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21話 魔法使い
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21話 魔法使い
惇希side
浴室にぐったりと座り込んだ重たいカラダを、気力で持ち上げる。
服を脱ぐのもやっとで、どうにかシャワーを浴びて、戻ると、雪が心配そうに俺を見た。
『大丈夫…。…ちょっと、怖い夢を見てうなされてたんだと思う。寝不足気味なだけだよ』
『……じゅんくん、無理したらだめだよ。僕、頼りないかもしれへんけど…。辛いなら、辛いって言ってよ。』
『大丈夫だって!』
強がりは俺の得意技だから、全然平気。
これくらい、13年の片思いに比べたら、なんてことない!!
それから、胸の痛みを隠して通常モードで朝食食べて、リハを終えた。
本番までは、2時間空き時間があって、限界を迎えそうなカラダを少し休めるために
『俺、ちょっと医務室のベッドで仮眠してくるから。俺が起きてこなかったら、大輝っ!起こしに来て。頼んだぞ!!』
大輝を指名したのは、もし万が一、これ以上体調が悪くなって、花びらを吐いたりしていた時のための保険だった。
真っ青な薔薇の花びらに囲まれてる俺が、大輝以外の人に見られるのを避ける為だ!
もう、大輝には見られているから、一度見られるのも二度見られるのも一緒だ。
それなら、とことん助けてもらおう。
『…わかった。スマホ、持って行きな!!なんかあったら、すぐに電話して!すぐ行くから。電話するんだからね!』
大輝は何度も俺に念を押した。
大輝に念を押されて、スマホ持って医務室へ向かった。
医務室には誰も居なくて、簡易的なベッドが二台置いてあってカーテンで仕切られていた。
俺は奥のベッドへ沈み込むようにバタっっと横たわり
『はぁ~っ』と大きく息を吐いた。
どっと疲れがでて、カラダがベッドに押し付けられているみたいに重い。これから、本番だけど…俺、こんなんで踊れるのか?
…いや、踊る!
しばらくすると、ガチャって医務室のドアが開いて、誰かが入って来た。
シャッとカーテンが開いて、透弥が現れて
『体調悪いんだろ?仮眠じゃなくて…、カラダを休めに来たんだろ?』
そう言いながら、透弥はカーテンを閉めて、ベッドの横の椅子に腰を下ろした。
『全然違うね!!あんまり寝られなかったから…寝に来てんの!…それだけ!』
『本当に?』
透弥は心配そうに俺を覗き込む
『嘘、ついてどうすんのさ!!寝不足!寝不足!それだけだって!いつから、そんなに心配症になったんだよ?』
…嘘ついて、ごめんな。
でも、寝られなかったのは本当だから!
痛みでほとんど寝られてなくて、寝不足と苦恋花病の症状で、寝ることすらできなかった。
『もう、俺寝るから!どっか行けって!!仮眠取りに来たのに!寝られないって!!』
『俺も寝てこかな?』
『はぁ?』
ベッドに上がろうとする透弥を止めた
『おい!何してんだよ!!寝るのかまわないけど、隣のベッドも空いてるだろ?なんで一緒に寝るんだよ!!』
『こっちのが落ち着くんだもん!』
『はぁ?アホなこと言ってないで、隣のベッド行けって!』
俺に押しのけられて、渋々諦めた透弥は、また椅子に座って、ベッドに上半身をうつぶせた。
布団から出てた俺の手と、透弥の手が時々ぶつかって、全部の意識が右の小指に集まってしまう。
…おい、これじゃドキドキして、寝られないだろ!!
それでも、時々触れる小指から体温が伝わって、じんわりとカラダが温かくなっていく。
くっついたり、離れたりしていた指が、ずっと触れたままになって、絶え間なく注がれる透弥の体温を感じていた。
ズキズキと胸が痛むんじゃなくて、胸がトクントクンと鼓動を打った時、するすると透弥の指が俺の指に絡んだ。
え?って、困惑している暇もなく
『ねぇ~、病気…なの…?』
って、小さな声で、透弥は瞳を閉じたまま、問いかけられて…
一瞬、なにもかも話してしまおうかと思うくらいに、優しい声だった。
『……違うよ…。…病気…じゃ、ない…。』
やっとの思いで、嘘を吐き出すと。
『…嘘つき…』
そっと絡んでいたはずの指先にぐっと力を込める透弥
『…………』
言い訳すればよかったのに、【嘘つき】って透弥の言葉がチクチクと刺さって、もうそれ以上何も言えなくなってた。
目を閉じたままの透弥は、そのままピクリとも動かずに、ただ俺と指を絡めてた。
嘘つき、っていった透弥の言葉は、俺を責めるでもなく、怒っているのでもなく…
ただ、静かに騙された悲しみの色をした静かな声だった。
俺は【強がり】と【嘘つき】の称号を手に入れて、透弥を騙した。
それでも、透弥が指を絡めて、魔法をかけてくれる
『…じゅんくん、少し休もう…。次のステージ、踊れるように…』
手から伝わる温もりと優しさに、溶けていくように、穏やかに胸の痛みがすぅ~っと引いていった。
俺も、静かに目を閉じた。
じゅんくん…じゅんくんって
俺を呼ぶ声が耳に残っていて、その優しい声に包まれて、眠った。
カラダがどんどん軽くなっていく不思議な感覚と、温かな透弥の体温に包まれて…
って?
おいっ!!
だからっ!!なんでお前は…
俺と一緒に寝てんだって!!
医務室の狭いシングルベッドでふたりで寝るのは無理があるだろ!!
『おきろっ!!重たいって!!誰か来たらどうするんだよ!!』
『ふぁ~あ、仮眠完了!!よく寝たな!!お、じゅんくんの顔色もよくなってる!!すげ~』
そう言われて、見れば…
カラダも軽いし、体調もいい!
胸の痛みも消えている…
やっぱ、お前すごいな!!って関心してる場合じゃない!!
でも、おかげで本番しっかり踊れそうだ!!
ありがとうなんて、恥ずかしくて言えないから、その代わりに精一杯デカい声で言った。
『お前は、ほんとに何してんだよ!!』
どんな魔法で俺を元気にしたの?
魔法で俺の痛みを消したんだろ?
お前は、まるで魔法使いだな!!
惇希side
浴室にぐったりと座り込んだ重たいカラダを、気力で持ち上げる。
服を脱ぐのもやっとで、どうにかシャワーを浴びて、戻ると、雪が心配そうに俺を見た。
『大丈夫…。…ちょっと、怖い夢を見てうなされてたんだと思う。寝不足気味なだけだよ』
『……じゅんくん、無理したらだめだよ。僕、頼りないかもしれへんけど…。辛いなら、辛いって言ってよ。』
『大丈夫だって!』
強がりは俺の得意技だから、全然平気。
これくらい、13年の片思いに比べたら、なんてことない!!
それから、胸の痛みを隠して通常モードで朝食食べて、リハを終えた。
本番までは、2時間空き時間があって、限界を迎えそうなカラダを少し休めるために
『俺、ちょっと医務室のベッドで仮眠してくるから。俺が起きてこなかったら、大輝っ!起こしに来て。頼んだぞ!!』
大輝を指名したのは、もし万が一、これ以上体調が悪くなって、花びらを吐いたりしていた時のための保険だった。
真っ青な薔薇の花びらに囲まれてる俺が、大輝以外の人に見られるのを避ける為だ!
もう、大輝には見られているから、一度見られるのも二度見られるのも一緒だ。
それなら、とことん助けてもらおう。
『…わかった。スマホ、持って行きな!!なんかあったら、すぐに電話して!すぐ行くから。電話するんだからね!』
大輝は何度も俺に念を押した。
大輝に念を押されて、スマホ持って医務室へ向かった。
医務室には誰も居なくて、簡易的なベッドが二台置いてあってカーテンで仕切られていた。
俺は奥のベッドへ沈み込むようにバタっっと横たわり
『はぁ~っ』と大きく息を吐いた。
どっと疲れがでて、カラダがベッドに押し付けられているみたいに重い。これから、本番だけど…俺、こんなんで踊れるのか?
…いや、踊る!
しばらくすると、ガチャって医務室のドアが開いて、誰かが入って来た。
シャッとカーテンが開いて、透弥が現れて
『体調悪いんだろ?仮眠じゃなくて…、カラダを休めに来たんだろ?』
そう言いながら、透弥はカーテンを閉めて、ベッドの横の椅子に腰を下ろした。
『全然違うね!!あんまり寝られなかったから…寝に来てんの!…それだけ!』
『本当に?』
透弥は心配そうに俺を覗き込む
『嘘、ついてどうすんのさ!!寝不足!寝不足!それだけだって!いつから、そんなに心配症になったんだよ?』
…嘘ついて、ごめんな。
でも、寝られなかったのは本当だから!
痛みでほとんど寝られてなくて、寝不足と苦恋花病の症状で、寝ることすらできなかった。
『もう、俺寝るから!どっか行けって!!仮眠取りに来たのに!寝られないって!!』
『俺も寝てこかな?』
『はぁ?』
ベッドに上がろうとする透弥を止めた
『おい!何してんだよ!!寝るのかまわないけど、隣のベッドも空いてるだろ?なんで一緒に寝るんだよ!!』
『こっちのが落ち着くんだもん!』
『はぁ?アホなこと言ってないで、隣のベッド行けって!』
俺に押しのけられて、渋々諦めた透弥は、また椅子に座って、ベッドに上半身をうつぶせた。
布団から出てた俺の手と、透弥の手が時々ぶつかって、全部の意識が右の小指に集まってしまう。
…おい、これじゃドキドキして、寝られないだろ!!
それでも、時々触れる小指から体温が伝わって、じんわりとカラダが温かくなっていく。
くっついたり、離れたりしていた指が、ずっと触れたままになって、絶え間なく注がれる透弥の体温を感じていた。
ズキズキと胸が痛むんじゃなくて、胸がトクントクンと鼓動を打った時、するすると透弥の指が俺の指に絡んだ。
え?って、困惑している暇もなく
『ねぇ~、病気…なの…?』
って、小さな声で、透弥は瞳を閉じたまま、問いかけられて…
一瞬、なにもかも話してしまおうかと思うくらいに、優しい声だった。
『……違うよ…。…病気…じゃ、ない…。』
やっとの思いで、嘘を吐き出すと。
『…嘘つき…』
そっと絡んでいたはずの指先にぐっと力を込める透弥
『…………』
言い訳すればよかったのに、【嘘つき】って透弥の言葉がチクチクと刺さって、もうそれ以上何も言えなくなってた。
目を閉じたままの透弥は、そのままピクリとも動かずに、ただ俺と指を絡めてた。
嘘つき、っていった透弥の言葉は、俺を責めるでもなく、怒っているのでもなく…
ただ、静かに騙された悲しみの色をした静かな声だった。
俺は【強がり】と【嘘つき】の称号を手に入れて、透弥を騙した。
それでも、透弥が指を絡めて、魔法をかけてくれる
『…じゅんくん、少し休もう…。次のステージ、踊れるように…』
手から伝わる温もりと優しさに、溶けていくように、穏やかに胸の痛みがすぅ~っと引いていった。
俺も、静かに目を閉じた。
じゅんくん…じゅんくんって
俺を呼ぶ声が耳に残っていて、その優しい声に包まれて、眠った。
カラダがどんどん軽くなっていく不思議な感覚と、温かな透弥の体温に包まれて…
って?
おいっ!!
だからっ!!なんでお前は…
俺と一緒に寝てんだって!!
医務室の狭いシングルベッドでふたりで寝るのは無理があるだろ!!
『おきろっ!!重たいって!!誰か来たらどうするんだよ!!』
『ふぁ~あ、仮眠完了!!よく寝たな!!お、じゅんくんの顔色もよくなってる!!すげ~』
そう言われて、見れば…
カラダも軽いし、体調もいい!
胸の痛みも消えている…
やっぱ、お前すごいな!!って関心してる場合じゃない!!
でも、おかげで本番しっかり踊れそうだ!!
ありがとうなんて、恥ずかしくて言えないから、その代わりに精一杯デカい声で言った。
『お前は、ほんとに何してんだよ!!』
どんな魔法で俺を元気にしたの?
魔法で俺の痛みを消したんだろ?
お前は、まるで魔法使いだな!!
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