青より青く

白夜

文字の大きさ
上 下
29 / 60

29話 優しくて残酷

しおりを挟む
29話 優しくて残酷



惇希side



透弥のキスに救われて、本番に間に合った。

ライブが始まると、足の痛みは多少チクチクと痛むものの、どうにか笑顔で踊れた。

もう何度透弥に助けられているのだろう。


ステージで俺と対角線上にいる透弥は、時々視線を俺に向け、俺の状態をしつこいくらいに確認してくる。


何度も【大丈夫っ!!】って、目で合図すると

うん、って笑顔で答える透弥

こいつ、いつからこんなに心配症になったんだ?

視線を感じて見てみると、透弥と目が合うというやり取りを何度しただろう。

終盤の【カンパニュラ】俺たちの見せ場だし、すごく盛り上がる。

俺の負担を考えて、フリが変更されてしまったけど、透弥はなにも言わなかったし、何も聞いて来なかった。
ただ、『わかった』とだけいって、一緒にダンスを合わせた。

他のクルーからは、以前のフリの方が良かったと指摘されたけど、振付の屋良さんが上手いこと言ってかばってくれたおかげで、みんなも納得したみたいだ。

皆、屋良さんが言うならとそれ以上は何も言わなくなってた。

俺だって、本当は…最初のフリの方が気に入ってる。その方が楽曲に合ってたし、切なさや感情が伝わりやすかった。
でも、もう…そのフリでは踊れない…。

カラダが持たない…。
飛んだり跳ねたりの抑揚がすごいダンスだったから…もう、踊れない。

透弥と踊る【カンパニュラ】

切ないイントロが流れて、暗転するステージに歌い手のゆうまさんと俺と透弥、三人だけのステージが始まる。

ステージでメバリされたところに座っていて、立ち上がる時にふらっとよろけてしまったのを、透弥が慌てて支えに来てしまった…

そこから、俺を支える様に踊っていて

常にカラダのどこかが透弥に触れていた。

決められた振付じゃなかった。もう、そうするしかなくて、それでも、長い付き合いの俺たちだから、何となくお互いの空気感や動きを先読みしながら、ふたりで踊り切った。

たぶん、支えてもらっていなければ…

俺は、一曲踊り切ることは難しかったかもしれない…

【カンパニュラ】のラスト、ほんとなら死にゆくカンパニュールの俺は、ステージ袖へはけていき、残されたフローラの透弥はひとりステージで苦しみの中、うずくまって暗転して終わるはずだった。

でも、ふらつく俺はステージ袖に上手くはけられず、透弥は俺を抱くようにしゃがみ込み、抱き締めて亡くなってしまったカンパニュールへの感情をうまく表現した。


そして、暗転すると同時に俺を抱えて、ステージ袖へ戻っていった。

息が上がってしまった俺を衣装ブースへそのまま連れて行って、そのままキスをくれた。

優しいキスを何度もくれて、お前は…なんでキスをくれるんだ?

なんで?
なんでキスする?

のど元まで出かけた言葉をのみ込んだ。

なんで?なんて聞いてどうする?

俺の事が好きか?って聞くのか?

俺の事が好きなら、きっとこの苦恋花病は治ってる

でも、治ってない。

日に日に体力が落ちているのは、カラダの中で刻一刻と大きくなっていく、花に栄養を吸い取られているから…

だから、なんで俺にキスをするんだ?なんて質問は…無用なのだと思う。

でも、あと少しだけ…

そのキスをくれないか?

あと、4公演。

新潟が終われば…全て終わるから。

あと、たった4公演。

透弥…お前と踊りたい。
最後までふたりで【カンパニュラ】踊ろう。

衣装ブースで、衣装に隠れてキスをした。
誰にも見られないように…

透弥が俺を抱きかかえて、くれるキスは…

甘くて…

優しくて…

苦しくて…

切ない。

俺を助けてくれるキスは、優しくて残酷だ。

助けてくれているのに…命は助けてはくれない。

それでも、いい…。

あと少し、だけ。

だから…
『…っとうや…ハァ、あと4公演。最後まで踊りたいっ。はぁっ…』

『…うん。』
透弥は目を細めて苦しそうな顔をした。

『お前と…踊りたい…』
絞り出した心の声に

『わかってるよ。もう、なにも言わなくていいよ。一緒に踊ろう、最後まで。』

そう言って、

透弥はそっと、俺の唇に唇を重ねた。

ふわっと温かな感触に、心まで溶けてしまいそう

唇を割って、透弥の舌が口内に入り込む。
ちゅっ…くっちゅ…っちゅ。

舌先で歯列をなぞったかと思えば、唇舐められて、そっと唇を甘噛みされて、まるで恋人みたいなキスをする。

優しいキスは、俺たちの次の出番まで続けられた。

キスに夢中だったのは…俺だけじゃないと思いたい。

それは、とっても優しくて、残酷な程に甘いキスだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

【完結】雨上がり、後悔を抱く

私雨
ライト文芸
 夏休みの最終週、海外から日本へ帰国した田仲雄己(たなか ゆうき)。彼は雨之島(あまのじま)という離島に住んでいる。  雄己を真っ先に出迎えてくれたのは彼の幼馴染、山口夏海(やまぐち なつみ)だった。彼女が確実におかしくなっていることに、誰も気づいていない。  雨之島では、とある迷信が昔から吹聴されている。それは、雨に濡れたら狂ってしまうということ。  『信じる』彼と『信じない』彼女――  果たして、誰が正しいのだろうか……?  これは、『しなかったこと』を後悔する人たちの切ない物語。

余命三ヶ月、君に一生分の恋をした

望月くらげ
青春
感情を失う病気、心失病にかかった蒼志は残り三ヶ月とも言われる余命をただ過ぎ去るままに生きていた。 定期検診で病院に行った際、祖母の見舞いに来ていたのだというクラスメイトの杏珠に出会う。 杏珠の祖母もまた病気で余命三ヶ月と診断されていた。 「どちらが先に死ぬかな」 そう口にした蒼志に杏珠は「生きたいと思っている祖母と諦めているあなたを同列に語らないでと怒ると蒼志に言った。 「三ヶ月かけて生きたいと思わせてあげる」と。 けれど、杏珠には蒼志の知らない秘密があって――。

奇病患者は綺麗に歌う

まこと
BL
ある街の郊外の大きな病院。 そこは、普通の患者ではない、 特定の患者だけが入院している病院だった。 そこに彼はいる。 そこで彼は歌うのだ___ 酷く綺麗な声で ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ BL作品です。 奇病患者とその担当医の話です。 シリアスや暗い場面があるので、苦手な方は注意してください。 ※占いツクールでも活動しているのですが、そこで私が書いている作品をのせているので、無断転載等ではありません。

恋した貴方はαなロミオ

須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。 Ω性に引け目を感じている凛太。 凛太を運命の番だと信じているα性の結城。 すれ違う二人を引き寄せたヒート。 ほんわか現代BLオメガバース♡ ※二人それぞれの視点が交互に展開します ※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m ※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です

[BL]王の独占、騎士の憂鬱

ざびえる
BL
ちょっとHな身分差ラブストーリー💕 騎士団長のオレオはイケメン君主が好きすぎて、日々悶々と身体をもてあましていた。そんなオレオは、自分の欲望が叶えられる場所があると聞いて… 王様サイド収録の完全版をKindleで販売してます。プロフィールのWebサイトから見れますので、興味がある方は是非ご覧になって下さい

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

処理中です...