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16話 罪悪感と贖罪(しょくざい)

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16話 罪悪感と贖罪(しょくざい)




惇希side



北海道公演を終えて、次は宮城公演だ。


宮城のホテルは一泊で、雪と同じに部屋になった。


透弥の事さえなければ、雪とは気が合うし、おしゃべりしててもすごく楽しい、一番仲のいい後輩だ。



夜公演を終えて、透弥と雪は、またふたりで食事に行って、俺はひとり簡単に夕飯を済ませて部屋に戻ってた。

ひとりで過ごす時間は、苦しくて何をしていても透弥の事を考えてしまう。

苦恋花病になってからの方が、透弥を想っているような気がする。



手の掌の模様は、日に日に濃く色づいて、手の中に青い薔薇の花びらを握っているような状態になっていた。


手の掌を見つめながら、このままじゃ油断するとバレてしまうかもしれない


そう思うだけで、精神的にも疲弊していった。




―――気をつけなくちゃ…絶対にバレる訳にはいかない。



そんな事考えていたら、ホテルの部屋の外で雪の声が聞こえた。


丁度、ドアの前辺りでふたりで会話しているのか、雪の声は何をいっているのかさえよくわかるくらいだ。

『なんでっ!!まだ、部屋に帰りたくないっ!!』
雪が大声を出していた。

『明日も公演あるんだから。今日は大人しく、お互いの部屋に帰ろう。明日もまた会えるから。』
なだめるような口調の透弥に、明らかに雪はイラついているようだった。

『藤野くん!そればっかっ!!もういいっ!!』

雪の怒鳴る声が聞こえて直ぐに、ガチャと音が鳴って、部屋に雪が現れた。

不機嫌そうに、荷物を置いて、でも、悲しそうに瞳を潤ませていた。

『雪?どうした?透弥と喧嘩でもしたのか?』

堪らず声をかけると

『じゅんくんっ///…グスっ…グスっ…』

俺に抱き着き、グスグスと泣き始めた。

『透弥とけんかでもしたのか?』

『…僕が悪いってわかってるっ!でも、…』


どうやら、雪はもっと透弥と一緒に居たくて、駄々をこねたらしい。それを、透弥に諭されて納得がいかずに、あんな口調になって喧嘩腰になってしまったと、涙ながらに話してくれた。

雪の背中を擦りながら、雪の話を聞いていたら、

突然雪が俺の顔を見て

『藤野くん…まだ、ちゅーもしてくれない!!』
突然の雪の発言に戸惑いを隠しきれなくなる

『えっ?』

『付き合う前はふざけて、ちゅーするマネとかよくしてたのに…付き合ってから、そんなのもないし!いい雰囲気になりそうだったら、わざとふざけだして、そういう雰囲気壊すの!!なんで?なんで?僕、もう子供じゃないっ!!』

俺は、戸惑っていた。

先日の北海道で、透弥とキスしていたから…。

そんなこと、雪に言えるわけもなく、俺の中の罪悪感が、俺を苦しめる。

『…そっかぁ。』


大輝の言葉が頭をよぎった



【雪を悲しませたら、許さない】

俺は少し浮かれていたのかもしれない。

透弥とのキス、透弥に抱きしめられて…
少し、いい気になっていたのかもしれない。

雪もまた、付き合っても、なお、悩みを抱えている。

先日透弥とキスしてしまった、雪へのせめてもの罪滅ぼしに、
『雪は可愛いから、大切にしたいんじゃないかな?どうでもいいなら、テキトーにちゅーしちゃうんだと思う。でもさ、雪とのことちゃんと考えてるから、大切にとってあるんじゃないかな?』


雪を精一杯慰める。
それが、俺の雪への謝罪であり贖罪だ。

『そう…かな?』
泣いていた雪の顔は、少しはにかんで、露骨に嬉しさが隠し切れないと、そういう顔をした。
ホッとしている自分と、自虐的な言葉に胸を痛める自分がいた。

それでも、あのキスの罪は重いだろうと思っている。
そして、雪よりも先にキスしてしまった罪を、俺は受けなければならない。

『透弥ってさ、ああ見えても真面目だし。雪を大切にしたいんじゃないかな?』


『でも、もう一ヶ月も経つんだよ!付き合ってから!藤野くんてさぁ、もっと積極的でちょっとえっちだと思ってた!なんか、えっちとか上手そうだし、大人だから…なんか、すぐにでもえっちなことするんじゃないかって、思ってたから…余計に、手も出されなくて…焦ってる』

…ズキンっ…ぎゅーっと胸が締め付けられる

さすがに、ふたりのそんな話を聞くのは苦しくて、それでも、その罪に耐えなければと思った。

そっと胸の痛みを紛らわすために、胸に手を置いて、そっと擦った。

『ほら、ツアー中だし…初めてだと、次の日にも影響出るかもしれへないだろ?ちゅーしたらさ、雪は可愛いから途中じゃ止まらなくなるだろ?だからさ、ちゅーしないんじゃないかな?』

『ほんとに?そうかな…?』

大きなきゅるきゅるの瞳が、俺を見つめてて、慰サメの言葉に、気分は上がり始めていた

俺の中の隠し事を見透かされそうで、俺は思わず瞳を逸らしてしまった。

『大丈夫!雪が可愛いからに決まってる!ツアーが終わたらきっと、あいつ我慢できなくて直ぐにちゅーしてくれると思うよ。だって、雪は可愛いんだから。』


雪と透弥のキス…
思わず想像してしまった。

すると、ズキ、ズキと…胸が痛んで
一気に込み上げる吐き気…



う゛っ…


これっ、ヤバイっ…


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