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白夜

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58話 見たことのない世界

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58話   見たことのない世界



透弥side



俺は走った。

胸の奥のざわつきが、じゅんくんの家に近づけば近づくほどに大きくなっていく

俺は自分の気持がわからない…。

何のために、こんなに必死で走って、じゅんくんの無事を確認したいのか?

友達だから?

確かに大切な友達だ。

でも、それだけなのか、自分の気持がわからない。

世の中の人は、友達を抱くだろうか?

何とも言えない気持ちになる。


この状況って…両想いじゃないよな?

自分のじゅんくんへの【好き】が、じゅんくんと同じ【好き】なのか、わからない。

自分の気持がわかっていない以上、じゅんくんと俺は両想いではないことは確かだ。



俺と両想いじゃないとすると…

苦恋花病は両想いになることしか、治療法がない!
それは、病気が進行していることを意味するのではないか?

症状を緩和するためには、俺との行為が必要なはず…でも、この数日触れ合っていない!


ドクドクと脈を打つ心臓が、痛いくらいに騒いでて、それでも一刻でも早くじゅんくんの様子を確認したかった。


じゅんくんの家の前に着いて、ハァハァと肩で息をしながら、乱暴にインターフォンを押した。



ピンポンっ、ピンポンっ、

ピンポンっピンポーン…




………反応がない。



もちろん返事もない。


ドアに向かって大きな声でじゅんくんを呼ぶ
『じゅんくんっ!じゅんくんっ!!俺っ!!開けてっ!!大丈夫?』


どんどんとドアを叩いても、返事はないまま


どうしようっ…どうしようっ…


乱れた呼吸が思考回路を奪って、どうしたらいいのか焦るばかり。
玄関のドアに耳を付けると、かすかに声?が聞こえていた


よく聞こえないけど、確かになにか聞こえてて、ドアに、耳を付けて中から聞こえて来る微かな音を聞いた。


『ごめんっ!緊急事態だからっ!!』
そう言って、じゅんくんが家の鍵を隠している、屋外分電盤から鍵を取り出して、ガチャガチャと強引に差し込み鍵を開けた。



靴なんて脱ぎ捨てて、部屋に入ると

聞こえていたのは、話し声じゃなくて音楽だったことに気が付く

その音楽の鳴る方へ導かれるように歩いて行くと
寝室にたどり着いた。


寝室から流れてくるのはツアーで一緒に踊っていたあの【カンパニュラ】だった。
寝室のドアの向こう側から流れて来る【カンパニュラ】に耳を澄まして息をのんだ。

じゅんくんと踊ったカンパニュラ…
心臓は自分のものとは思えない程に、ドクドクと次の行動を急かしていて、

寝室のドアノブに手をかけ、ゆっくりと開けると…
部屋中に広がる甘い薔薇の匂いが、ドアを開けたことによってドッと一気に外へ流れ出した。

『うっ、あまっ///』

むせかえるような、甘い薔薇の香りが俺を襲うみたいに一気に俺に向かってくる。

そして…
そこには、見たこともない世界が広がっていた。


俺の想像を超える青い世界

ベッドから部屋中へ伸びるつるが、寝室を別世界へ変えていた。

とげを纏ったつるは、部屋中にお生い茂って、部屋中を真っ青な薔薇の花で埋め尽くしていた。



俺は、こんなにも深い青を見たことがなかった。


この世のものとは思えないくらいに、深い青で、あの日トイレで見つけてしまった、青い花びらよりも、もっと深く濃い青になっていた。



息をするのも忘れてしまうほどの深い青に、頬を伝う涙は色を奪われた。




その光景は、俺に一瞬で状況を理解させるには十分すぎるほどに、残酷で綺麗な青い光景だった。




……



……



『…じゅんくん…』



たったその一言を言うのに、どれだけの時間、この深い悲しい青を見ていたのだろうか…

頭では、もうこの状況を理解してしまっているのに…

納得できずに、現実を受け入れようとしない心が、全ての感情から色を抜き取って

深い深い…どこまでも、深い青に染めた。


そして、俺の全ては、その深く悲しい青に奪われた。



『…じゅん…くん…』





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