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12話 ぎゅっと、ずっと、

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 夢を見た。


陽向の甘い匂いに包まれて眠ったせいなのか?

いつも見る、あの冷たくなっていく大きな手にすがりついて泣く夢じゃなくて…


温かくて…優しい夢だった。






まん丸なお月様を、隣にいる誰かと見上げて

一面に広がる菜の花に囲まれて


『月が綺麗だね』と俺が言うと。

『君と見ているから綺麗なのかもね』と、隣にいる誰かが、微笑んだ。

ぎゅっと抱きしめられて

心がほわんとする

まん丸な月をずっと見ている

ずっと、ずっと見ているそんな夢だった。


ぽかぽかと温かくて…

ぎゅっと抱きしめられた感覚が妙にリアルで…


ぎゅっと…


苦しくて…


苦しくて?


ん?



…って!!おいっ!!

なんだか苦しくて目を開いた。

気が付いたら、陽向が俺をがっちりとバックハグしていて…

すっぽり収まってしまう俺のカラダ。


昔は、俺の方が背が高かったのに。
いつの間にか追い越されて、体つきも俺よりがっしりしてなんだかなぁ~

それは、そうか…。

みんなが憧れるアイドルだもんな。

ッて、俺もアイドルか!



苦しいくらいに抱きしめられていた。


距離感なんて、完全にバグっていて…

近すぎて…


陽向の寝息が耳にかかってるっ!!


でも、妙に安心して

このままずっと…抱きしめていて欲しいなんて思ってしまう。


こんなに近いのに…。
本当の気持ちは、伝わることはきっとない。

それが、俺と陽向の距離。

振り向けば、陽向の顔がすぐそこにある。

長い睫毛が伏せられていて、キラキラな瞳は閉じていて

睫毛の一本一本を数えられそうなくらいに、近いのに…。


心はどこか遠くにいる。


近くて遠い、俺と陽向の距離。


もう少し、このまま寝たフリをしていようかなぁ


少し苦しいくらいがちょうどいい。


意識がそっちにいくから!


いつまでも抱きしめられていたかったけど、時間は容赦なく過ぎていく。


どれくらいその温かさと息苦しさを味わっていたのだろう…。


『…おはようっ…』

『ん?あっ…おはよう…』

いつの間にか、うとうとしてしまっていたようだ。


まるで行為を終えて迎える朝みたいに…

抱きしめられた腕が恥ずかしかった。


差し込んんだ光が清々しくて

なんだか動けずにいた。


陽向もおはようって言ったきりで、何も言わないし、動こうともしない。

それでも、集合時間は少しづつ迫るし

何だかふわふわした、妙な気分だった。

すると…

ゆっくり陽向が起き上がって


俺の肩をくいっと引っ張って、陽向が見える様にした。


『…ひーくん…』

寝起きで少しとろんとした瞳が色っぽいなぁ…なんて思ってしまった///


『んっ///…なに?』


………


しばし無言で見つめ合う。

ドキドキがうるさくなっていくのがわかる。

鎮まれ!
聞こえちゃうっ

陽向の瞳に、俺の気持ちが見透かされてしまいそうなくらいに、じっと真っ直ぐに俺を見てくる



『あっ…起きよっか?集合時間に遅れちゃうしっ』

陽向はパッと視線を外していった。


何か少し、ホッとした

このまま見つめられたら…

俺…きっと…




俺きっと何?

好きとでも伝えるつもりか!
馬鹿な自分の思考を悔やんだ!



そして、俺たちは…

起き上がろうと不意に着いた手が重なってしまって…。

その重なった手を離したくなくて…。


いつまでもその手の温もりを感じていたくて、動けずにいた。


まるで、陽向も同じ気持ちかのように、ピクリとも動かずに手を重ねていた。


ずっと、このままでいたい。



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