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異世界の日々
サバイバル演習と再会④
しおりを挟む私が放ったブレスはデスドラに当たった。
呆然としてるシアン達には今は興味なく、私はキルクに向き合う。
「キルク……?」
キルクに会うのはラースが死んだ日が最後。
キルクとピケに嫌われるのではないかと怖くて会いに来れなかった。
私はラースを殺した人間と同じ人間なんだから。
『この馬鹿やろう! 急に飛び出してくるな! デスドラは父様でも危険だって言ってた魔物だぞ! デスドラの攻撃がリルディアに当たって怪我じゃすまなかったらどうする! リルディアは弱いんだから大人しくしていろ!』
……何よそれ。
「一年前は私の方が強かったわよ! 一年でラースみたいに大きくなったみたいだけどいい気にならないでよね! キルクなんてラースに比べたらまだまだなんだから!」
『と、父様と比べることはないだろう! それに他の人間が居るのに俺と話してて良いのか? …………俺的にはずっと話して居たいが……』
最初の方は勢い良かったのに後々になってごにょごにょ聞こえないくらいの声で呟くキルク。
いつまで経っても子供ね、……言い合う私も私かもしれないけど。
「だって、家族のが大事だもん」
玉の輿には乗りたい。
だけど、そんな事より私は私の家族が大切。
前の両親や今の両親みたいに血が繋がってる他人じゃなくて私が認めた血の繋がらない家族が。
「ごめんね、キルク」
私はぎゅっとキルクを抱き締めた。
『リルディアのばーか。 俺もピケもリルディアのせいじゃねぇって事ぐらいわかってるよ。 だって、家族だろ?』
キルク……。
その時、ガサッと枯れ葉を踏んだ様な音が聞こえ、振り向いた。
フィアが何か言いたげな表情をしてそこに立っている。
……力を隠してたんだから責められるのも当たり前よ。
フィアの事は嫌いじゃなかったけど仕方ないわ。
「リル…………凄い!」
……はい?
「私、びっくりした!」
「だが、いきなり飛び出すのは危ないぞ。 」
フィアもアルトも何言ってるわけ?
「本当に私ってば駄目……。 デスドラを見た恐怖にリルディアを守るどころか私が足手纏いになった」
「あれ? リルディアって魔力ないんじゃなかったっけ?」
後悔してるフィア、私が魔法を使ったと思って疑問に思ってるアルト。
でも、そこじゃない!!
「2人とも、何も言わないの? 私、騙してたのよ?」
何だか私の方がわけわからなくなりそうだわ。
か弱い振りしてた女がいきなり魔法擬きを使って攻撃して上に一般では凶暴とされるキルクに話し掛けてるのよ。
フィアの立場が私だったら責めてるわよ、騙してたの!!とか。
「魔法が使えないってか?」
「いや、私に魔力がないのは本当よ。 あれは魔法じゃないもの」
「??」
私の言葉に更に疑問符を浮かべてるであろうアルトにはもう気にしない。
「フィア」
「ごめん、リル。 リルが何を言いたいかわからない……」
何故か更に申し訳なさそうにするフィア。
そうね、一言目が責める言葉じゃなかった二人に言うだけ無駄よね。
嘘が嫌いそうなライアとシアンなら……。
『何だ、人間。 言いたいことがあるなら言え』
……シアンは何でキルクを睨んでるの?
魔物であるライウルフだから?
「リルディアちゃん」
「ライア」
「あのね、確かに僕らはびっくりしたけどリルディアちゃんが僕らを騙してたのとか思ってないよ」
わけがわからないわ。
責めるのも許さない可愛い私が今は責めても仕方ないと思ってるのよ。
「人には言いたくない事だってたくさんあるんだ。 シアンだって、リルディアちゃんに言ってないこともたくさんある様にね」
「戦えるのを黙ってても?」
「もちろん」
にっこりと微笑んでるライアをじっと見つめてもライアが嘘を言ってる様には聞こえないわ。
普通は怒るでしょ?
「駄目! リルが戦えても戦わないで!」
いや、フィア……。
「リルは私が守るの!」
初対面の時の大人しいフィアはどこにいったのよ。
「何でそこまで私を庇うの?」
「……だって、リルは私の大切な友達だから……」
「私がライアの心証を良くしようと友達になって、本当はフィアに悪意持ってても?」
実際にはビッチ達と一緒の班が嫌だったからフィアに声掛けただけだけど。
「リルディアはあまり獣人の事知らない様だから言うが、悪意を持って接して来たら分かるぞ? 流石にどんな風な悪意を持ってるかなんて細かい事はわからんが。 リルディアからは俺達を蔑む様な感じはなかった」
「私達の事はどうでもいいって感じだったの。 でも、最近はちょっとでも好きになってくれたみたいで嬉しかった」
第六感的なものなわけ?
「私、リルが好き。 もし、リルに騙されていたとしてもリルの傍に居たいの」
……猛烈な告白をされてる様に感じるわね。
『この女なら特別にリルディア傍に居てもいいんじゃないか? この睨んでくる男はいらぬが』
まだシアンと睨み合っていたキルクが私に擦り寄ってくる。
クズしか見て来なかった私にはフィアやアルトの考えはわからないわ。
「……好きにしたらいいじゃない」
素の(こんな)私でも良いのなら好きにしたらいい。
フィアが嫌いなら嫌だけど別に嫌いじゃないもの。
「これからよろしくね、リル!」
私の言葉に嬉しそうにフィアは微笑む。
本当に馬鹿な子。
【グアアアアアア!!!】
「まだ生きていたのか!」
静かだった雰囲気はいきなりのデスドラの叫び声に一気に緊張が走る。
……デスドラの言葉が分かる私以外は。
『素晴らしい魔法だ! まさかちっぽけな生き物にこの我が傷を負わされるとは!!』
「黙りなさい、ちっぽけとはこの私の事かしら?」
『む、すまない。 いや、でもとても感動したのだ!』
これがさっきまで私達を馬鹿にしてたデスドラなわけ?
変わりようが気持ち悪いわ。
「……デスドラが掛かって来ないな」
ぽつりとシアンが呟くけど私と話してるから掛かって来ないのでしょうね。
性格が変わった様なのも関係してるのかしら。
「私は黙りなさいと言ったのよ?」
大きな巨体を丸めて私に顔を近づけてきたからナイフで頬を数回軽く打つ。
頬ではなく顎の辺りだけど。
『す、すまんっ』
男を操るには最初から躾が大事だわ。
戦えば負けるかもしれないけど、デスドラはもう戦う気はないみたいだからね。
「どうしてここに来たの?」
『我はここより遥か西の森に住んでおったのだが、我の巣を荒らし回る輩が居てな。 食い殺してやろうとしたが怪しげな魔術を使い中々捕まえられん。つい先ほどまで我の巣に居たのだが……輩が仕掛けた魔術に嵌まったと思えばこの森に居たのだ』
「何で西ってわかるわけ?」
『我の巣には他の魔物が入って来ない様に我のマナで守護しておる。 我のマナが感じられるのは遥か西なのだ』
マナも守護も良くわかんない単語があるけど、誰かがこの森にコイツを放ったって事でしょ?
私が居る時に面倒なことしてくれたわね。
「……リルディアは上級魔物と会話出来るのか?」
キルクとも会話してたけどライウルフってBランクらしいから一応上級魔物に入るのかな?
まあ、魔物は下級でも意思はあるから会話は出来るけど。
……嘘もつけるけどライア達なら言っても誰にも言わないわね。
「うん、小さい時から。 何で話せるのかはわかんないけど」
神から力を貰って転生しただなんて言っても信じられないだろうから話せる事だけ言っとこ。
「じゃあ、シャイニングトカゲの時……辛くなかった?」
「辛くないわ」
確かに私には普通に生活してるシャイニングトカゲの仲の良い言葉が聞こえたり、死ぬ間際の言葉が聞こえたりもする。
でも、私は私の為に殺す。
……一番最初の時は辛くなかったとは言えないけど。
「デスドラは何と……?」
私が嘘をついてると思ってるのかわかんないけど、険しい表情のシアンが聞いてくる。
「ここよりずっと西の森に住んでたけど、怪しい人が仕掛けた罠に引っ掛かったと思ったらこの森に居たんだって」
『我に仕掛けた輩と同じゴミだと思ったらムシャクシャしたのだ』
「人間の罠に引っ掛かったからムカついて八つ当たりしたんだって」
「西……」
シアンが何か難しそうな表情をしながらライアに視線を移す。
ライアはそんなシアンを見て小さく頷いた。
私には何がなんだかわかんないけど。
「西ってもしかして……」
「マークアデの森じゃないか?」
マークアデの森?
フィアもアルトもわかるの?
「マークアデの森は上位ランクの魔物がうろついている危険な森だ。 デスドラが居てもおかしくはない」
「この国と帝国の境になる森だからもしかしたら不振人物も帝国の人間かもしれない」
つまり、デスドラをマークアデの森からこっちに仕掛けたのは帝国で……今日の日を選んだのにも理由があるって事?
デスドラを仕掛けて王国を潰そうとしたのか、それともライアがサバイバル演習に出る日を狙ったのか。
「でも……まだわからないよね……?」
フィアが不安そうにしてるのもわかる。
もし、この森にも仕掛けがあったとしたら帝国のスパイがまだ居るかましれないって事だし。
成功するかもわかんないのにデスドラみたいなの放置しないでしょ。
「……この辺りに気配はない」
険しい表情のままシアンは辺りを見回す。
「アンタはわかんないの?」
シアンが人の気配を何で読めるのかなんて私にはわかんないからデスドラに聞く。
……見上げるのが辛いわね。
『ふむ、今はそなたら以外のゴミ……いや…人間は近くに居らぬ。 だが、あちらの川の近くに同じような臭いを感じるぞ』
私の事もゴミって言うつもりだったみたいだからスカートに隠れて見えないようにしてたナイフを取り出してデスドラの足を刺しておく。
毒はつけてないし、デスドラからしたら蚊に刺されたぐらいでしょ。
「あっちの方の川に罠を仕掛けた人と同じような臭いがするみたいだけど、どうする?」
デスドラからナイフを抜き取り川がある方を指差し
問いかける。
私的にはこのまま放置でもいいけど。
「シアン、行ける?」
ライア的には放置する事が出来ないのか難しそうな表情のままシアンに問いかけてる。
デスドラ壊させる事も考えたけど簡単に罠に引っ掛かったデスドラには無理よね。
「ちょっと様子を見てくる」
ライアの言葉にシアンが頷けばすぐに気配がした方角に向かった。
「それで、リルディアちゃん。 デスドラなんだけど……」
少し言いにくそうにちらりとデスドラを見上げるライア。
……まあ、こんな所他の生徒には見せられないわよね。
下手したらライアを人質に私達がクーデターを狙ってる様にも見えるかもしれないし。
「デスドラ、あんた邪魔だからもう行ってもいいけど?」
『……我ら龍種は勝者をリーダーとし従わなくてはならぬ』
「でかいから邪魔だし」
『な、ならば小さくなれば問題なかろう!』
「なれるの?」
『人間のマナを貰って契約すればな』
……話の内容から考えて、マナって魔力の事よね?
「私、魔力ないもん」
あ、デスドラがしょぼんってしちゃった。
でも、魔力ないのはあの神のせいだし。
「リル……?」
「デスドラが私と契約して居たいって言うんだけど魔力ないから契約出来ないんだよねー」
『俺を差し置いてリルディアと契約するなど許さんぞ、トカゲ』
『犬っころの許可などいらぬ』
またキルクとデスドラが喧嘩始めちゃったし。
「……俺と契約する事は出来るか?」
「シアン」
いつの間にか戻ってきていたシアンがデスドラを見上げて問いかける。
シアンはデスドラと契約したいのかな?
『何故我が貴様の様な男と契約など』
「シアンと契約すれば同じチームだから一緒に居れるけど?」
『よし、契約してやろう』
このデスドラチョロいんだけど。
他のデスドラもチョロいわけ?
「デスドラが契約してくれるって」
『俺もリルディアを守るから契約するぞ!』
いや、キルクは駄目でしょ。
近くに居てくれるのは嬉しいけど契約する人が居なきゃ無理だし。
「キルクも契約したいって」
まあ、キルクがすぐ会える距離にいるのはデスドラよりはるかに嬉しいけど。
「……良かったら私と契約する?」
「いいの?」
「ライウルフがいいって言ったら契約したい。 私、獣人だけど接近戦はちょっと苦手だから」
『うむ、この娘なら良いぞ。 共にリルを守れるからな!』
「キルクは良いって行ってるけど契約ってどうするの?」
魔物と契約出来るのはわかったけど、フィアもシアンも知ってるわけ?
学園に入ってからまだ契約なんて習ってないし。
「契約者の血を魔物に与え、名前を知れば契約出来る」
私が疑問に思ってるのがわかったのか、シアンはそう言いながらも小型のナイフで指先を切り、デスドラに指を差し出す。
デスドラは少し嫌そうにしながらもシアンの指を舐めた。
『我が名はルシリフル、貴様を一時の契約者として認めよう』
デスドラ……ルシリフルは名乗ると肩に乗れそうなくらいに小さくなった。
……あの巨体が手のひらサイズになるなんて異世界は変わってるわね。
ルシリフルは小さくなったまま私の肩に乗る。
「何でこんなに小さくなれるの?」
『なれるからだ!』
さっぱりわかんない。
「次の休みにギルドに行かないとな」
フィアもキルクとの契約が終わったのか恐る恐るキルクを撫でている。
アルトの言葉からすればギルドに行く必要あるみたいだけど……何で?
「どうして?」
「魔物を使い魔にするには契約した後にギルドで登録しなければいけないんだよ。 使い魔の責任は契約者の責任になるからね」
「ふーん、そうなんだ」
まあ、私には関係ない事だけどね。
魔力がないから一生使い魔なんて縁ないから。
「ディオ先生にも話しておかないとな」
「演習中にデスドラが来たからあっちはてんてこ舞いになってるんじゃない? デスドラも消えたってなったら調査に時間かかるだろうしね」
まあ、学園の授業中にいきなりドラゴンが現れて生徒が怪我でもしたら責任問題よね。
安全確認はちゃんとしてただろうし。
学園には貴族も平民も通ってるけどばったりデスドラに出会ったのはこの国の王子だし。
私にはどうでもいいことだけど。
「じゃあ、一度戻るか」
「多分、演習は中止になるだろうけど」
「仕方ないだろう。 魔方陣があった事も話さなければもしここ以外にもあったら大変な事になるからな」
入ったばかりの一年生だと魔法もろくに覚えてないし、戦闘力にかけるもんね。
もちろん、私なら大丈夫だけどリルディアとしては秘密にしておきたいし。
「じゃあ、帰る?」
キルクも無事にフィアと契約出来たみたいだしね。
……キルクには恨まれても当然だと思ってた。
子供の頃に親を人間に殺されて、弟まで失って、同じ人間である私を恨んでもよかっただろうに。
本当に優しい子。
私の……大切な家族。
くしゃくしゃと少し硬くなった毛を撫でるとキルクも嬉しそうに尻尾を振る。
「うん、帰ろう」
ライアの言葉にみんな一緒に帰路につく。
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