュラもあったから、吐き出した花がカンパニュラだって直ぐにわかった。


カンパニュラの花言葉は、【守れなかった命】


その時、俺は…わかった。

俺の好きはじゅんくんの好きと同じ好きだったんだって…

今頃、気が付いても、もう遅い…

失って始めて気が付いた。

…この恋心に。

今頃、気が付いてしまったのだ。

誰よりも愛おしいその存在に。




俺は、恋をしていたんだ。













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