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3話 それはまるで決まっていた事みたいに…
しおりを挟む『また、逢えるって思ってた』
そんな、運命みたいな話をして零れそうになってしまう陽向への想いをぐっと堪えた。
ずっと隣で笑っていたいから、この気持ちが陽向に気づかれてはいけない。
なんでもない風にタオルで汗を拭きながら、自分を戒めた。
バレたら終わる…。
一緒に居られなくなる…。
『オーディションの日さ!いきなりスゴイ雨降ってきたよな?覚えてる?』
俺を真っ直ぐ見つめて問いかける陽向。
『あ~!音が聞こえなくなるくらいスゴイ雨音で、一時オーディション中断してたよな?懐かしいな』
なんて、懐かしい話をして休憩時間を過ごした。
『そろそろ始めるよ~』
振付師さんの号令でまた、レッスンが始まる。
レッスンが始まると、隣で踊る陽向を、鏡越しに見つめてしまう。
俺の隣に並んで、寸分の狂いもないほどにぴったりと息が合っていて、ターンや伸ばす腕の角度まで揃っていて気持ちが良かった。
立ち位置の移動ですれ違う速度や、回る速度、すべてがしっくりと来てぴったりとハマる。
そんな姿を鏡越しに、見つめてはドキドキしてしまう。
この想いに気が付かなければ、こんなにドキドキしなかったのかな?
気が付かなければよかったのに…。
シンメで、相方で、可愛い後輩で、ライバルで、同じグループのメンバーでいられたのに…。
それなのに…、無邪気に笑う笑顔が太陽みたいで
いっぱい食べる姿が可愛くて
少し掠れた声が好き。
力強いのに繊細なダンスも、器用で大きな手も…
苦しいくらいに好きになってしまった。
これ以上好きになりたくなくて、冷たい態度をとっているのに…
『ひーくん♡』って呼ばれれば嬉しくなるし。
『ひーくんの手冷たっ!!』
温かい手で包まれれば、不意にきゅんとしてしまう。
撮影だってわかっていても、ぎゅっとハグされればドキドキと鼓動がうるさくなる。
『やめろって!くっつくなっ!!暑いだろ!!』
冷たい態度で自分を偽る。
そんな風にしか誤魔化せなくて、誰にも気が付かれたくないし
気が付かれたらいけないってわかってる。
でも…出逢ったあの日から、気になって仕方がない。
何かに導かれるように
恋に落ちてしまった。
好きになるのは決まっていた事の様に、当たり前に
恋をした。
そして、いつ頃からだろうか?
変な夢を見る様になったのは…。
病に横たわる俺の知らない人。その人の大きな手を握りしめて、ひたすら泣き叫ぶ。
そんな俺に、その人は
『泣かないで、君は笑って…生きて…また逢おう。…きっと逢える…必ず逢えるから…』
そう言って、優しい顔のまま、言葉が消えて…呼吸が止まる。
大きな温かな手が、冷たくなるまでずっとその手にすがりついて泣き続けている。
そんな夢を見ては、訳の分からない感情のまま目が覚める。
そして、そんな夢を見た朝は必ずと言っていいほど、雨が降っていた。
しとしとと降る静かで悲しげな雨が朝を連れて来る。
悲しい夢…。
そんな夢を見るようになった。
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