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第一章  魔女の森。

森のみんなの、悩みごと。

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 ──カンカン。

 木と木がぶつかる甲高い音。
 ここは以前森のぬし、森の案内人さん就任式典が行われたこの森で一番大きな木の下です。

「では、これから第一回、森のお話し合いを始めます!!」

 ──カンカン。カンカン。

 小槌を切り株に打ちつけ声高らかにそう宣言したのはリリパットちゃん。これからここではリリパットちゃんの提案で、森のお話し合いが開かれようとしていました。

「──それで、この森のお話し合いの時だけは森のぬしさんであるしろうさぎさんにも決定件はありません。ここに集まって貰った森のみんなでそれを決めます。良いですか?」

 それがリリパットちゃんの出した答えでした。

 理由はどうであれ森のぬしに嘘をつき、隠しごとをしていた自分の行動が事を大きくしてしまったという結論に至った彼女は『それならお互い正直に話した上で森のみんなに決めてもらいましょう』と二匹に言ったのです。リリパットちゃんは自身の経験を基に公平に自分の気持ちを伝えられる場を作ろうと考えたのでした。

 そしてリリパットちゃんは切り株の右側に立つしろうさぎさんの方へと視線を向けます。

「はい……わかりました」

 次に切り株の左側で漂うピクシーさんにも同じように視線を向けます。
 
「ええ、わかったわ……」

「コホン。お互いの了承も取れたという事で、さっそく今回のお話し合いに入りたいと思います。では、スライムさん、お願いします……」

 そう言われ森の一番大きな木の陰から出て来たのはスライムさんと小さな人間の女の子。その光景を見た森のモンスターさん達からはどよめきの声が上がります。

 ──カンカン。カンカン。

「お静かに!!」

 ピシャリと一言でその場を収めるとリリパットちゃんが言います。

「森のモンスターの皆さん。驚く気持ちはわかります。ですがここはどうかご静粛にお願いします。今からこの子についてお二匹方からお気持ちをいただくので、その上でご自身の考えのある方はご意見していただける場所を用意してあります。ですので、どうか落ち着いて」

 その言葉に一応の理解を示し静かになった森のモンスターさん達を見ると、続けてリリパットちゃんは小さな人間の女の子を見ながら言いました。

「と、その前に。まずはこの子について説明が必要ですよね。本当ならこの子自身の口から言ってもらうのが一番良いと思うんですけど……ご覧の通り、いきなりこんな大勢のモンスターさん達のところに連れ出されて少々緊張しているようなので私の方から説明させていただきたいと思います」

 リリパットちゃんは女の子にだけ聞こえるような小声で「大丈夫、任せて」と言うと森のモンスターさん達に今回のいきさつを一から伝えました。

 女の子は人間の子供で、この森に親に捨てられたということ。
 この子は魔女の血を引く魔女だということ。
 捨てられた理由もそれが原因で。
 六歳の誕生日に突然魔女の力が発現したのが理由で親に見放されたということ。
 自身が知る限りの情報のその全てを伝えたのでした。
 
「──と、いうこと、なんです」

 とは言え、ここに居るのはこの世界で有名な御伽噺、赤い風車に登場した魔女です。
 どよめきが再び起こるのは必然で。
 瞬く間に戸惑いと不安の空気が森中に広がっていきます。
 それほどまでの存在、それが人間側でもモンスター側でもない魔女という存在なのでした。

 ──カンカン、カンカンカン!!

「お静かに、お静かにぃーー!! 皆さん、だから言いたいことはよくわかります。私も初めはそうでしたから……だけど……」
 
 それは遠いいつかの日から伝わる御伽噺。
 今ではあたりまえのように深くこの世界に根付いた言い伝え。
 疑うことすらしないようなその理に。
 他の誰よりも早くに気づき世界を疑ったモンスターさん。
 もしも新しい解釈をそこに植え付ける事が出来るなら。
 その可能性をこの森が持っているとするのなら。
 それはそんな一匹のモンスターさんの言動から始まるのかもしれません。

 そして、まだ見ぬ未来の道の分岐点にあたるかもしれないこの瞬間にリリパットちゃんはそのモンスターさんの名前を呼びます。

「……ピクシーさん。お願いします」

 その言葉にピクシーさんは静かに頷くと思いの丈を述べたのでした。

「みんな……聞いてくれる? 私はこの子の……この魔女の子の笑顔を見たいと本気で思ってる──」
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