1,003 / 1,278
第六章 【二つの世界】
6-230 何かの間違い
しおりを挟む「そんなことが……」
ハルナの隣でエレーナの聞いていたマーホンは、グラキアラムで起きた話をエレーナから聞かされたあと、思わず感情が言葉になって口から漏れていた。
同じくハルナも、マーホンと同様の感情を抱いていた。さらには、今の自分のことを知っているエレーナがその場所で、そのことを話せずにいた苦労も感じ取っていた。
先ほどのハルナのステイビルに対して、軽い気持ちで行った質問も、エレーナの心情を考えれば軽率とも言える言葉だったと反省する。
「ごめんなさい……多分、私のせいなのよね……きっと」
「そ、そんなことないわよ!?ハルナだって、突然こんな状況になって辛いんだろうし……」
これまでのハルナが言ったことが本当のことではなく、”何かの間違い”だったらと思うこともこの短い期間で度々あった。
ハルナが本気でステイビルのことを愛していれば、この問題も少し楽になっていたのかもしれない。
少なくとも今のハルナには、ステイビルに対して全くそんな気がなかった。
あの質問も、ステイビルのことを心配して……いや、心配はしていたが、ステイビルが期待するところとは全く別な感情からきた質問だったのだろう。
……しかし、それ以上考えてしまうのはハルナを疑ってしまうことにもなるし、今考えても仕方のないことだと浮かぶたびにその考えを切り捨てる努力をしていた。
ハルナは自分のことを打ち明けてから、色々と悩んでくれているエレーナに申し訳なく思う気持ちが強くなる。
それに、自分にはそこまでの思い入れはないが、ニーナは身体を壊してしまうほど思い詰めていた。
そのことも、ハルナの気持ちを更に重くしいった。
「ニーナさん……ステイビルさんのこと……そこまで」
「ちょっと、ハルナ!?あなた、いま変なこと考えていないでしょうね!?」
ハルナの性格からして、こういう場合は自分の立場をニーナに譲ることを平気で考えているだろうと考えたその推測が間違っていないことは、ハルナの態度から見てとれた。
「え?やっぱり、わかる?」
「わかるわよ……そんなの。アンタとどのくらい一緒にいると思ってるのよ!?……あ!申し訳ございません!?私なんて言葉遣いを」
「いいのよ、エレーナ!?ここには昔の仲間しかいないんだから……それにエレーナやマーホンさんたちからそんな風に呼ばれると……なんかこう、背中がムズムズするのよ……」
「ですが、何度も申し上げておりますが、きっちりとして頂く癖を付けていただけませんと、貴族たちから甘く見られてしますのです。ですから……」
「あーごめんなさい、そうでしたね。マーホンさん……気を付けます」
ハルナの言葉に、マーホンは満足そうに頷いて見せる。
「だけど……このままじゃ、良くないわよね。ずっと、ステイビルさん騙しているみたいで」
「そうね……私も、そう思っていたのよ」
いまハルナが口にしたことは、エレーナがここ数日で感じている心の痛みの原因の一つでもあった。
ステイビルが今からハルナに伝えようとしていることは、結局その問題を解決しないと先に進まないことでもあった。
「それじゃ……いく?ステイビルさんのところへ」
「えぇ、行きましょうか」
ハルナとエレーナとマーホンは、ステイビルの部屋へと向かっていった。
0
お気に入りに追加
375
あなたにおすすめの小説
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

【完結】内緒で死ぬことにした 〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜
たろ
恋愛
手術をしなければ助からないと言われました。
でもわたしは利用価値のない人間。
手術代など出してもらえるわけもなく……死ぬまで努力し続ければ、いつかわたしのことを、わたしの存在を思い出してくれるでしょうか?
少しでいいから誰かに愛されてみたい、死ぬまでに一度でいいから必要とされてみたい。
生きることを諦めた女の子の話です
★異世界のゆるい設定です
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる