再、生。

飛鳥槐

文字の大きさ
上 下
10 / 11
~脱獄~

三つ。

しおりを挟む
私「…い…」

私「…いっ、しょに…にげ…よう!」

初めて自分の声を聞いた。

彼も驚いていた。

彼「今…」

私「にげ、よう!」

まだ上手く喋れてないけど言っていることは彼に伝わったようだ。

彼「分かったよ。でも本当に危なかったら僕を置いていくんだよ?いいね?」

私「う、ん…」

私は彼を自分の椅子につけられていた枷で自分と繋ぎ、彼を背負うようにして立った。

やっぱり一人では支えきれず、壁に手をつきながら窓の下まで到着した。

凹凸に足をかけ壁を上っていく。

鉄格子まで来た。

鉄格子をしっかり掴み、身を乗り出す。

「おい!人がいるぞ!」

外で壊していた一人の人が私達に気づき、外に出るのを手伝ってもらえた。

それからは色々なことが一瞬で飛ぶように時間が過ぎていった。

血だらけで怪我をしていたので救急車が来て廃墟から出てきたということで警察も来た。

彼は警察に事情を聞かれるとつらつらと全てを話しその話は私にとってショックな物もあった。

それでも私は口を挟まず全てを聞いて、連行される彼に一言。

ずっと言いたかったことを私の声で伝えた。




私「あ、りが…とう」




彼「琴歌ちゃん」

私「え?」

彼「琴歌。笹奈琴歌。君の名前だよ。」

警察に全てを話した彼はどこか安心したような疲れきったような顔をしてそう言った。

彼「琴歌ちゃん。これ」

彼は私に手紙のようなものを渡した。

彼「いい?僕がいなくなったらこれを読んで。それからここに書いてある通りにするんだ。そうすればきっと琴歌ちゃんを助けてくれる人に会える。」

彼「じゃあ…そろそろ行かなくちゃ。じゃあね琴歌ちゃん。」

そう彼は言い私の返事を聞く前に行ってしまった。

一人取り残された私は

私「琴歌…笹、奈琴歌」

と自分の名前を繰り返していた。

なんとなくまだ手紙を開ける気になれなかったので、はじめて出た外の世界を探検しようと歩き始めた。

私は夕焼けが見える堤防の上を散歩していた。

無人で静かな堤防は途中で何故かついてきた大きな野良犬と私の影が綺麗に伸びた。

疲れたので少し休憩しようと思いその場に座る。

大きな野良犬が私の足にすり寄ってきたので撫でているとあることを思い出した。

ポケットから手紙を取り出し封を開ける。

手紙を開くと綺麗な字でこう書いてあった。

_____________

琴歌ちゃんへ

まず君に謝りたい。ごめんね。ずっと君に謝りたいと思ってたよ。こうして手紙で謝る事しかできない僕を許してね。

君が変わり始めたとき僕はすぐに気づいたよ。正直変わってなんかほしくないと思ってた。でも君がどんどん成長していく姿を見てああ、君には僕の所に居るより良い場所があるって思った。

だから琴歌ちゃんの本来の居場所を今からここに書きます。悲しいけれどお別れです。
まあこれを読んでる時点でもうお別れしたのだろうけど。

琴歌ちゃんには家族がいる。
家族のことは教えたよね?お母さんにお父さんがいる所だよ。琴歌ちゃんはそこに帰るべきだ。場所は君の後ろに立っている奴が教えてくれるはずだ。寄り道はしないで、まっすぐ家に帰るんだよ。いいね?

最後に

琴歌ちゃん、今まで本当にありがとう。

              笹奈千也より
_____________

ささ、な?

私と同じ名字だ。

?「あー、そいつはナ」

そう上から声が降ってきて驚き振り返る。

私「あなたは…」

?「そう!お前の頭ん中で喋ってたヤツ!手紙にも書いてあったロ?」
    
私「案内してくれるの?」

?「もちろン」

それから夕焼けの堤防を手を繋いで歩いた私達は色んな事を話した。

まず私の頭の中で喋っていた彼の正体、彼は私の前に笹奈千也に捕まっていたらしい。

名前は星明礼緒(ホシアケレオ)成仏できずにずっとあの元私の部屋で次の犠牲者を待っていたらしい。

礼緒「まーでも琴歌ちゃンが再生してくれなければボクもう一生成仏できないとこだっタよ」

私「いや、礼緒さん一応幽霊ですよね?」

礼緒「あーソうだった。もう一生終わってたワ」

礼緒が言うには笹奈千也は私の兄だった。

で礼緒は千也の親友。

礼緒「千也ハお前が産まれた時スゲー喜んだんだ。妹ができたッテ。でもお前は半分死んで産まれてキた。泣かないシ、動かない。呼吸ハしてたけどな。」

礼緒「それデたまたま千也が点滴に薬を混ぜたんだ。俺も千也も小学校1年生だったし、アイツがどこでそんな薬を手に入れたカハ分からなかったけど、それでお前がコウシテ生きてるんだ。」

私「薬?」

礼緒「ああ。アイツはすげー頭ガ良かったからな。自分で作ったのかも知れないし、誰カラ買ったのかも知れない。」

礼緒「薬が効いたのを知ったアイツはどんどん変ワっていった。俺に色んな薬を飲ませて実験しハジメテついには俺を実験で殺した。」

私「!」

頭に電気が走ったようだった。

礼緒を殺したのは千也?

兄が殺人を?

礼緒「まあ驚くよな。でも俺はダイジョウブだ。俺が心配してたのはアイツが同じことを繰り返さないかダ。アイツがお前を監禁したのを知ったときは焦ったゼ。お前まで死ンジまったらアイツはきっと…」

兄と過ごしてきた私達だからこそ痛いほど分かる兄。

礼緒「だから俺は琴歌ちゃんが死なナイように見守ることにしたんだ。改めて千也を元に戻る道に連れてってくれてアリガトな。」

私「いや、私は何も…」

礼緒「充分だ。これでアイツは時間かかるだろうけどダイジョウブだ…それと」

礼緒「お前ももうダイジョウブだな!」

礼緒の視線の先を見ると






家が見えた。







礼緒「あそこがお前と千也の家だ。コノ階段を降りればすぐ着く。」

私「礼緒は?」

礼緒「悪いが俺はココでお別れだ。」

私「そう…」

礼緒「最後にアイツの行っていた実験を教えてヤロウ。」

礼緒「これが薬の試作と作り方の資料だ。千也にお前にこれを渡せって前から言われテたんだ。」

礼緒「千也カラの伝言だ。『これを完成させて
たくさんの人を救って』」

私「え!?でも…私できないよ」

礼緒「『琴歌ちゃんならできるよ。僕の代わりに君が救うんだ。大丈夫。』」

礼緒「だ、そうだ。」

私「ほんとに?ほんとにそう言ってた?」

礼緒「ああ。声も似てただろ?」

私「似てない」

礼緒「うお…ストレートだな…」

礼緒「ま、アイツの妹だ。すぐ天才になるだろ!」

私「私…頑張ってみる」

礼緒「ああ。」

グッと引き寄せられ礼緒の腕にすっぽり収まる私。

あったかい。少し兄さんと似てる気がする。

礼緒「じゃあ俺はこれでお別れだ。これから大変だろうけど頑張れよ!」

私「うん!」

礼緒「じゃ行ってこい!」

ポンと背中を押された。

そのまま家に向かって走る。

礼緒「転ぶんじゃねえぞ!」

私「大丈夫ー!」

手を振りながら階段を駆けおりた。

小さくなっていく千也の妹、琴歌ちゃんのことを手を振りながら見送る。

琴歌ちゃんは千也の実験で記憶が無くなってるだろうけどよく三人で遊んだんだよナ~。

礼緒「千也。お前の妹は本当にスゲーよ」

アイツの実験に耐えて再生どころか進化しちまったんだから。

礼緒「頑張れヨ。琴歌ちゃん」

それを最後に俺はスッと夕焼けに消えた。

________

最後の一段を降りて家の門の前まで来た。

待ってれば人が来るものなのか、自分から行かなきゃいけないのか。

とりあえず自分から行ってみることにした。

ガチャと扉を開く。

私「た、たいま」

礼緒が教えてくれた挨拶“たいま”言ったはいいが、どうすれば良いか分からず突っ立っている。

母「琴歌…?」

父「琴歌か!?」

私「お母さん?お父さん?」

母「琴歌!」

私が初めて見た二人はとても優しそうな人達でした。

私を抱きしめてくれ、温かくておいしくご飯を食べながら色々話しました。

二人はすでに兄さんが逮捕されたことは知っているようでした。

私が記憶をなくしているだけで二人とは初めましてではないそうです。

母「琴歌…可愛くなったね」

お母さんは泣きながら話します

私「兄さんのおかげだよ」

ようやく自分の居場所を見つけた私は兄さんの薬でたくさんの人を救うため、猛勉強中です。

早く兄さんみたいになれるといいな。











しおりを挟む

処理中です...