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第一章 魔女の森。
【第五話】 言葉と心の、間にあるもの。
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──森の主、森の案内人さん就任式典が行われてから一カ月が過ぎた頃。
今までは一匹大きな木の下で本を読みながら一日を過ごしていたしろうさぎさん。そんな彼女にも新たな日課、やるべき事が増えていました。
「──それで、僕は背も低ければ、力もないし、何をやっても他のゴブリン並み以下。だからせめて足だけは速くって思ったんですけど、昨日も駆けっこでは一番ビリ……スライムさんやリリパットちゃんみたいに僕も変われたらなって思ったんですけど……悩みの種は日に日に増えるばかりで……だから……その……僕は……このまま悩みに押し潰されていつか死んじゃうのかなって……」
「……そうですか……でも、ゴブリンさん。こんな言葉があるのを知っていますか?」
そしてペラペラと本を捲る開かれたページ。しろうさぎさんはそこに書かれていた文字を見ると顔を上げゴブリンさんに向かって言葉を贈ります。
「──吟味されざる生に生きる価値なし 」
「吟味されざる……? え、えっと……何ですか……?」
目の前で困惑するゴブリンさんにしろうさぎさんは言います。
「はい。吟味されざる生に生きる価値なし。です。この言葉はですね。今のゴブリンさんみたいに、どうしてだろう? 何でだろう? って、考えるからこそ『生きる価値』はあるんだよという意味の言葉です」
「うーん……ゔぁゔぁゔぁゔぁ……ゔぁ。(あ、頭がクラクラして……)」
「えっと、ですね。ですので、今まではそんな事気にしないゴブリンさんが、今ではそれを疑問に思っている。そのきっかけはスライムさんやリリパットちゃんを見て自分でそう考えるようになったからです。僕は変わりたいって。だから悩みが生まれて……今はちょっとまだ上手くいっていないかもしれないですけど、逆に言えば悩みを持つゴブリンさんはその先に行ける可能性を持っらという事です。ですのでそれだけでもう生きる価値はそこにあるんですよ。決して死ぬ為に悩みは生まれて来ないんです」
「……それは、だから、僕はこれからもいっぱい悩んでも良いってこと……?」
精一杯自分なりに理解を示すゴブリンさんを見て嬉しそうにしろうさぎさんは微笑みかけます。
「はい。悩んで良いです。そして、悩んだら考えて、先ずは何でも良いからやってみて下さい。そうすれば何が出来て、何が出来なくて、何がわかって、何がわからないかがわかって、また新しい悩みに出会えるんです」
「う、うーんと、だから、つまり、それは……」
「明日も待っています。ということです。ゴブリンさんが明日もまた新しい悩みを持って会いに来てくれるのを私は待っていますから」
「う、うん!! わかった!! 本当はまだよくわかっていないけど、ボクは何か考えて、やってみて、また明日ここにお悩み相談しに来れば良いんだね!! 生きてて良いんだね!!」
「はい!!」
「うん、ありがとうしろうさぎさん。吟味されざる生に生きる価値なし 、行って来ます!!」
「はい、行ってらっしゃい」
森の主になったしろうさぎさんにとっての新しい日課、それは森のモンスターさん達のお悩み相談をする事。沢山の言葉を知っているしろうさぎさんはその力を使って森の更なる発展、向上に貢献しようと努めていたのでした。そしてそれは初めての相談を受けたスライムさんから始まって、今ではしろうさぎさんに相談すれば何かが変わると言われるまでになっていました。
「──じゃあ、うさぎ、お疲れさま。今日のお悩み相談はここまでね。続きはまた明日ってことで」
「うん。わかった。いつもお手伝いありがとう、ピクシーさん」
そんなしろうさぎさんと同じように、ピクシーさんも一緒にお悩み相談のお手伝いをしていました。もっぱらやる事といえば悩みのあるモンスターさんを見つけてしろうさぎさんの元に連れて来る事、あとはたまにズバッと意見を述べたりする事でした。
「べ、別にあんたが気にする必要はないわよ。私が好きでやってるだけだし、それに私は森の案内人よ」
「うん、そうだね。でも、やっぱり、ありがとう」
「な、なによ、もう……気持ち悪い……て、照れるじゃない」
「ふふ。あ、それと、今日久しぶりに二匹で夕飯……」
「あ、ごめん!! 私、これからちょっと用あるからさ。こう見えて、森の案内人さんっていうのも忙しいのよ。だから、また今度ね」
「え、あ、うん。わかった」
「じゃ、うさぎ、また明日!!」
「うん。また明日ね、ピクシーさん。……って、最近ずっとだなぁ……また今度……」
森の主、森の案内人さん就任式典が行われてから一カ月が過ぎた頃。
それから少しして始めた森のお悩み相談。
新しく出来た日課。
慣れない日常は大変だけど楽しくもあって。
だけど、変わる日常を少し寂しく感じることもあって。
しろうさぎさんはそんな変わる瞬間の真っ只中に今いました。
「──まぁ、でも、うん。変わるっていうのはきっとそういうものだし、仕方ないよね。スライムさんとリリパットちゃんも最近はあまり見かけないし、皆んな、頑張ってるんだなぁ。私ももっと勉強して頑張らないと!!」
そう一匹呟くとしろうさぎさんは今日の大きな木を探しに森の中へと消えて行ったのでした。
今までは一匹大きな木の下で本を読みながら一日を過ごしていたしろうさぎさん。そんな彼女にも新たな日課、やるべき事が増えていました。
「──それで、僕は背も低ければ、力もないし、何をやっても他のゴブリン並み以下。だからせめて足だけは速くって思ったんですけど、昨日も駆けっこでは一番ビリ……スライムさんやリリパットちゃんみたいに僕も変われたらなって思ったんですけど……悩みの種は日に日に増えるばかりで……だから……その……僕は……このまま悩みに押し潰されていつか死んじゃうのかなって……」
「……そうですか……でも、ゴブリンさん。こんな言葉があるのを知っていますか?」
そしてペラペラと本を捲る開かれたページ。しろうさぎさんはそこに書かれていた文字を見ると顔を上げゴブリンさんに向かって言葉を贈ります。
「──吟味されざる生に生きる価値なし 」
「吟味されざる……? え、えっと……何ですか……?」
目の前で困惑するゴブリンさんにしろうさぎさんは言います。
「はい。吟味されざる生に生きる価値なし。です。この言葉はですね。今のゴブリンさんみたいに、どうしてだろう? 何でだろう? って、考えるからこそ『生きる価値』はあるんだよという意味の言葉です」
「うーん……ゔぁゔぁゔぁゔぁ……ゔぁ。(あ、頭がクラクラして……)」
「えっと、ですね。ですので、今まではそんな事気にしないゴブリンさんが、今ではそれを疑問に思っている。そのきっかけはスライムさんやリリパットちゃんを見て自分でそう考えるようになったからです。僕は変わりたいって。だから悩みが生まれて……今はちょっとまだ上手くいっていないかもしれないですけど、逆に言えば悩みを持つゴブリンさんはその先に行ける可能性を持っらという事です。ですのでそれだけでもう生きる価値はそこにあるんですよ。決して死ぬ為に悩みは生まれて来ないんです」
「……それは、だから、僕はこれからもいっぱい悩んでも良いってこと……?」
精一杯自分なりに理解を示すゴブリンさんを見て嬉しそうにしろうさぎさんは微笑みかけます。
「はい。悩んで良いです。そして、悩んだら考えて、先ずは何でも良いからやってみて下さい。そうすれば何が出来て、何が出来なくて、何がわかって、何がわからないかがわかって、また新しい悩みに出会えるんです」
「う、うーんと、だから、つまり、それは……」
「明日も待っています。ということです。ゴブリンさんが明日もまた新しい悩みを持って会いに来てくれるのを私は待っていますから」
「う、うん!! わかった!! 本当はまだよくわかっていないけど、ボクは何か考えて、やってみて、また明日ここにお悩み相談しに来れば良いんだね!! 生きてて良いんだね!!」
「はい!!」
「うん、ありがとうしろうさぎさん。吟味されざる生に生きる価値なし 、行って来ます!!」
「はい、行ってらっしゃい」
森の主になったしろうさぎさんにとっての新しい日課、それは森のモンスターさん達のお悩み相談をする事。沢山の言葉を知っているしろうさぎさんはその力を使って森の更なる発展、向上に貢献しようと努めていたのでした。そしてそれは初めての相談を受けたスライムさんから始まって、今ではしろうさぎさんに相談すれば何かが変わると言われるまでになっていました。
「──じゃあ、うさぎ、お疲れさま。今日のお悩み相談はここまでね。続きはまた明日ってことで」
「うん。わかった。いつもお手伝いありがとう、ピクシーさん」
そんなしろうさぎさんと同じように、ピクシーさんも一緒にお悩み相談のお手伝いをしていました。もっぱらやる事といえば悩みのあるモンスターさんを見つけてしろうさぎさんの元に連れて来る事、あとはたまにズバッと意見を述べたりする事でした。
「べ、別にあんたが気にする必要はないわよ。私が好きでやってるだけだし、それに私は森の案内人よ」
「うん、そうだね。でも、やっぱり、ありがとう」
「な、なによ、もう……気持ち悪い……て、照れるじゃない」
「ふふ。あ、それと、今日久しぶりに二匹で夕飯……」
「あ、ごめん!! 私、これからちょっと用あるからさ。こう見えて、森の案内人さんっていうのも忙しいのよ。だから、また今度ね」
「え、あ、うん。わかった」
「じゃ、うさぎ、また明日!!」
「うん。また明日ね、ピクシーさん。……って、最近ずっとだなぁ……また今度……」
森の主、森の案内人さん就任式典が行われてから一カ月が過ぎた頃。
それから少しして始めた森のお悩み相談。
新しく出来た日課。
慣れない日常は大変だけど楽しくもあって。
だけど、変わる日常を少し寂しく感じることもあって。
しろうさぎさんはそんな変わる瞬間の真っ只中に今いました。
「──まぁ、でも、うん。変わるっていうのはきっとそういうものだし、仕方ないよね。スライムさんとリリパットちゃんも最近はあまり見かけないし、皆んな、頑張ってるんだなぁ。私ももっと勉強して頑張らないと!!」
そう一匹呟くとしろうさぎさんは今日の大きな木を探しに森の中へと消えて行ったのでした。
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