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24話 強がりで嘘つき

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24話 強がりで嘘つき


惇希side


広島は2日間で4公演。
日常生活を送るのも、やっとになっていた。

日に日に強くなる胸の痛みは、おそらく心臓から芽を出した薔薇がすくすくと綺麗な花を咲かせるために、養分を吸い取り心臓を圧迫している証拠。

手の掌の花斑は濃くなり、手の掌からは今にも皮膚を突き破り芽が出て来そう。
ズキズキと痛みは増していた。

足の裏の芽もじわじわと足につるを伸ばし、足首を覆うように巻き付いて、歩く度に激痛が弱ったカラダをさらに痛めつけた。

病院でもらった気休めにもならない痛み止めを飲んで、暗示をかけることしかできない。

よく効く薬だから、一度飲めばライブが終わるまで大丈夫!
この、薬を飲めば、痛みが消える…
そう言い聞かせて、ライブに臨んだ。


ライブが始まる前に、演者やスタッフみんなで円陣を組んで、

『残り4公演です!最後まで突っ走っていきましょう!盛り上がれんのか?』

『俺ら次第や!!おーーっつ!!』

掛け声と同時に、一斉にスタート位置についた。透弥は俺に
『大丈夫?無理してない?ほんとにダメなら…』

俺は、透弥の言葉を遮るように
『残り4公演楽しんでいくぞ!!頼んぞ!俺のバディだろ?ふたりで楽しまなくちゃ!!』
精一杯強がって言った。

『………』
俺の強がりをきっとわかってる
そんな雰囲気を透弥から感じたけど、透弥がそっとしておいてくれるなら…

気が付いてないフリをしてくれるなら

そのまま、このまま
頑張ろう!

なぁ、透弥。

俺と踊れるのも、あと4公演なんだぞ。

あと4公演…俺と踊りたいだろ?

俺たち最高のバディなんだから!!

お前の隣で踊るのは、俺がいいってそう思わせられるように、最高に楽しい時間をふたりで過ごそう!

『ほんとに…』
透弥はきっと、もう一度俺の体調を確認しようとしてたんだと思う。
それでも、それをさせない!

『透弥!!行こっ!最高の俺たち見せてやろう!!』

透弥は少し黙って、それから俺に最高の笑顔をくれた。
俺の大好きな優しい笑顔…それなのに強い笑顔。
何度この笑顔に助けられて、何度この笑顔にときめいたのだろう。

眩しすぎるくらいの笑顔が、俺の胸の中の薔薇を大きく育てていく。

『おう!俺とじゅんくんの最高のステージみせてやろう!!』

ステージへ向かって、走り出した。
ズキズキと歩く度に肌に食い込むトゲは、ここがステージの上なんてお構いなしに、俺に苦痛を与え続ける。

それでも、俺は笑顔で踊り続けた。

隣には透弥がいるから。

そして、【カンパニュラ】を踊る。
ふたりで踊る悲しいラブソング。

足を着いた痛みで苦痛に歪んでしまった表情に、透弥が俺を心配の眼差しで見ながら踊る。

絡み合う視線は、この曲のせいだろう。
いつもより柔らかく、俺に触れるのはこの苦痛に歪んでしまった表情のせい?

振付の屋良くんに頼んで、フリを変えてもらった。飛んだり跳ねたりが少ない構成にしてもらうことが出来たけど…

やっぱり、最初のフリの方が良かったと踊りながら思った。それでも、今のフリじゃなきゃ…この痛みに耐えることが出来なくて

最高のものを届けられない、自分に悔しさを覚えた。

激痛に耐え、自分を誤魔化してどうにかライブが終えた。


やり切った高揚感で溢れかえる控室を通り過ぎ、シャワーを浴びて、お決まりの医務室へ向かった。

『はぁっ…う゛っ…あ゛っ…はぁっ…』

ライブ中でも激痛だったが、耐えることが出来ていたのに、今は歩く度に激痛で苦痛の声が漏れてしまう。

お決まりの医務室が、やけに遠くに感じた。一歩踏み出す度に、トゲが絡みついて、皮膚を傷つけズキズキと、俺に痛みを与える。

一歩、一歩が地獄へ向かっているかのような痛みだ!

さっきまで踊れたのに、今は歩く事すら苦痛で仕方がない。

廊下の壁に手を這わせて、壁伝いに医務室へゆっくりと足を進めると

『限界…なんじゃない?』って、透弥が俺の腕を肩にかけて、俺を抱きかかえた。
そのまま、あっという間に医務室に連れて行かれて、ベッドへ寝かされた。

正直…限界なのかもしれない。


それでも、【強がり】と【嘘つき】の称号を守るために

『全然、大丈夫だしっ!!こんなの余裕だしっ///』

精一杯強がって見せた。

『もう…頑張るのやめて…、見てられないっ…俺が耐えられない!!』

そう言った透弥の表情は、苦しそうで辛そうで、俺よりもギリギリに見えた。

それから透弥は、俺を抱きよせてキスをした。
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