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第六章 【二つの世界】
6-284 消去
しおりを挟む「――あっ!?」
真っ白に染まった景色が徐々に薄れていき、目の前に森の中にいると思われる景色が広がる。
あの空間に入れられた時は”意識”だけの存在だったが、今は腕や顔に感じる空気の流れと温度を肌に感じる。
次第に目が慣れていき、辺りの景色がはっきりと見えてきた。
「……こ、ここは?」
ハルナはこの景色に見覚えがあり、そのそびえる岩肌の上に目をやると、崖の途中で穴が開いているのが判る。
「あれ?ここって確か……爆風で吹き飛んだ……あ、そうか。ここはもう、もう一つの世界なんだ」
ハルナはもう一つの世界に対しても、何の違和感を感じない。
それよりも無事にこの場所に来ることができたことへにほっととしていた。
『ハルナ、気を付けてください。あの者たちがどこにいるかわかりません、この辺りに生息している野生の動物ならば問題ないですが……』
その声は背中に背負った盾から、頭の中に直接聞こえてくる。
ハルナは、直接自分の頭の中に話しかけられている相手に、どうやって返事をしようか考えていたその時……草むらの影から群れを成した狼が現れた。
――フゥグルルルルルルルル!
現れた狼は、以前のように草むらの中から獲物に向かって奇襲をかけるわけでもなく、突然縄張りに現れたハルナに威嚇をしていた。
その様子は身を低く構え牙をむき出しにし、縄張りを荒そうとする侵入者に対して最大限の威嚇をする。
ハルナはふと、狼の後ろに別な狼の存在に気付いた。
もう一匹、先頭に立つ狼と同じくらいの体格で、後ろに小さな狼を三匹ほど庇っている狼の姿があった。
ハルナは、あの時とったエレーナの対応を思い出す。
襲い掛かってきた狼たちの戦闘力と行動力を無効化し、狼たちに威圧的に接してどちらの立場が上なのかということを判らせていた。
それを相手に理解させると、無意味な殺生を避け、全ての拘束を解放して森へと帰した。
(――よし!)
ハルナはあの時のエレーナの行動を参考にしながら、精霊の力で威嚇しようとする狼の行動を制限させようとした。
後ろにいる母と子の狼は、こちらに向かってこないように風の壁で制限しておいた方がよいかもしれないと、ハルナは少し離れた距離で威嚇する狼が襲い掛かったタイミングが行動開始の合図と決めた。
だが、そこで盾から再び声が頭の中に響いた。
『……何をしているのですか?』
「え?狼たちをこの場から離れさせようと……」
『そんなことしている暇はありません。こんな小さな生き物、私が対応してあげます』
「ちょっと!?」
ハルナは、思わず声をあげてしまった。
盾の創造者が”対応する”と言った途端に、先ほどまで威嚇していた狼が姿を消して……消されてしまった。
「創造者さん、狼をどうしたんですか!?」
『……?”どうした”ですか?邪魔なので、消して差し上げたのですが?』
「”消した”……って?あの子供と母親がかわいそうじゃないですか!?今すぐ元に戻してください、それで狼は驚いて……」
『一度消した生き物は、戻りませんよ?新しく造り出すことはできますが……全く同じものは造れません。それに、大した情報量ではなかったですから、あの生き物はそんなに重要な存在ではないかと』
ハルナは、盾の創造者が語る緩やかな言葉が、感情のこもっていない冷たい氷として、頭の中に突き刺さっていく感覚がした。
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