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第六章 【二つの世界】
6-214 痛み
しおりを挟むハルナは自分自身、幼いころから恋愛などまるで興味がなかった。
幼少期の頃、周りの友達が将来の夢で”花嫁”と挙げていたが、ハルナは全くそんなことを思いもしなかった。
青年期の頃には、学年の中で人気のあった男性から告白を受けた時、周りの一部の女性陣から嫌がらせを受けたことも、恋愛というものに対してハルナの印象は悪くなっていった。
それと同時に、仲の良い異性の友達が何とかしてハルナを”自分の物”にしようとしていることが、息苦しくなり距離を取り始めていき、ゲームを始めたのもこの頃からだった。
お店で働き始めて客から色々と誘われた時、他のお姉様たちからは、『うまく利用しないとダメよ?』とは言われていた。
だが、フユミだけはハルナの気持ちを尊重して『自分の気持ちを大切にしなさい』と、アドバイスをしてくれて心が楽になったことを覚えている。
それほど、ハルナは恋愛に対して興味がないだけでなく、自分自身にそんな”価値”があるとも思っていなかった。
だからこそ、いま自分を巡り、自分の知らないところで起きている”騒動”に対し、どのように接するべきかハルナの思考の許容範囲を超えていた。
――コンコン
その時、扉の向こうから入室の許可を求める音が聞こえてくる。
その音に対してソフィーネは、なんの警戒もなく扉に近づき、外で待つ者に入室を促す。
扉が開かれると、そこには下腹部の前で両手を重ね、深々とお辞儀をする。
ゆっくりと身体を起こし、上品な笑顔でハルナに対して挨拶の言葉を口にする。
「おはようございます、ハルナ様。本日も、よろしくお願い致します」
「ま、マーホンさん!?」
ハルナは今までに見たことのない、マーホンのうやうやしい動作に驚いてしまった。
「……どうされたのですか、ハルナ様?」
マーホンの言葉に、先ほどまで説明してくれたエレーナの話を思い出した。
それと同時に、マーホンはおかしな気配を感じ取り、スッと部屋に入り静かに辺りに人がいないことを確認して扉を閉める。
「どうされたのですか?どこか具合がよくないのですか?」
扉を閉めることによって、プライベートな空間となったためか、マーホンは先ほどよりも力の抜けた感じでハルナに接した。
どう対応するべきか困惑するハルナの姿を見て、この場をうまく収めるためにエレーナが代わりに応えた。
「マーホンさん。実は……」]
「……」
マーホンは、エレーナからハルナの今の”状態”を説明する。
併せて、ハルナが知らなった期間の間に何が起きたのかも説明をしたことも告げる。
「ま、マーホン……さん?」
黙り込んだマーホンに対して、ハルナは恐る恐る声を掛けてみる。
怒っているのではないかという感じがしているが、マーホンのこのような姿を今まで見たことがないため、余計に怖さを感じてしまっていた。
マーホンはハルナに声を掛けられても、少しだけ目をつぶって考え込んでいた。
「……ふぅ」
そうして、一息だけ息を吐き、目を開けてハルナの顔を見る。
(あ、これ……もしかして嫌われたのかも)
ハルナはそう思うと、胸の奥が一度だけズキンと痛んだ。
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