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29話 優しくて残酷

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29話 優しくて残酷



惇希side



透弥のキスに救われて、本番に間に合った。

ライブが始まると、足の痛みは多少チクチクと痛むものの、どうにか笑顔で踊れた。

もう何度透弥に助けられているのだろう。


ステージで俺と対角線上にいる透弥は、時々視線を俺に向け、俺の状態をしつこいくらいに確認してくる。


何度も【大丈夫っ!!】って、目で合図すると

うん、って笑顔で答える透弥

こいつ、いつからこんなに心配症になったんだ?

視線を感じて見てみると、透弥と目が合うというやり取りを何度しただろう。

終盤の【カンパニュラ】俺たちの見せ場だし、すごく盛り上がる。

俺の負担を考えて、フリが変更されてしまったけど、透弥はなにも言わなかったし、何も聞いて来なかった。
ただ、『わかった』とだけいって、一緒にダンスを合わせた。

他のクルーからは、以前のフリの方が良かったと指摘されたけど、振付の屋良さんが上手いこと言ってかばってくれたおかげで、みんなも納得したみたいだ。

皆、屋良さんが言うならとそれ以上は何も言わなくなってた。

俺だって、本当は…最初のフリの方が気に入ってる。その方が楽曲に合ってたし、切なさや感情が伝わりやすかった。
でも、もう…そのフリでは踊れない…。

カラダが持たない…。
飛んだり跳ねたりの抑揚がすごいダンスだったから…もう、踊れない。

透弥と踊る【カンパニュラ】

切ないイントロが流れて、暗転するステージに歌い手のゆうまさんと俺と透弥、三人だけのステージが始まる。

ステージでメバリされたところに座っていて、立ち上がる時にふらっとよろけてしまったのを、透弥が慌てて支えに来てしまった…

そこから、俺を支える様に踊っていて

常にカラダのどこかが透弥に触れていた。

決められた振付じゃなかった。もう、そうするしかなくて、それでも、長い付き合いの俺たちだから、何となくお互いの空気感や動きを先読みしながら、ふたりで踊り切った。

たぶん、支えてもらっていなければ…

俺は、一曲踊り切ることは難しかったかもしれない…

【カンパニュラ】のラスト、ほんとなら死にゆくカンパニュールの俺は、ステージ袖へはけていき、残されたフローラの透弥はひとりステージで苦しみの中、うずくまって暗転して終わるはずだった。

でも、ふらつく俺はステージ袖に上手くはけられず、透弥は俺を抱くようにしゃがみ込み、抱き締めて亡くなってしまったカンパニュールへの感情をうまく表現した。


そして、暗転すると同時に俺を抱えて、ステージ袖へ戻っていった。

息が上がってしまった俺を衣装ブースへそのまま連れて行って、そのままキスをくれた。

優しいキスを何度もくれて、お前は…なんでキスをくれるんだ?

なんで?
なんでキスする?

のど元まで出かけた言葉をのみ込んだ。

なんで?なんて聞いてどうする?

俺の事が好きか?って聞くのか?

俺の事が好きなら、きっとこの苦恋花病は治ってる

でも、治ってない。

日に日に体力が落ちているのは、カラダの中で刻一刻と大きくなっていく、花に栄養を吸い取られているから…

だから、なんで俺にキスをするんだ?なんて質問は…無用なのだと思う。

でも、あと少しだけ…

そのキスをくれないか?

あと、4公演。

新潟が終われば…全て終わるから。

あと、たった4公演。

透弥…お前と踊りたい。
最後までふたりで【カンパニュラ】踊ろう。

衣装ブースで、衣装に隠れてキスをした。
誰にも見られないように…

透弥が俺を抱きかかえて、くれるキスは…

甘くて…

優しくて…

苦しくて…

切ない。

俺を助けてくれるキスは、優しくて残酷だ。

助けてくれているのに…命は助けてはくれない。

それでも、いい…。

あと少し、だけ。

だから…
『…っとうや…ハァ、あと4公演。最後まで踊りたいっ。はぁっ…』

『…うん。』
透弥は目を細めて苦しそうな顔をした。

『お前と…踊りたい…』
絞り出した心の声に

『わかってるよ。もう、なにも言わなくていいよ。一緒に踊ろう、最後まで。』

そう言って、

透弥はそっと、俺の唇に唇を重ねた。

ふわっと温かな感触に、心まで溶けてしまいそう

唇を割って、透弥の舌が口内に入り込む。
ちゅっ…くっちゅ…っちゅ。

舌先で歯列をなぞったかと思えば、唇舐められて、そっと唇を甘噛みされて、まるで恋人みたいなキスをする。

優しいキスは、俺たちの次の出番まで続けられた。

キスに夢中だったのは…俺だけじゃないと思いたい。

それは、とっても優しくて、残酷な程に甘いキスだった。

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