青より青く

白夜

文字の大きさ
上 下
14 / 60

14話 キス、ちゅー、キス

しおりを挟む
14話 キス、ちゅー、キス


惇希side


もう少しだけ、透弥の寝顔を特等席で見ていたい。

俺だけの透弥を、もう少しだけ…

もう少し…

あと少しだけ…。

透弥の体温を感じて、誰よりも近くで透弥の寝顔を見ていたい。

透弥の寝息がかかるくらいに、すぐ近くに居るのに、目の前にはぷるぷるの唇があって、いつだってキスが出来る。

でも、できないのは…しないのは、勇気がないから。

こんなチャンスでさえ、自分のものに出来ない俺。

もし、雪よりも先に透弥に告白していたら?

雪と付き合わないで、俺と付き合ってって言っていたら?

今、ここで透弥にキスしたら?

なにか、変わっていたのかな?

~たら、~ればを繰り返しているだけじゃ、何も変わらない。

どうせ死ぬのなら…
たった一度だけ…

勇気を振り絞る

唇をじっと見つめて、透弥の寝息を確認して、透弥が眠っていることをしっかり確認した。

そして、眠っている透弥の唇にそっと口付けた。

直ぐに、くるっと寝返り打って、透弥に背を向けた。

ドクドクドクドクと心臓が、早鐘を打つ。

ほんの少し唇が触れただけなのに、こんなにも嬉しいのは…きっと、まだ…

いや、ダメだ。


これで、終わりにするって決めたのに。

それなのに、心は揺れてしまう。

人差し指で、透弥に触れた唇をなぞって、その感触に酔いしれた。

…あぁ…俺、やっぱ、まだ…
透弥の事、好きなんだ。

涙が出てしまいそうなくらいに、嬉しかった。

最初で最後のキス…。

透弥は知らない秘密のキス。


俺だけが知っている、秘密の出来事。

『…んん、…んっ…』
透弥の声が聞こえたかと思ったら、すぐに抱きしめられて、ハっとした。

え?

バレた?

焦ったけど、それから透弥は動くこと無くて、

…寝ぼけてるだけだった。

ホッと息を小さく吐いた。

俺を抱き枕にして、まだ眠っている透弥。

抱き締められる温もりを感じて、そのまま眠りに就いた。



朝、目が覚めると温もりはもう消えていて、いつもお決まりのルーティンのストレッチを、何事もなかったかのようにしている透弥がいた。

透弥は俺が目覚めた事に気が付くと、

『おはよぉ、体調どう?よくー寝れた?』

何事もなかったかのように振る舞う透弥。

透弥に、抱きしめられて眠った事や、

…その…

キスをした事…っ///

それらが、夢だったのかもしれないと思ってしまって、思わず唇に触れた。

今は、もう何の感触も残っていない唇に、少し寂しさを感じながらも、その柔らかな唇の記憶を辿る。


…キス、したよな?

確かに、この唇に透弥の柔らかなぷるぷるの唇が触れたよな…?


すると、
『ちゅーしたいの?』
突然の透弥の言葉に

『は?えっ?あっ…はぁ゛――!!な、なんでそんなわけあるかぁ!!』

意味のわかんない逆切れをすると

『そんな、切なそうな顔して唇触ってるからさ。ちゅーしたろかって思ったよ!ひゃははっ。妙にじゅんくん色っぽかったよ!』

透弥は元気な笑い声を響かせた。

…じゃあ…
『ちゅーしろよ!!』

あまりにも何も考えてない無神経な言動に苛立った。

どうせ俺の事なんか見てないくせに!

俺とキスなんてできないくせに!

そんな事ばっか言って、俺を喜ばせて堕としていく残酷なヤツ!

無邪気な奴こそ、たちが悪い!

俺の気も知らないで、【ちゅーしたろか】なんて、言うなよ!!

透弥はストレッチを止めて、じわじわと俺に近づいてきて、ほとんど身長が変わらないはずなのにその威圧感と気迫に押されて、すごく大きく感じた。

透弥の手がふわっと俺の頬を包んで、腰を抱き寄せられる。

え…?

ほんとに…?

冗談じゃなくて?


…キス…してくれるの?

『…じゅんくん…』

それはいつも聞いている声なんかじゃなかった…

少し濡れた艶っぽい声に、全身が痺れるほどに、ときめいた。

名前呼ばれるだけで、ぎゅって胸が掴まれて…

トクンって心臓の音が文字になって飛び出して来たみたいに、大きく跳ねた。

トクン、…トクン…ドクン、ドクン

俺の心臓の音がどんどん大きくなって

透弥の視線は俺を虜にして、今まで感じたことのないような、優しい眼差しで俺は見つめられて


ゆっくりと、近づいて来る唇に

数秒後のキスの未来を想像する。

それは、昨日したキスよりも、きっと、もっと幸せなキスなのだろう。

俺が勝手にするキスじゃない。

透弥がくれる、本物のキス。


『…じゅんくんっ…っ』

透弥の声が、俺の胸に溶けていく…。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛しているかもしれない 傷心富豪アルファ×ずぶ濡れ家出オメガ ~君の心に降る雨も、いつかは必ず上がる~

大波小波
BL
 第二性がアルファの平 雅貴(たいら まさき)は、30代の若さで名門・平家の当主だ。  ある日、車で移動中に、雨の中ずぶ濡れでうずくまっている少年を拾う。  白沢 藍(しらさわ あい)と名乗るオメガの少年は、やつれてみすぼらしい。  雅貴は藍を屋敷に招き、健康を取り戻すまで滞在するよう勧める。  藍は雅貴をミステリアスと感じ、雅貴は藍を訳ありと思う。  心に深い傷を負った雅貴と、悲惨な身の上の藍。  少しずつ距離を縮めていく、二人の生活が始まる……。

色狂い×真面目×××

135
BL
色狂いと名高いイケメン×王太子と婚約を解消した真面目青年 ニコニコニコニコニコとしているお話です。むずかしいことは考えずどうぞ。

【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました

及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。 ※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19

魚上氷

楽川楽
BL
俺の旦那は、俺ではない誰かに恋を患っている……。 政略結婚で一緒になった阿須間澄人と高辻昌樹。最初は冷え切っていても、いつかは互いに思い合える日が来ることを期待していた昌樹だったが、ある日旦那が苦しげに花を吐き出す姿を目撃してしまう。 それは古い時代からある、片想いにより発症するという奇病だった。 美形×平凡

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

【完結】下級悪魔は魔王様の役に立ちたかった

ゆう
BL
俺ウェスは幼少期に魔王様に拾われた下級悪魔だ。 生まれてすぐ人との戦いに巻き込まれ、死を待つばかりだった自分を魔王様ーーディニス様が助けてくれた。 本当なら魔王様と話すことも叶わなかった卑しい俺を、ディニス様はとても可愛がってくれた。 だがそんなディニス様も俺が成長するにつれて距離を取り冷たくなっていく。自分の醜悪な見た目が原因か、あるいは知能の低さゆえか… どうにかしてディニス様の愛情を取り戻そうとするが上手くいかず、周りの魔族たちからも蔑まれる日々。 大好きなディニス様に冷たくされることが耐えきれず、せめて最後にもう一度微笑みかけてほしい…そう思った俺は彼のために勇者一行に挑むが…

シャルルは死んだ

ふじの
BL
地方都市で理髪店を営むジルには、秘密がある。実はかつてはシャルルという名前で、傲慢な貴族だったのだ。しかし婚約者であった第二王子のファビアン殿下に嫌われていると知り、身を引いて王都を四年前に去っていた。そんなある日、店の買い出しで出かけた先でファビアン殿下と再会し──。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

処理中です...