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23話 あと少し、あと少し

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23話 あと少し、あと少し


惇希side



『……まだ…できる…っ…まだ、踊れるっ…だいきっ…俺、まだっ…できるっ…う゛っぅっ…』


大輝は、泣きじゃくる俺の頭をただ黙って、撫でてくれた

『あっ!!…あれは?…【カンパニュラ】どうした?俺が居なくて…誰と踊った?』

大輝は、何とも言えない顔して
『ふじさん…ひとりで踊ったよ。…誰もが、じゅんくんの代役を立てようって言ったのに…じゅんくん以外とは踊らないって言い張って、じゅんくんが居ない分も、自分が補うからって…ボーカルのゆうまくんを説得して、振付師の屋良さんとフリ考えて変更して…ひとりで、踊りきったよ。…すごく、悲しい【カンパニュラ】だった…』

『…じゅんくん…もう、これ以上…無理じゃない?病院行こう!もう、隠しきれないよ!!今日はどうにか誤魔化したけど、こんなのが続いたら…もう、誤魔化せない』

大輝は言いにくそうに、俺に言った。

『無理じゃない!まだ…、まだできる!踊れるっ!!見てみろって!踊れるからっ』

俺は立ち上がった瞬間、激痛に崩れ落ち、足の裏を見ると…

足の裏からは、皮膚を突き破って芽が出て来ていた。茎にはトゲがあって、足を着くとそのトゲが刺さり、激痛が走った。

『う゛っ…』

『…じゅんくん…それっ///…もう、無理…だよ』

『大輝っ!!なにも言う!大丈夫だから!!…あと、4日…広島と新潟…8公演だけだから…。誰にも言うなよっ!!頼む!もう、こんなへまはしない!!』

『でも、無理だろ!!それで踊れる?無理でしょ?歩くだけでも痛いんじゃない?』

『こんな…の…、なんでもないっ!!大丈夫!!まだ、まだできる!!』

【強がり】って、言われてもかまわない。
あと少し、透弥の隣の俺の居場所を、透弥が残しておいてくれたから…

その思いに全力で応えるだけ。


あと4日…
たった、8公演…頑張るだけ。

たった…8公演…。

それで、終われる。


それで、終わる。

『…大輝…頼む。あと、8公演…踊らせてくれ!頼むっ!!』

『頼む、踊らせてくれって言われても、踊れる?これ以上、公演に穴開けられないよ?』

『大丈夫…耐えてみせるから!みんなの前では絶対にバレへないようにする。幸い、足の裏の芽はまだ小さいし、靴下履いたら全然バレない…』

大輝は、俺の足を持って足の裏に生えて来た薔薇のまだ小さな芽を、凝視してトゲに触れた。

大輝がその小さな芽とトゲに触れ、ぎゅっと握ると、大輝の指から真っ赤な血が滲んだ。

『少し力を入れただけで、このトゲで血がでるんだよ?それでも踊れる?この痛みに耐えながら踊れるの?』


俺は、ゆっくりと立ち上がりその場で【カンパニュラ】の始まりの一節を踊って見せた。
激痛に耐えながら、見て欲しかった。
俺が耐えられるって、まだ出来るって…大輝にわかって欲しかった。

動く度に足に食い込むトゲが、ズキズキと痛み、飛んで着地すると、激痛がカラダを貫く。それでも、悲鳴をあげず苦痛に耐えたのは、この意志を大輝にわかってもらいたかったから…

ターンをすると、足からは血が滲んだ

『わかったっ!!わかったから!もうやめて!!じゅんくん!!』

大輝が俺を抱きかかえて、ベッドに座らせて、持っていたタオルで俺の足をぎゅっと包んでくれた。

『無茶して…、誰にも言わない…と言いたいところだけど…振付師の屋良さんにだけは…全部事情を話させてもらうから!俺、一人じゃ抱えきれない。負担の少ないフリにしてもらおう!!』

足を手当てしてもらい、俺は大輝に抱えられるように、ライブが終わったみんなの元へ向かった。

みんなは俺の体調を気遣ってくれて、口々に大丈夫か?とか無理すんなとか声をかけてくれた

温かいクルーのみんなに感謝しかなかった。
この業界で生き残るには、人を蹴落としてでもって人もたくさんいる中で、俺を待っていてくれる人たちに感謝した。

次の広島公演までは少し時間があるからって、みんんは俺を励ましてくれた。

『広島までには体調整えておきますっ!!すみませんでした!!』って、頭を下げて家に帰った。

歩く度にトゲが皮膚を傷つけて、チクチクと痛み、体は重く…胸が苦しい

痛みが俺にネガティブな思考を植え付けようとしても、俺は…

あと、8公演…透弥と踊る

それだけを目標に痛みに耐え、自分を奮い立たせた。

あと、8公演。
終わりのない痛みじゃない!

あと、8公演だけこの痛みに耐えればいいのだ。

あと少し…、あと少し…

何度も自分にそう言い聞かせた。


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