1,067 / 1,278
第六章 【二つの世界】
6-294 放置
しおりを挟む「アンタは覚えてる?アタシと風香で二人でお使いに行った日のこと……」
「え?……あ、うん。覚えてるよ……確か私が習い事で、いなかった時だよね?」
そのハルナの言葉に頷いたサヤは、その先の話を始めた。
あの日、ハルナは塾によって家を不在にしていた。
そこにサヤが母親と共に、ハルナの家に訪れていた。
ハルナがいないと知ったサヤは、既に歩きだすことができた風香の面倒をハルナの母親から頼まれてみることになった。
事前にサヤが、妹か弟が欲しいと自分の母親にねだっていると聞き、ハルナの母親が気を利かせてくれていたという。
サヤは、風香と一緒にコンビニまで買い物に出かけることになった。
「……覚えてるよ。でも私はその時いなかったから、後で聞いたんだけど。風香がサヤちゃんと一緒に出掛けた時の話しでしょ?それがどうかしたの?」
「あの時のこと、どうなったか覚えてる?」
「うん……確か、サヤちゃんが風香を助けるためにお母さんを呼びに……」
「違うんだよ!!アタシは、呼びに行ったんじゃないんだ。面倒だから、その場に置いてきたんだよ」
「……え?」
そうしてサヤは、あの時は黙っていたが本当に自分がとった行動について続きを話し始めた。
手に入れたかった風香と二人だけで外に出れたことが嬉しかったサヤは、少し遠回りをしてコンビニまで出かけた。自分に妹ができたら、こんな感じだろうかと思いながら、機嫌よく手を繋いで歩いていく。
だが、風香は家から距離が離れていくことと、隣にいるあまり知らないサヤに対して不安を感じ、途中で泣き出してしまった。
泣きじゃくる風香を何とかなだめようとするサヤだったが、風香は泣き出してこの場から離れようとしない。大きな声でハルナに助けに来てもらおうと、何度も何度も姉の名前を必死に叫んでいる。
サヤはそのことが気に食わなかったのか、風香をその場に残して家に戻っていった。
「え?サヤちゃん、風香……置いていったの?で、でも何事もなく、無事に家に帰ってきたって……」
「あぁ。置いてきたんだよ……面倒臭くなってね。それに、アタシじゃ不安だったみたいで、憎たらしいアンタの名前ばっかり呼んでたんだよ……いまこうやって思い出してみても、腸が煮えくり返る思いだよ、まったく」
――ハルナはサヤの言葉が、すぐに理解できなかった
確かにあの時、風香は家に何事もなく戻ってこれた。
ハルナが家に戻ってから聞いていた話だと、迷子になったサヤが風香のことを心配して家族を呼びに行った。しかし、その直前にちょうど道の真ん中で泣きじゃくる風香を見付けてくれた近所の方が車に乗せて家まで送ってくれたということだった。
しかし、いまサヤから聞いた話は、似ているようで何かが違う。
偶然にも近所の人が異変に気付いて、無事に風香が戻ってきてくれたおかげであの頃は平穏に過ごしていくことができた。
だが今の話しが本当ならば……この話を当時に聞いていたならば、ハルナの中のサヤに対する感情は今まで抱いたことのないほどの悪い感情が生まれてきそうになっていた。
0
お気に入りに追加
375
あなたにおすすめの小説
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

【完結】内緒で死ぬことにした 〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜
たろ
恋愛
手術をしなければ助からないと言われました。
でもわたしは利用価値のない人間。
手術代など出してもらえるわけもなく……死ぬまで努力し続ければ、いつかわたしのことを、わたしの存在を思い出してくれるでしょうか?
少しでいいから誰かに愛されてみたい、死ぬまでに一度でいいから必要とされてみたい。
生きることを諦めた女の子の話です
★異世界のゆるい設定です
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する
影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。
※残酷な描写は予告なく出てきます。
※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。
※106話完結。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる