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36話 痛みを癒して

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36話 痛みを癒して



惇希side


体中が痛くて、ぎゅっと心臓を握りつぶされそうな激痛で目を覚ました。

『う゛っ、あ゛っ…はぁはぁっ…』
カラダは自分のものではないみたいに、動かすことすらできなくて、それでも、かろうじて瞳だけは開けることが出来た。瞼を開くと俺はホテルの部屋にいた。

目の前には雪と大輝と透弥が居て、雪が泣いていた。

『…雪?…どうした?…なんで…泣いてるの?』泣いている雪の頭を撫でてやりたかったけど、手を伸ばすことすらできなかった。

『じゅんくんのばかっ!!ばかばかっ!!廊下で倒れてて…誰も気が付かなかったら…どうすんの!!藤野くんが、探しに行かなかったら…グスっ…どうするつもりだったのっ!!もうっ!!…グスっ…ばかっ!!』

ベッドに縛り付けられている俺に、覆いかぶさるように、俺の事を布団の上からぽかぽかと殴った雪は、涙でぐしょぐしょだった。


『ごめんな…心配かけて…もう、大丈夫だから…夜公演間に合わなくなるからっ、行こっ』

俺が言うと、三人は下を向いて黙った。

ん?…
サイドテーブルの上に置いてあるデジタル置時計を見ると、22時を回っていた…

『なんでっ!!なんでっ!!起こしてくれなかったんだよ!!…痛っ…う゛っ…』

俺は怒りで起き上がろうとしたけど、少し上体を起こしただけで、起き上がることなんて出来なかった。


『無理だったでしょ?…動けないだろ?…もう…限界…なんだよ…じゅんくん』

大輝が瞳を潤ませて言った。
まだ…できるっ!!まだ踊りたい!

透弥とカンパニュラを踊りたいっ!!

『あっ…カンパニュラは?』

俺が聞くと

『藤野くんがひとりで踊ったよ。寂しそうだった…僕じゃダメだから…やっぱり、僕じゃダメだから。…やっぱり、僕たちは付き合うの止めるからっ!だから、じゅんくん、元気になってよ…』
雪がぽろぽろと涙を零して、大きな瞳からはずっと大粒の涙が流れてた。


『っう゛っ…はぁっ…う゛っ…』

また、込み上げる吐き気と激痛に、堪え切れない苦痛の声が漏れる。

『う゛っ…あぁっ…はぁ、う゛っ…』

透弥は咄嗟に雪を押しのけて俺の背中を撫でた。

それを見た大輝は、雪をそっと自分の方へ引き寄せて

『…雪、行こ。部屋に戻ろう?…ふじさん。あと、頼んだよ。…雪は、大丈夫。俺に任せて。雪の扱いなら俺が一番わかってる。だから…今は、じゅんくんと一緒に居てあげて。』

ぽろぽろと涙を流す雪の肩を抱いて、大輝は俺たちの部屋を出ていった。

左手に激痛が走ってて、小さな芽が皮膚を突き破って、生えていた。


まだ、小さなその芽をぎゅっと握って、透弥に見えないように隠した。

込み上げてくる吐き気に襲われて、もう…動けなかった。
いよいよ、隠すことすら難しくなっていた。

そろそろ…限界だな…。

認めたくなかった…、まだ出来ると思ってたし、最後まであきらめたくなかった。

でも…もう、カラダは…確実に限界だった。

『…じゅんくん…俺、じゅんくんと踊りたい…、ひとりで踊って、寂しかった。俺の隣にはじゅんくんがいないと…ダメなんだ…』

透弥は今にも泣きだしそうな顔してた。


『…俺も…踊りたかった…でも、もう、カラダ…動かないみたいだ…ごめん。…あと、少しなのに…あと、たったの2公演なのに…』


悔しくて、悲しくて…


涙が溢れてた


『俺の隣って…いつも、じゅんくんが居たし…やっぱ、じゅんくんじゃないと…楽しくない』

俺の頬を伝う涙を、透弥の指が拭って

『…うん…俺も透弥と踊るのが楽しい…』


涙を拭っていた手は、俺の髪を撫でて子供に言い聞かせるみたいに
『あと、2公演…一緒に踊ろ?』って優しく言った。



『…踊りたいけど…もう、動けない…。ごめん…。もう、限界…みたいだ…。』

『大丈夫、俺がシてあげる』

透弥の瞳は強く光を放った。

え?

透弥の唇がそっと重なって、透弥の舌が口内に侵入してくる。

くちゅくちゅと唾液が混ざって、舌先が絡み合う。
戸惑っていられないくらいに満たされて、どちらのものかわからないくらいに交ざり合う。

その唾液をコクンって、飲み込むと…

すぅーっと、カラダが軽くなっていった。
あぁ…この感覚、透弥の魔法にかけられているんだとカラダが感じ始めてた。

それでも、胸の痛みはまだ残っていて、動く様になった手でそっと胸を押さえた。


『大丈夫…今、痛くなくなるから…。痛いの無しくてあげる』

そう言うと透弥は、再び唇を重ねて、唇を割ってねっとりと絡みつくようなキスをした。

舌先を擦り合わせるように、動く舌が気持ちよくて、口内を探る様に俺の口内を支配する透弥の舌が気持ち良くて、頭がぼーっとしてくる。


俺の上に跨って、俺にたくさんキスを降らせる透弥にもう迷いはない。

透弥の手が俺のシャツのボタンを外していくのすらも、魔法みたいで、キラキラの光が現われてはらはらと着ていたものが脱がされた。

そんな魔法をかけられながら、気が付けば透弥も服を脱いでいた。
下から見上げると、何度も見ていた透弥の裸はまるで別のものみたいに、大きくて逞しかった。

大きな上半身に包まれるみたいに肌と肌がピタッとくっつくと、肌から伝わる温度が、胸の痛みが少しづつ癒されていった。

透弥が心配そうに
『まだ痛む?…もっと、気持ちよくしてあげるから、大丈夫。痛くなくなるまで…シてあげるから…。もう、あんな苦しそうな顔見たくない…』


透弥の大きな手が俺の肌をなぞっていく。

ズキズキと痛む心臓の上に手が置かれると、育っていた、真っ青な薔薇の芽がその成長を止めるみたいに、痛みが和らいでいった。


薄くなってしまった皮膚の下に花斑が現われているのを見られたくなかった、でも、隠しようもなくくらいに浮かび上がっている花斑をまるでなぞるみたいに、指先で俺に触れていく透弥。

…もう、気づいてしまった?

俺が苦恋花病だってこと?
気が付かないはずはないだろう。

花斑は見えているはずなのに、それなのに、俺の肌をするすると撫でる様に愛撫していく大きな手が首筋や鎖骨や脇腹を何度も心地いいを与えていった。

全身を撫でられて、透弥の器用な指先が胸の突起に触れた時、お腹の奥の方がきゅんと疼いた。

今まで感じたこともないような、その感覚に腰が自然と揺れていた。

キスされて、頭ぼーっとしてて、痛みと快感の狭間で揺れてて

透弥が、俺の手にそっと触れた。

手の掌からはもう芽が出ている…慌てて、ぎゅっと握って隠したけど、握った手の掌を透弥の手がそっと包んだ。

それは、大丈夫だよって全部わかって包み込んでくれる大きな優しさみたいなものに感じた。

ヒリヒリと痛んでいた手の掌は、透弥に握られて痛みが消えて行き、代わりに胸の鼓動がトクトクと鳴った。

魔法にかかったみたいに、体中の痛みが少しずつ癒されていって、心がほわぁっと温かくなっていった。

全身を撫でられて、胸の飾りを中指で転がされると


『はぁっ…はぁ、ンンっ♡…はぁ、』


思わず声が漏れて、気持ちいいに支配されてた。


『気持ちいい?』って、見透かされてるみたいに聞かれて

『はぁん♡…うんっ…気持ちいいっ…』
素直に答えてた。
いつもなら、素直になれないのに…
頭で考えるよりも先に言葉が出ていた。


『うん、もっと気持ちよくなろ?痛いのなんて、忘れちゃうくらいに…。じゅんくんの痛いのが…消えていくように…。』



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