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45話 言い表せない感情

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45話 言い表せない感情


透弥side


なんでも話して欲しかった。

俺たちずっと一緒にやって来て、なんでも話せる友達だと思っていたから。

医務室でじゅんくんが苦恋花病だと知ってしまった。

聞いても教えてはくれなかった。

ねぇ答えてよ…。
本当の事を聞きたいんだ。

じゅんくんの口から、本当の事が聞きたいだけなんだ!

それなのに…俺には教えてくれないまま。

でも、わかったことがある。

ぐったりしていたじゅんくんを抱き締めて眠って起きたら、じゅんくんは元気になっていた。

もしかしたら、ぎゅってすると少し症状が良くなるのかもしれない。

俺に出来ることは、そんな事くらいしかない。

それから、俺はじゅんくんの事を今まで以上にじっくり観察するようになった。

横浜、愛知、静岡…日に日に具合が悪くなっていくじゅんくんの背中を擦ったり、一緒に昼寝したり…その度に、じゅんくんが俺がそうすることで、少しだけ回復しているのが嬉しかった。

そして、そんな俺を見て雪は
『じゅんくんばっかりズルい』とか『じゅんくん、じゅんくんって、僕の事ほったらかしにして』ブツブツと文句を言っていた。

そう言われても仕方がない。
だって、実際に俺は雪よりもじゅんくんを見ていたから。

それが、愛知公演が終わってからというもの…雪が何も言わなくなった。
どういうわけだか、今までぐちぐちと文句を言って、俺を悩ませていたお小言を言わなくなったのだ。


今思えば、あの頃に、雪もじゅんくんの病気に気が付いていたのかもしれない。

そして、福島公演の2公演目…
じゅんくんは苦痛に悶え、そのまま意識を手放した。
下唇噛んで、必死に耐えるじゅんくんの姿は、見ていられないほどに苦しそうだった。

初めてひとりで踊ったカンパニュラ。

みんなが誰か代役を立てようと言ったけど、誰とも踊るつもりはなかった。
そもそもがソロで踊るのも想定されていた楽曲で、じゅんくん以外の誰かと踊るくらいなら、ひとりで踊る!そう決めた。

ひとりで踊ったカンパニュラは、カラダの半分がなくなったみたいで、苦しかった。いつも当たり前に傍に居て、当たり前に一緒にやっていくと思ってた。
ひとりで踊ることが、こんなにも寂しいなんて、思いもしなった。

このまま、じゅんくんの病気が治らなかったらと思うとゾッとした。
それでも、今のところ苦恋花病を治す治療法は、両想いになるしかない。

俺に出来ることはあるのだろうか?

それから、俺は苦恋花病について調べまくった。
どうしたら、じゅんくんを助けられるのか…

あの苦痛に悶えたじょうくんの表情が忘れられなくて…
もう、じゅんくんが苦しむ姿を見たくなった。
俺がどうにかして、助けてあげたかった。

広島公演で昼公演が終わったあと、じゅんくんはぐったりと、いつものように医務室へ向かっていた。

壁を伝うように、その姿はいつもより辛そうで、もう限界を迎えているようだった。

見ていられなかった…。

俺は、じゅんくんを抱えて医務室へ向かい

『もう、頑張るのやめて、俺が耐えられない!!』

自分でもわからない感情が込み上げて来て、じゅんくんを抱きしめてキスしてた。

苦しそうなじゅんくんなんて見たくないし、こんなになっても耐えているじゅんくんが許せなかった。

もう、無理をしないで欲しい。

ただ、じゅんくんを守りたかった。その一心だった。

苦恋花病を調べた時に、キスや性交渉で症状が緩和すると、何かの文献に書いてあった。それは、片思いの相手にしてもらうのが良いのだろうけど、じゅんくんの相手を知らない俺は、どうする事も出来なくて…

俺でじゅんくんの苦痛が少しでも和らぐのならと、夢中でじょうくんにキスしてた。



不思議とじゅんくんとするキスは嫌じゃなくて、ただじゅんくんを救いたい一心だったし、あの時の俺は他の感情を持ち合わせていなかったんだと思う。

じゅんくんを救うはずのキスだったのに、気が付けばキスに夢中になっている自分に驚いた。


柔らかな唇の感触と、蕩けるようなじゅんくんんの表情に、堪え切れない程の何かが奥底から湧き上がってきた。


俺…なんで?

あんなキスした?

じゅんくんを救いたい一心だったはずが、気が付けばキスに夢中になってて、

もうそれは、救うためとかじゃなくて…
ただ、じゅんくんとのキスに酔いしれていただけだった。


じゅんくんに止められなければ…

俺、じゅんくんに…なにしてた?











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