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2話 苦恋花病

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2話 苦恋花病


惇希side


【苦恋花病】とは、花咲病と花吐き病の総称で、最近では両方を併発することが多く、その病名になったと言われている。

苦しい恋に花を吐き、体から美しい花を咲かせて死んでいく病。治るには、片思いの恋を実らせるしかないのである。

ウイルスなのか、細菌なのか…病原が全く解明されていない奇病である。


この奇病は、苦しい恋をしているのなら、綺麗に死ねる様にって、神様から贈り物なのかもしれない。

それでも、この奇病に罹り、その命を救う為に両想いになるケースもいくつも見られているため、一概に悪い事ばかりではないのかもしれない。


俺は、さっきの彼女が吐いた朝顔の花びらを一枚拾って、手のひらに乗せスマホで朝顔の花言葉を調べた。

朝顔の花言葉は【儚い恋】

彼女はきっと…儚い恋をしていたのだろう。

彼女は楽になったのだろうか…


苦恋花病で、吐いたり咲かせたりする花には意味があって、その人の置かれている状況で、吐いたり咲かせたりする花が違うらしい。


綺麗な朝顔の花びらが、風にのって舞って行った。


水色の空にひらひらと風に乗って、空高く舞っていく紫の朝顔の花びらをどこまでも見ていた。

すると、突然…むせかえるような込み上げるような胸の痛みを感じたかと思うと

『ゴホっ…ンンっ…ゴホっ…』

え?

慌てて口元を押さえた

手の平に異物感を感じて見てみると…



真っ青な薔薇の花びらが…

嘘だ…まさか…

俺が?

苦恋花病?…うそだ…!

慌てて、手の平の真っ青な薔薇の花びらを隠した、でも、周囲の人々はそんな俺を遠巻きに見ていて、俺を憐れむような、腫れ物に触るようなそんな冷たい視線を向けるだけだった。


俺は…苦恋花病なのか…?

その場から少しでも離れたくて、薔薇の花びらを握りしめて、走り出した。人波を掻き分けて、少しでもその場から離れたくて、必死で走った。

俺が、あの病に?



…信じられない…。


嘘だ!


でも、心当たりならある。


そう、先日俺は、告白もしていないのに、見事に失恋したところだ。


つい先日13年の片思いが失恋に変わったところだ。

苦恋花病は、想いが強ければ強いほど罹りやすいと、先日のニュースで言っていた。それは新たな発見だったらしく、連日テレビで放送されていた。

そんな発見…いらない!!


俺の想いが強いって?
今更…何言ってんだ!!
それもそのはず、もう13年にもなる。
馬鹿みたいに想い続けて…その、始末がこれだ!!

もう、どうにもならないだろ?

透弥の事はほんとに好きだ…
そして、雪の事も可愛い後輩だと思ってる。

ふたりの関係を壊したい訳じゃない!
俺が黙っていれば、ふたりは幸せになれる。
俺はふたりの友人のフリしてれば…よかっただけなのに…なんで…?

まだ、俺を苦しくさせるつもりなの?



いや…気のせいかもしれない。

気のせいだ!

気のせいだって思いたい。

たまたま、一度花びらを吐いただけかもしれない。

でも、花びらとは…たまたま、吐くようなものではない。

花びらを吐くってことは…やっぱ、苦恋花病か…

手の平に残った真っ青な薔薇の花びらを、ズボンのポケットに突っ込んで、瞳を閉じてからゆっくり息を吸い込んだ。

そして、何事も無かったように、俺はゆっくりと歩き出した。


何事もなかった様に、人混みに紛れて…


俺が苦恋花病だって、バレないように…周りの人達と同じ速度で歩いた。

ポケットに残っている、薔薇の花びらを捨てられなかったのは…

その薔薇の花びらの青がやけに綺麗で、今まで見たどんな薔薇よりも美しく、綺麗な青い色をしていたから…

何食わぬ顔して、大通りを歩いて家に帰った。

ポケットの中の花びらを、そっとテーブルの上に置いた。

それから、夕飯を食べても、お風呂に入っても…花を吐くことは無かった。

花を吐いたことが、幻だったのかもしれない。
そう思い始めた時、テーブルの上にある花びらが目に入った。

…幻じゃない。

夢でもない。

これは現実だ。


寝室までその花びらを持っていって、綺麗な青い花びらを眺めた。

綺麗だ…
こんなに綺麗なのに…

薔薇…って、花言葉なんだろ?

花言葉を調べると【美】や【愛】

ん?全然いい意味じゃん…って、思ったら、色によって意味が違っていた。
これは、一般的な赤い薔薇の花言葉で

青い薔薇の花言葉は【不可能】だった…

俺にふさわしい花言葉だなって、フッと鼻で笑ってしまった。

不可能…、そう、俺と惇希が結ばれるのは不可能

俺の恋が実るのは…不可能

不可能なんだ。

薔薇の花びらが、青さを増した様な気がした。



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