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第六章 【二つの世界】
6-265 最終日の夜に
しおりを挟むキャンプのような野営は、二泊三日行われた。
その間に、ステイビルたちは周囲の森を探索し、手元にある地図の情報を確認し、必要に応じて更新していく。
貴重な草花の群生地、野生動物たちの分布、旅人たちの水場の位置など一つずつ、その場所に足を運んで手分けをして確認していった。
その箇所はふたつのチームに分かれて手分けをしても、ほとんど日中を費やしてしまうほどの範囲だった。
そのおかげもあって、ハルナたちは余計な不安をそれぞれの頭の中から掻き消して、作業に集中することができた。
楽しいとも思われる時間は過ぎていく……
ハルナたちは今回のやるべきことを終え、いよいよ最後の晩を迎える。
ここから王都までは、馬車で半日もかからない距離。
不必要な荷物を減らすためにも、今夜はアルベルトとソフィーネが腕によりをかけて食事の用意をした。
エレーナは当然のごとく、最終日に楽しもうと用意していた高級酒を取り出し、精霊の力で美味しく冷やしておいた。
ニーナも初めのうちは遠慮しているような対応だったが、ステイビルと同じチームだったおかげで普通に話しかけるほどにまでの仲になった。
ソフィーネに仕事を教えてもらいながらも、なんとかステイビルたちの役に立ちたいという気力が、ニーナをここまで回復させていた。
美味しい食事とお酒が加わり、楽しい時間は加速度的に過ぎていく……そして、この時間も終わりを迎えることになった。
片付けが終った後、まずは最初のたき火の当番はハルナが見ることになっていた。
全員に回ってくるため、他の者たちは睡眠のためにテントへと入っていった。
テントの中に入り目をつぶったステイビルは、テントの外に耳を澄ます。
時折吹く風が草木を揺らす音と、たき火の中にいれた枝が爆ぜる音がパチパチと聞こえる。
その中にハルナの存在を探そうとするが、その他の音によって遮られてしまっていた。
本来なら、睡眠をとるが今の自分に与えられた”仕事”であるはずだが、気持ちが落ち着かずに眠ることなどできるはずもなかった。もしかすると明日には、この世界が終ってしまうかもしれない……それどころか、一度眠ってしまえば次に目覚める保証はどこにもない。
そんなどうしようもできない不安が頭の中をグルグルと回り、その中心にはハルナへの想いが存在していた。
ステイビルは物音を立てずにゆっくりとテントを出ていく……ハルナの元に向かって。
たき火の先に目をやると、ハルナ以外の人の影がそこには見えた。
……エレーナだった。
ステイビルは最後にハルナとゆっくりと話をしたかったのだが、エレーナに先を越されてしまっていた。
だが、エレーナの気持ちも判らないわけではない。
エレーナは、この世界で一番最初にハルナと出会い、今まで家族のように一緒に暮らしてきた。
友人でもあり家族でもあるハルナと、もう二度と会えないかもしれない……
そんな思いが、エレーナの心中にもあったのだろう。
「……ステイビル様」
そんなことを考えていると、後ろから静かに声をかけてくるものがいた。
ニーナだった。
ニーナは、ステイビルに対して優しく微笑み手を差し出した。
「あぁ……」
ステイビルは、ニーナが言おうとしていることを理解し、その手を握る。
そして二人は、ハルナとエレーナの時間を邪魔しないようにと、それぞれのテントの中へと戻っていった。
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