1,078 / 1,278
第六章 【二つの世界】
6-305 あの日の出来事4
しおりを挟む「それで、そのフォールスメモリがどうしたの?」
「そうだね……まぁ、回りくどいこと言ってもアンタには伝わんないだろうから。要は、アタシがこの世界に来るときに持っていた記憶が、”それ”だった可能性があるってことを言いたかったんだよ」
「え?間違った記憶だったってこと?」
「そういうこと……だけど、アタシたちはあっちの世界にいた時、こんな世界があるなんて知らなかったじゃない?」
「うん」
「だからさ……」
そう言ってサヤは、自分がこの考えに至った原因とそれまでの思考についてハルナに説明をする。
フォールスメモリとは、いわば”なかったことがあったかのように頭が記憶している”という状態。
だがそれも、まったくの無から創りだされるものではなく、その記憶にベースとなるものがある。
例えば、『近所の公園に池があり、幼い頃自分はそこに落ちて溺れかけ、そこから水が怖くなった』という誤った記憶だったとする。
これはその時のことを自分が記憶が発達していない時期のことを知っている家族からそう告げられ、この誤った情報を与えられた人物はそれを実際には体験をしていなくても、それが起きた記憶だとして認識してしまうのが、フォールスメモリと呼ばれる記憶。
この誤った記憶の中で、”近所の公園”や”公園の中にある池”も実際に存在しているし、自身も体験から認識をしている。もしかすると、自分自身で記憶を持っている年代においても、”本当に”何度か池に落ちかけたこともあるかもしれない。
だが、実際には”池に落ちたことはない”はずなのに思い込んでしまっているのは、公園や池が確かにそこにあるために実際の事実として記憶されているからだった。
そこで、サヤの頭の中にある記憶について考えた。
”――実際に見たことのない場面や存在に対して誤った記憶として覚えていることがあるのか”ということを。
ある考え方をすれば、予知夢などの非現実的な現象とも考えられなくはない。
それとは別に、元の世界で死にかけた――実際には死んでいた――自分の身体に、何が起きたもしくは何かを”された”という考えにサヤは辿り着いた。
「……だから、一番怪しそうな奴に聞いてみるのがいいんじゃないかって思ったわけ」
「怪しそうな……ひと?」
ハルナは、これまでのサヤの話が分かったようなわからないような状態だった。
それでも、ハルナはこの話のこの先のことについて、聞くことが怖いような感じがしている。
それは、何かさらに大きなことになりそうな気がして……
そんなハルナの気持ちを他所に、サヤはさらに先に進める。
「そう。アンタもアタシも、その存在が近くにいるって話なんだよ、いま」
そう言ってサヤは背中に手を伸ばして、かけている剣の柄を握りしめた。
ハルナはまだ何が起きるかわからないため、背中にかけた盾を直接触ることはせず、それを下げている皮のベルトに手を触れた。
「で……だ。この剣のヤツは、世界を創る能力に長けているんだそうなんだよ」
「こっちの盾は……生き物を創る能力……」
「そう。だからこそ、人の頭の中を覗いて弄るなんて、簡単なことじゃないのかなって考えたんだよ」
0
お気に入りに追加
375
あなたにおすすめの小説
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

【完結】内緒で死ぬことにした 〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜
たろ
恋愛
手術をしなければ助からないと言われました。
でもわたしは利用価値のない人間。
手術代など出してもらえるわけもなく……死ぬまで努力し続ければ、いつかわたしのことを、わたしの存在を思い出してくれるでしょうか?
少しでいいから誰かに愛されてみたい、死ぬまでに一度でいいから必要とされてみたい。
生きることを諦めた女の子の話です
★異世界のゆるい設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる