上 下
3 / 56

3話 それはまるで決まっていた事みたいに…

しおりを挟む



『また、逢えるって思ってた』


そんな、運命みたいな話をして零れそうになってしまう陽向への想いをぐっと堪えた。

ずっと隣で笑っていたいから、この気持ちが陽向に気づかれてはいけない。
なんでもない風にタオルで汗を拭きながら、自分を戒めた。


バレたら終わる…。
一緒に居られなくなる…。


『オーディションの日さ!いきなりスゴイ雨降ってきたよな?覚えてる?』


俺を真っ直ぐ見つめて問いかける陽向。

『あ~!音が聞こえなくなるくらいスゴイ雨音で、一時オーディション中断してたよな?懐かしいな』


なんて、懐かしい話をして休憩時間を過ごした。


『そろそろ始めるよ~』
振付師さんの号令でまた、レッスンが始まる。




レッスンが始まると、隣で踊る陽向を、鏡越しに見つめてしまう。

俺の隣に並んで、寸分の狂いもないほどにぴったりと息が合っていて、ターンや伸ばす腕の角度まで揃っていて気持ちが良かった。

立ち位置の移動ですれ違う速度や、回る速度、すべてがしっくりと来てぴったりとハマる。
そんな姿を鏡越しに、見つめてはドキドキしてしまう。

この想いに気が付かなければ、こんなにドキドキしなかったのかな?

気が付かなければよかったのに…。

シンメで、相方で、可愛い後輩で、ライバルで、同じグループのメンバーでいられたのに…。

それなのに…、無邪気に笑う笑顔が太陽みたいで

いっぱい食べる姿が可愛くて

少し掠れた声が好き。

力強いのに繊細なダンスも、器用で大きな手も…


苦しいくらいに好きになってしまった。


これ以上好きになりたくなくて、冷たい態度をとっているのに…



『ひーくん♡』って呼ばれれば嬉しくなるし。


『ひーくんの手冷たっ!!』
温かい手で包まれれば、不意にきゅんとしてしまう。


撮影だってわかっていても、ぎゅっとハグされればドキドキと鼓動がうるさくなる。


『やめろって!くっつくなっ!!暑いだろ!!』

冷たい態度で自分を偽る。

そんな風にしか誤魔化せなくて、誰にも気が付かれたくないし


気が付かれたらいけないってわかってる。


でも…出逢ったあの日から、気になって仕方がない。

何かに導かれるように


恋に落ちてしまった。

好きになるのは決まっていた事の様に、当たり前に



恋をした。







そして、いつ頃からだろうか?


変な夢を見る様になったのは…。


病に横たわる俺の知らない人。その人の大きな手を握りしめて、ひたすら泣き叫ぶ。
そんな俺に、その人は

『泣かないで、君は笑って…生きて…また逢おう。…きっと逢える…必ず逢えるから…』



そう言って、優しい顔のまま、言葉が消えて…呼吸が止まる。
大きな温かな手が、冷たくなるまでずっとその手にすがりついて泣き続けている。


そんな夢を見ては、訳の分からない感情のまま目が覚める。
そして、そんな夢を見た朝は必ずと言っていいほど、雨が降っていた。

しとしとと降る静かで悲しげな雨が朝を連れて来る。

悲しい夢…。

そんな夢を見るようになった。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

僕の罪と君の記憶

深山恐竜
BL
 ——僕は17歳で初恋に落ちた。  そしてその恋は叶った。僕と恋人の和也は幸せな時間を過ごしていたが、ある日和也から別れ話を切り出される。話し合いも十分にできないまま、和也は交通事故で頭を打ち記憶を失ってしまった。  もともと和也はノンケであった。僕は恋仲になることで和也の人生を狂わせてしまったと負い目を抱いていた。別れ話をしていたこともあり、僕は記憶を失った和也に自分たちの関係を伝えなかった。  記憶を失い別人のようになってしまった和也。僕はそのまま和也との関係を断ち切ることにしたのだが……。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

処理中です...