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第六章 【二つの世界】
6-479 大切な存在
しおりを挟むハルナは、サヤの言葉が自分の脳で処理されて落とし込まれるまでに、ほんの僅かだが時間を要した。
その短いながらも、言葉の意味を理解するために、自分が判断できなかった箇所についてサヤに問う。
「え?……”あっち”ってどこのこと?」
「”あっち”っていうのは、もう一つのこの世界のことだよ」
「どうして!?」
「あ、うん。べつに、アンタのことを嫌いってわけじゃないんだよ。なんていうか……アタシにも助けたい奴らができたからね……アンタみたいに……、アタシだってアタシなりに世話してあげたいんだ。あいつらを」
「――あ」
ハルナは思い出した。もう一つの世界の中で、こっちの世界で戦ったこともある二人の存在を。
しかし、もう一つの世界では、まったくと言っていいほど別人だった。
ヴァスティーユとヴェスティーユは、もう一つの世界でもサヤに尽くしていたはずだった。
そしてヴァスティーユは、盾の創造者からの攻撃を受けて消えかけていたことを思い出した。
「……アタシはアイツを助けてあげたいんだ」
サヤはそう言って一つの水晶を、内側のポケットにあることを確かめる。
ハルナは、あの世界のヴァスティーユのことを思い出せるので、それはまだ消えていないということなのだろう。
「助けられる……の?」
「あぁ、実は剣のやつからそれらしい手段は聞いているんだ」
「うん、わかった……サヤちゃんはいつでも、世界を行き来できるんでしょ?なら、またいつでも会えるもんね!」
「……正直なところ、あと一回しかあの能力使えないんだ」
「……え?それじゃ……本当に会えなくなるの?」
ハルナの目には、また涙があふれ出てきた。
だが、さき程のヴァスティーユのことを思い出すと、サヤをこの世界に引き留めることをためらってしまう。
「ハルナ……アタシだって、アンタと別れるのは寂しいよ。だけど、あっちの世界も剣のやつが勝手に創ったものでその管理もお願いされているんだ。」
サヤが言うには、あっちの世界をサヤが、こっちの世界をハルナが統率してほしいとのことだった。
どちらも創造者と連携したことにより、その寿命は通常の人間種とは全く異なる量の生命力を保有することになった。
自分たちが消えた後は、二人が変わって監視をしてほしいという剣の創造者の願いだという。
「まぁ、信じるか信じないかは任せるけど……でも、アタシはあっちの世界じゃないとヴァスティーユを復活させられないんだ。こっちの世界じゃ既にいなくなっているからね。ヴァスティーユとヴェスティーユの存在が残っているのは、あっちの世界だけなんだよ。ハルナもわかるだろ?例えばこれがエレーナとかマーホンだった場合、アンタも同じ行動を取るんじゃないの?」
「……」
ハルナはサヤからそう指摘され、自分自身も絶対にその選択をするだろうということはわかっていた。
だからこそ、ハルナは強くサヤのことを止めることはできなかった。
その後少しだけ、サヤとハルナは日本にいた時の懐かしい話をして、サヤがハルナの部屋から出ていった。
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