ぶりっ子の夢は玉の輿

猫目 しの

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異世界の日々

ギルド登録②

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「シアンはお友達ですよぉ」







落としたいとは思ってるけどね。







「あんたみたいな盲魔がシアンの側に居ること自体許されないのよ。 盲魔は生きてる価値すらないの」







特に貴族は盲魔嫌ってるもんねー?

アクト・フィオレもだから捨てられたんだし。

世間的には病気で死んだってことになってるらしいけど。







「そんな……」







こんな馬鹿な女の話なんて真に受けないけどさ。

端から見たら何も言わない子供を虐めてる大人だし。







「さっさと帰らないとどうなるかわからないわよ?」







勝ち誇ってるように言ってるけど脅し?

この私がそんな脅しに屈するとでも?







「ご、ごめんなさぁい! ……なんて、醜い顔が更に醜くなってるけど大丈夫ですかぁ、お・ば・さ・ん」







もちろん、受付女にしか聞こえない声で言うけどね。

他のギルド職員もギルド員も遠巻きに見てるから小声だと聞こえないだろうし?



ほら、見た感じ他の人は私を可哀想と言うように見てるし、受付女は更に醜く私を睨んだけど。









「こ、このクソ餓鬼!!」









私の言葉に逆上して思いっきりビンタしてきた受付女。

私の可愛い顔に何するわけ?



それほど痛い訳じゃないけど叩かれた衝撃で転んだように見せた。

ぽろぽろと目に溜めてた涙を流しながら頬に当てる。





周りから見たらどう思うでしょうね?









「子供に何してる!」







やっと遠巻きに見てたギルド員が心配そうに私にかけよってきた、遅いけど。

ギルド職員は受付女を宥めようとしているみたいだけど無駄。



受付女が更に私を睨んでるので周りにバレないように鼻で笑ってやる。



さあ、もっと怒れば?







「この餓鬼の言葉聞いたでしょ! 私を馬鹿にして!!」



「泣きそうになりながら謝ってただろ!」 





受付女とギルド職員の食い違う意見だけど当たり前だよね?

そう見えるようにしたんだから。







「盲魔のくせに私を馬鹿にして! “ファイアーボール”」







数個の火の玉が受付女の周りに出てきた。

無詠唱の初級魔法のファイアーボール。







「止めろ!」



「死ねぇ!」









「“フレイムバリア”」





向かってきたファイアーボールは私の前に出来た火の盾、フレイムバリアに吸収される。







「大丈夫?」



「ありがとぉ、フィアちゃん」







フレイムバリアを出したのはやはりシアン。

フィアが心配そうにしているのでにこっと笑みを作る。









「シアンくんっ、どうして!」



「どうして、とはこちらの台詞だ」









不機嫌そうなシアンの声に受付女はキッと更に私を睨む。

ふふ、私悪くないもーん。









「ほら、冷やしてろよ」







わざわざ冷やしてきたのかフリルのついたハンカチを差し出してきたアルト。

多分、フィアのなんだろうけど。



早く冷やさないと私の可愛い顔に腫れが残るわ。







「アルトくん、ありがとぉ」









アルトも私には興味ないのか笑顔でお礼言っても反応ないのよねー。



受付女?

まだ修羅場ってるけど私はもう知ーらない。







「あんな盲魔の娘なんてシアンくんの足を引っ張るだけよ!」









キンキンと甲高い声が耳に響いてうるさいわ。







「どうした?」







階段からゆっくり降りてきた男を見てギルドマスターって周りが呟いてるんだけど、やっぱギルドマスターは居たのね。

嘘だとは思ってたけど。









「ギルドマスター!」







受付女の顔が青ざめてきたけど当たり前じゃない。

居るのに居ないって言う受付女が馬鹿なのよ。







「父さん」



「何があったんだ?」









ギルドマスターは見た目三十路前半のワイルド系だけど、流石に年が離れすぎてるから無理ね。

実年齢はもう少し上って聞いたし。







「実は……」







シアンがギルドマスターに説明してるのをぼんやり聞きながら、不意にギルドマスターが私を見る。

目があった瞬間、ぞわっとしたナニカを感じた。



何?あの目?





目があったのはほんの一瞬の事なのに私の心臓はバクバクと鼓動が速い。

別にあんなオッサンに惚れるわけないけど、警戒しなければならないわ。









「お嬢さん、すまない。 うちのギルドの受付が大変な事をしてしまったみたいで」









いつの間にか受付女は居なくて、ギルドマスターが私の前に居た。

隣でシアンが心配してくれてるけどそれどころじゃないわよ。







「大丈夫ですよぉ。 シアンが守ってくれましたから」







隙を見せたらいけない気がするから気をつけなきゃ。

学園長からギルドマスターに私の話がされてるかもしれないし。



まあ、あの学園長なら大丈夫だとは思うけど、ディオ先生が居るからね。







「そうかい、シアンが友達を連れてきてよかったよ」



「それで、リルディアの登録の件は?」



「本来ならば危ないから登録はさせないが、あの学校の生徒なら大丈夫だろう。 俺と軽い模擬戦はしてもらうが」









はぁ?

模擬戦なんてやらなきゃいけないの?



別に絶対ギルド登録しなきゃいけないわけじゃないんだからやりたくないんだけど。

身分証にはなるけど。







「わざわざ父さんがしなくても……」



「まっ、任せてろ」







やりたくないけどやらされるんでしょうね。

もし、シアン達が見学するなら演技しなきゃいけないけど、どうなの?







「リル、頑張るぅ!」



「シアンは先に練習場に行ってろ。 お嬢さんは登録が終わったら連れて行くさ」







見学なしなら少しはやろうかしら?

どうせ疑ってるんでしょうしね。









「リルディア、無理するな」



「頑張ってね」







まだ少し不満そうなシアンだけど父親には逆らえないのかライア達と一緒に行った。

残ったのは私とギルドマスターと周りからの視線だけ。







「それじゃあ、俺達も行きますか。 セシルト家のお嬢さん?」









先ほど感じたナニカは今はない。

にかっと笑っているギルドマスターを見上げればにっこりと微笑む。









「よろしくお願いしまぁす」







ギルドマスターにだって私を覚らせてあげないんだから。





ギルドマスターに連れられて来た訓練所は意外と広かった。







「さて、お嬢さんの得物は?」



「リル、戦ったことないのでわかんないですぅ」









ナイフと毒だけど言うわけないじゃない。

十歳の子供が毒なんて持ってたら怪しすぎるわ。



それに、ギルドマスターは私の事を怪しんでるみたいだし。









「力はなさそうだし、軽いものの方がいいよな」







そう言うギルドマスターはウエストバッグに手を入れ、何かを探して居るみたい。

ギルドマスターが持っているウエストバッグには魔法陣が刻まれているのが見えるから空間の魔法陣なのだろう。



空間の魔法陣は高いから上流貴族やランクの高いギルド員ぐらいしか持って居ないでしょ。

ほんの少しの魔力でも使えるみたいだけど魔力のない私には関係ないわ。









「これなら大丈夫じゃないか?」







バッグから取り出されたのは短剣。

私が持ってるナイフよりは大きいけど普通の片手剣よりは小さい。







「ありがとうございますぅ!」







差し出された短剣を受け取れば他の短剣と比べて軽くてちょっとビックリしたわ。

強い魔物の素材を使ってるのね。









「よし、いつでも掛かってきていいぞ」







ただの十歳の盲魔の子供に傷を付けられるわけがないと思っているのか、短剣と同じぐらいの長さの棒を持ったままギルドマスターが言う。



私がただの子供ならね?





まあ、今はか弱い盲魔の女の子で通してみせるわ。









「えいっ!」







覚悟を決めたような表情を作りわざと声を上げながら短剣を振り上げ、ギルドマスターに突っ込む。

振り下ろされた短剣をギルドマスターは避けずに持っていた棒で受け止めた。







「そんなんじゃ駄目だぞ」



「はぁい」







受け止められるだろうが私は何度も短剣をギルドマスターに向かって振り下ろす。 



まあ、もちろん全て受け止められるけどね。





疲れたような演技をしながらギルドマスターを見ればにこにことまだ微笑んでいた。







「これで終わりかい?」



「ま、まだですよぉ!」







簡単に終わってしまったらギルドには入れないって判断されそうだけど、本当に入る必要もないからね。



どこで終わらせようかと考えていたら背筋からぞわぞわとした感覚がしてきた。









「じゃあ、今度はこちらから行くよ」









にっこりと微笑んでるギルドマスターから一気に殺気が溢れ、一瞬の内に目の前に現れた。

野球のスイングのように棒を振るってきたので当たらないように屈み、左手を床についてギルドマスターの足に蹴りを放つ。

しかし、ギルドマスターはジャンプして蹴りを避けた。



殺らなければ殺られる。



すぐに立ち上がり右手に持っていた短剣を振るうがバック転で避けられる。









「さっきより今の方がいいよ」







先ほど感じた殺気は一瞬にしてなくなった。



ラースとの特訓で殺気にすぐに反応出来るようにしていたから思わず反応しちゃったわ。

まあ、ギルドマスターを騙せるとは思ってなかったけど。







「ビックリしましたよぉ~」







短剣を下に向けふにゃりと眉を下げて怖がっている様な表情を作る。









「すまないね。 でも、十歳にしては筋もいいし、強くなりそうだ」







もう攻撃する気がないのかにこにこと笑みを浮かべながらも私に近付いてきたギルドマスター。



短剣を返そうと下に向けたままギルドマスターに差し出す。

ギルドマスターが受け取ろうと手を伸ばした瞬間、左の腰につけていたナイフを取り出しギルドマスターを切りつけた。







「油断大敵ってやつかい?」







不意をついたと思ったのにあっさりとギルドマスターの持っていた棒にナイフが止められている。







「盲魔でも貴族ですからぁ」







口元に小さな笑みを浮かべてギルドマスターを見上げた。

殺気まで向けられたのだからちょっとでも焦らせたかったけど無理みたいね。



ナイフを腰につけてるベルトにつければ今度こそ短剣をギルドマスターに渡す。

ギルドマスターは短剣を受け取るとにかっと笑い私を見た。







「ようこそ、ギルド竜騎士へ。 歓迎するよ、セシルト家のお嬢さん」



「ありがとうございますぅ!」







無事にギルド登録出来るみたいでよかったわ。

まあ、登録しなくても問題はなかったけど。







「いやー、ディオからお嬢さんが魔族ではないかって話を聞いていたが普通の人間でよかったよ」









ギルドマスターがサラッと何事もない様に言った言葉にギルドマスターを見上げる。

変わらずににこにことしているギルドマスターの表情は読めない。







「リルは人間ですよぉ?」



「そうだろうね。 魔法陣に反応なかったし」







指差した床を見れば地面が淡く光っているような感じがしている。

ふーん、魔法陣で魔族か人間か試したんだ。







「頭も良い、シアンの嫁に欲しいくらいだな」









ギルドマスターがパチンッと指を鳴らせば魔法陣の光が収まった。

シアンが帝になるならお嫁さんになってあげてもいいけどねぇ。







「父さん……、何言ってるんだ」







ギルドマスターの声が聞こえたのかシアンが呆れたような溜め息をつきながらドアから入ってきた。

やばっ、どこから聞いてたかによって変に疑われちゃうかも。







「いやー、こんなに可愛いお嬢さんだからつい」 



「あまり人に迷惑かけるな」







……普通っぽいけどその前の話聞いてなかったのかな?

聞いてないなら聞いてないでいいし。









「シアン、迎えに来てくれたのぉ?」







にっこりと笑みを浮かべながらシアンの腕にぎゅっと抱きつく。







「フィアが心配してたからな」



「そうなんだぁ」







フィアって心配性っぽいしねー。

まあ、シアンが心配してくれることなんてないか。



ギルドマスターがにこにこと笑ってるのが気になるけど。









「お嬢さんのギルドカードは作っておくから後で受付で受け取ってくれ」



「はぁい!」



「行くぞ、リルディア」







シアンの腕に抱きついたままライア達が待つ場所に歩き出した。





ギルドの練習場につけばライアとアルトが魔法の撃ち合いをしていた。

獣人であるアルトは魔法よりも体術の方が得意なのにライアと変わらないくらいに魔法を撃ってる様に見える。







「リルディアちゃん」







私を見たティアはホッとした様な笑みを浮かべながらも近付いて来た。

瞳を見れば大体考えてる事はわかるけど、ティアの瞳は本当に心配そうにしている。



……女からは敵視しかされた事ないからちょっと複雑。







「フィアちゃん」



「大丈夫だった?」



「うん、ギルドも登録出来たよぉ」







シアンの腕から手を離せばにっこりと笑みを浮かべながらフィアに告げる。

フィアは自分の事の様に嬉しそうにしてる。







「お疲れ様」



「まあ、怪我はなさそうだな」







ライアとアルトも魔法の撃ち合いを止めれば近付いて来た。

やっぱ、私って可愛いから心配されるのよねー。







「みんなに迷惑かけないように頑張るね~?」









一週間後のサバイバル演習、ちょっと楽しみかも。







 
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