13 / 56
13話 たまたま…
しおりを挟む重なった手が温かいから…
重なった手を離すことなんて出来なかった。
陽向が、動き出すまでこのままでいよう
もう少し、このままでいたいと思ったのに…
『ひなたさ~ん!!ドライヤー貸してください!!』
ドアの向こうから、隼の大きな声が聞こえて
陽向は、飛び起きる様に慌てて起き上がり、荷物の中からドライヤーを持ってドアの方へ歩いていった。
ドアを開けると、こちらを覗き込んでいる隼の姿が見えた。
『氷雨さんっ!おはようございます。』
その視線を遮る様に、
『早く準備しないと、集合時間に遅れちゃうぞ!!』
陽向は声をかけた。
『はい。後で返しに来ますね。ありがとうございます。』
隼はドライヤーを受け取って、去っていった。
俺に視線を向けたかと思うと…
『ひーくん…』
その視線にドキっと胸の音がうるさくなる。
『…なっ…何?ん?』
少し、戸惑いながら答えた。
『…………、…………、』
しばらく沈黙が続いたけど…
それでも、陽向の視線は俺から外れることはなくて…
痛いくらいに熱い視線を向けられて
動けなくなる
『……やっぱり…いいや。準備、しないと遅れちゃうよ。』
そう言って、テキパキと支度を始めた。
肩の力が抜けて、ふぅっと息を吐いた。
今…何言おうとした?
鼓動が速くなる
俺は、一瞬…
陽向がまるで俺を<好き>って言うんじゃないかって思ってしまった。
それくらい、俺を熱を帯びた瞳で俺を見てたから。
熱くて、真っ直ぐな視線にドキドキが止まらない…。
そんな自分を誤魔化すように、パッと起き上がり支度を始めた。
けれど、そのドキドキは治まらなくて、仕事が始まってもずっと気になって仕方がなかった。
いつもは、仕事モードに入ってしまえば気にならなくなるのに、今日はなんだか切り替えられなくて…。
何を言おうとした?
お前はどんなつもりで俺を抱きしめて眠った?
たまたま、近くで寝ていたから抱きしめた?
…それとも、少しでも俺を?
なんて、考えてしまう。
ぎゅっと、目を瞑って頭の中の都合のいい妄想をかき消す。
俺、仕事ちゃんとしろよ!!
ライブが始まって、やっと俺の頭の中は仕事モードに切り替わった。
それでも…
やっぱり、隣で、歌って踊る陽向は眩しくて…。
<好き>って思ってしまう
それから、陽向と同じ部屋になることは無かった。
7人もいれば、そう同じ部屋になることはない。
偶然同じ部屋になってしまっただけ。
たまたま、同じ部屋になって
たまたま、ジュースが零れて
たまたま、シーツの替えがなくて
たまたま、同じベッドに寝て
たまたま、俺を抱きしめた
それだけの事…
そう、偶然。
陽向にそんな気は全くない…。
そんな気は…きっと…ない…。
だから…苦しい…。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
キスより甘いスパイス
凪玖海くみ
BL
料理教室を営む28歳の独身男性・天宮遥は、穏やかで平凡な日々を過ごしていた。
ある日、大学生の篠原奏多が新しい生徒として教室にやってくる。
彼は遥の高校時代の同級生の弟で、ある程度面識はあるとはいえ、前触れもなく早々に――。
「先生、俺と結婚してください!」
と大胆な告白をする。
奏多の真っ直ぐで無邪気なアプローチに次第に遥は心を揺さぶられて……?


美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。



本当に悪役なんですか?
メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。
状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて…
ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる