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45話 第4の物語②
しおりを挟む『…月が綺麗ですね…』
願いを込めて、君に届けとそう告げた。
君はぼーっと月を見つめて
何も言わずにそのままずっと月を見上げていた。
護衛の者が
『早く、舞えっ!!』と、急かすので
仕方がなく、いつもの様に唄いだした
その時だった!!
『っあ…う゛っ…う゛ぅっ…』
嗚咽にも似た泣き声が聞こえてきて、君の瞳からは大粒の涙がいくつも零れていた。
その瞳は、俺を見つめて…
俺の全てを映しているようだった。
そして
『君と…見ているからっ…う゛っ…奇麗なのかもね…』
思い出したんだね。
止まらない涙を見ながら、俺は唄い続けた。
その夜、お広間ではなく寝床に呼ばれた。
屋敷の奥へ通され、寝室にはすだれがかけられており、こちら側から声をかける
『歌丸でございます。』
『護衛の者も、今日はよい…。下がれ。そして、歌丸…中へ。』
すだれをくぐって寝室へ入る。
大きなふとんが敷かれて、そこに座る君…いや、将軍様と呼んだ方がいいのだろうか?
護衛もつけないということは、完全に俺信用しているという事だ。
探る様に言葉を発する
『…思い出されましたか?』
泣き虫な君は、俺の腕にすがり泣き出した。
『ごめんっ…やっと、思い出した…。また…忘れていたようだ…。本当に済まない…』
今の姿でそれをされるとなんだか複雑な気持ちになる。
『いいえ…思い出してくれたので…嬉しいです。』
苦笑いを浮かべる君
『なんだか…変な気分だ。君がそんな言葉を使うとまるで、他人みたいじゃないか?』
『この時代では、あなたの方が歳も上ですし、地位が上なので…仕方がないことです。』
ふぅとため息を漏らして、微笑している
『君は…いつから気が付いていた?』
『最初にお目にかかった時に気が付きました。』
『昔とこんなに容姿が違うのに?』
『ええ!姿は変わっても魂は変わっていませんから。』
にっこり笑うと
嬉しそうにする君
『今日、満月で気が付いたけど…ずっと、唄が気になってしかたなかった。初めて唄を聞いた日は興奮で眠れないほどだった…君が舞うのを見ていると心が燃えてしまうのではないかと思うくらいに、胸が熱くなった…』
瞳いっぱいに涙を浮かべる将軍様は…もう、あの日の君だった。
『抱きしめても…いいですか?』
苦笑いを浮かべて
『そんな言い方やめてくれ!…もちろん抱きしめて欲しいっ!!』
今の姿を見るとどこかチグハグに見えるかもしれない…でも、本質は変わっていないのだから…
『抱いて…くれるか?』
『もちろんです』
若造の身分の低い者に抱かれる将軍なんて…聞いたことない
それでも、俺たちにはそれが普通で
そうなる運命だ
唇を重ねる
心を通わせ、想いを伝える行為
舌を絡めると
何も変わらない快感がそこにある
触れる肌も、重ねる唇も…
何も変わらない
ただ、見た目が変わっただけ
肌と肌を合わせて、温もりを感じ合う
『…なんと、呼べばいいのだろう』
困惑している様子の将軍様
ふざけて
『晴れの君とでもお呼びになるつもりですか?』
ぷぷっとふたりで吹き出した。
笑い声が重なり合う。
『このカラダ…抱かれたことはない』
『では、私が初めてを頂きましょう。もう何度…君の初めてをもらっているのだろう。』
とろんとした瞳で俺をみる君
『何度でも、君にあげたい…』
ちゃんと覚えている
君の体を。
どこが気持ちいいのか、どこをどうすれば気持ちよくなれるのか
そんなの…手に取る様に分かるのだ
そして、また…君が可愛く甘い声で鳴くのを見られる
大切な宝物を手に入れた
また、出逢えたことがほんとに嬉しかった。
『この物語ではずっと一緒にいよう』
『あなたがそう望んでくれるのなら、私はあなたのおそばにずっといます』
首を大袈裟に振って
『そのしゃべり方…やめてくれ!!ふたりの時は今まで通りにしてくれ!!』
なんだかすごくおかしかった。
そして、幸せを手に入れた。そんな気でいた…
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