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「サイバーテロ」です……

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「響君と関君は、15年前の事件を覚えているかな? いや、忘れるはずもないか。それほどまでにあの事件は、今でも人々の心に爪痕を残している」

 15年前。忘れるはずもない。俺から妹を奪った、あの事件だ。

「知っての通り、15年前に千鳴市周辺で大規模なアンドロイドを対象としたサイバーテロが発生した。そのテロにより、少ないながらも尊い人命が犠牲になった、実に痛ましい事件だった。それに伴い、人命とは比べ物にならないほど多くのアンドロイドが廃棄された。人間とアンドロイドの命に貴賤はない、私はアンドロイドの研究者として身を切るような気持ちだったよ」

 確かに、当時のニュースはこのサイバーテロの話題で持ちきりだった。その凄惨さは、今でも人々の頭に刻み込まれている。毎年、国をあげてあの事件の犠牲者を悼む行事もあるくらいだ。

 そのなかにはもちろん俺の妹も含まれる。運が悪かった、妹はアンドロイドが暴走した際に崩れた瓦礫の下敷きになって、天国に旅立ってしまったんだ。俺は妹を救えなかった、俺は妹の近くで、弱っていく妹を見ていることしかできなかったんだ。

 妹が亡くなった後、国や関連企業から弔慰金が出たりもしたけど、そんなものが妹の命に代えられるわけはない。結局のところ、弔慰金は妹の葬儀に使い、残りは両親がサイバーテロからの復興のための基金に全額寄付した。

「それからしばらくはアンドロイドの排斥運動なんかも盛んだったものだ。しかし、その時には既に人間社会にはアンドロイド文化が浸透し過ぎていた。世間はアンドロイド排斥より今の生活の便利さを選んだということは、現状からでも解ることだろう」

 その通りだ。あんな大事件があったにも関わらず、今も変わらずアンドロイド達は現代社会を闊歩している。人の気持ちは楽な方へと流れるもの、それは仕方のないことなのだろう。

「当時の私は、何とかアンドロイドの名誉を回復しようと尽力していたものだよ。その為に、私が製作するメイドアンドロイドには私の知識を注ぎ、あらゆる外部からの攻撃に対して対抗できる防御プログラムを組み込んだのだよ」

 博士の話に、昌也が食いぎみに口を挟む。

「それじゃあ、他のアンドロイドにもその防御プログラムって奴を組み込めばよかったんじゃねぇの?」
 
 なかなか鋭いじゃないか、昌也、見直したぞ。すると、高月博士は憂いを含んだ表情で答えた。

「もちろん、私も多方面に訴えかけ技術提供もしたさ。しかし今でこそブームにはなっているが当時も今もメイドアンドロイドに対する必要性には懐疑的な意見も多くてね。『メイドアンドロイドごときの研究者が何を言うか』と突っぱねられたよ。アンドロイド研究者は皆プライドが高いからね」

 そうだったのか。高月博士ほどの権威でも意見できないほど、アンドロイドの研究者は絶対的な理念に基づいて活動しているものなんだな。

「だが現実はこうだ。私が開発した防御プログラムが効を奏し、キッカさんは今の状態でいられるという訳だ。これから新しく世に出るアンドロイドに私の開発した防御プログラムを組み込むことは出来るが、既に出回っているアンドロイドに対してプログラムを組み込む事は、莫大な労力とコストが掛かるだろう。もちろん、既に私の防御プログラムは改めて各方面に提供済みだよ」

 俺も高月博士の話に口を挟む。

「プログラムをクラウドを通じて配信なんてことは出来ないんですか?」

 俺の質問に、高月博士はすかさず答えた。

「いい質問だ。しかし、そのプログラムは配信するには容量が大きすぎるのだよ。私の開発したメイドアンドロイド以外にそのプログラムをインストールするには、それ相応の追加メモリを直接組み込む必要がある。それがコストが掛かる大きな要因なのさ」

「そうですか……」

 そんなことは高月博士も解っているだろう。出すぎた真似だったな。

「さて、私から話せることはこんなもんかな。おおまかには解ってくれたかな?」

 俺達はそれぞれ答えた。

「はい、何とか大筋は解りました」

「まぁ、俺はキッカさんが無事ならいいんだけどさ」

「私、ちょっとよく解りませんでした。何だか、頭がぐるぐるします……」

「なるほど、理解しました」

 高月博士は俺たちの反応を確認し一息つくと、再び口を開いた。
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