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35話 遠い昔
しおりを挟む『…月が…綺麗…だね…』
『君と見ているから綺麗なのかもね』
遠い昔…
そう、あれは…
一番最初の人生だった
お互い好きと知りながらも、長い間その先へ進むことはなかった
あの時と同じ…
一緒に外を歩いて
見上げた夜空に、大きなまん丸い月を見た
ふたりで見上げた満月
菜の花が咲き乱れていた
俺が
『月が綺麗だね』
って、言ったら。
君は
『君と見ているから綺麗なのかもね』
って、微笑んだ。
お互い見つめ合って、惹かれ合うように手が触れて
手をそっと繋いだ
ふたりの距離が近づいて
唇を重ねた
数十秒後に、ゆっくりと唇が離れて
もう一度視線を合わせた
にっこりと笑う君
もう一度唇を重ねて
大きなまん丸い月をふたりで見上げた
あの日のあのやり取り…
初めてのキス
偶然?
偶然同じセリフを言った?
そんな偶然ある?
もしかして…?
陽向も前世を思い出してる?
思い出したの?
『ひなたっ!!』
俺が言った瞬間に、陽向の電話が鳴って
『ごめんっ!、マネからだから出ていい?』
『あ~うん…』
俺は陽向をじっと見ていた
『はいっ…わかりました。今から行きます』
そう言って、俺を見た。
電話を切って
『ごめんっ!呼びだされたから、行ってくる!!ご馳走さま!』
そう言って、陽向は俺に手を振って走っていった。
思い出したの?って聞こうとしてた…
陽向は思い出したのだろうか?
…あんな会話…珍しくないといれば、珍しくない…
でも、びっくりするくらいに
あの時と同じような間で、同じような言い方だから…
偶然、同じような状況になって潜在的に同じ言葉を発した的な?
前世の記憶が無意識下に残っているから、出た言葉なのかもしれない…
でも…
もし、思い出しているのなら…
確認すべく陽向を観察し始めた。
いつもの様にバチバチに踊る陽向。
現場に入ったら、大声であいさつをする陽向。
メンバーとじゃれ合う陽向。
どれも、いつも通り出して…それで前世を思い出しているかなんて、判断できない!!
見ているだけじゃわからない…
それなら…
『ひなた~!!』
『なに~?』
『晴れにして~』
『…今、晴れてるけど』
なんか、上手くいかない。
『ひなた~!お月様と言えば?』
『え?大喜利?ん~なんだろ?』
めっちゃ考えて
『お団子っ!!』
…いや、そういう事じゃなくて…
『…もういいっ…』
思った通りの答えなんて、全然返ってこないしっ!!
やっぱり…
思い出してはいないのだろうか?
俺だけが知っていて
俺だけに残っている
愛し合っていた記憶
やっぱり、思い出してない?
こんなにも、俺は思い出しているのに…
こんなに近くにいるのに…
陽向の中に…俺はいない…
あの日のやり取りは、やっぱり、偶然だった?
俺は、また期待してしまっていた。
もう、前世にこだわらないって…
陽向が体調を崩した時にそう思ったはずなのに…
俺って…学習しないな。
陽向の事になると、冷静に考えられない。
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