上 下
1,264 / 1,278
第六章 【二つの世界】

6-491 突然

しおりを挟む







ステイビルから告げられた内容は、これまでにも同じような内容でハルナに語られていた内容だった。
だからこそハルナは、その提案に対して何も思うことは無い。むしろ、自分のことを”知ってくれている”者がいることの方が、嬉しいと感じていたくらいだった。

ハルナはその考えを告げると、ステイビルたちはホッとした表情に変わった。
エレーナがこぼしたのは、ハルナがその提案を断り、サヤのいる場所へ行くことや元の世界へと帰りたいという思いを持っていることが怖かったと言った。


「前にも言ったけど、もう元の世界に帰りたいとは思ってないの。だって、向こうの世界だって私がいない間の時間も流れているだろうし、この世界のことが好きになったの……えっ!?」



言葉の途中で、エレーナはハルナのことを力強く抱きしめた。


「え……エレーナ?」


その力は、ハルナの自力では解けない程に力が込められていた。だが、その力は決して嫌なものではなく、エレーナの意志と優しさが込められていた。


「……りがとう。ハルナ……あなたと出会えて……本当に……良かった」


その言葉に応じるように、ハルナの表情は落ち着きを順次に取り戻し、自分の胸の中で泣いているエレーナの背中をやさしく擦った。
そして、エレーナの感情はハルナによって受け止められ、次第にこの部屋の中の空気が次の流れが漂ってくる。
その空気はとても張り詰めているもので、周囲にいる者はをすること自体が厳しくなっていく。
そんな空気を発していたのは、ステイビルからだった。



「ハルナ……おまへ……ゴホン!」


「……?」


突然自分の名を呼んだステイビルは、張り詰める緊張感からか珍しく言葉を噛んでしまった。
やり直すように咳ばらいをし、二度三度と深い呼吸を繰り返した後、もう一度ハルナを見つめる。


「ハルナ……お前の気持ちを知りたい。お前は、わ……わた……わたし……を……私のことをどう思って……いるのだろうか?」

「え……えーと……それは、どういう意味ですか?ステイビルさんは、あ、もちろん素晴らしい人だと思いますし、この国の王様ですよね?それが……どうかしました?」


そう答えると、この場の空気がまた違った張り詰めた空気になり、それはエレーナがうつむきながら首を振る動作によって一瞬にしてゆるんだ。



「あのね……ハルナ。ステイビル様は……」


「――お待ちください」


エレーナがこの場の状況のことを説明しようとしたが、それはステイビルの近くにいたニーナによって遮られた。
その発言によって、この場の全員の視線はニーナに集まっていった。
ニーナはその視線を感じても動じることは無く、初めて会った西の王国を救いたいという願いを持った時のように、強い意思が込められた瞳で周囲の視線を受けても立っていた。



「ステイビル様……それではハルナ様に通じておりません。はっきりとお伝えしないと、ハルナ様には通じないとお伝えしましたよね?」


「あ、あぁ……そうだったな」


その言葉を受けた、ステイビルは自分の脚の上に乗せた手をぐっと握りしめ、再びハルナと向き合った。
そして、再び決意した目でハルナに告げた。


「ハルナ……私の妃となり、共にの国を見守って欲しい。どうだ?受け入れてくれないだろうか?」



しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!

naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』 シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。 そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─ 「うふふ、計画通りですわ♪」 いなかった。 これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である! 最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

処理中です...