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第六章 【二つの世界】
6-199 違和感9
しおりを挟む「う……」
キャスメルはゆっくりと目を開けると、森ではないどこかにいることに気付いた。
どうして自分がこんなところにいるのか、途切れた記憶を思いだそうとしたとき、聞き覚えのある女性の声が聞こえてきた。
「ご気分はいかがですか?キャスメル様」
「あ、はい。何とか……ここに運んでくれたのは、もしかして」
「はい、私たちがおつれさせていただきました。それよりも今は、こちらをどうぞ」
アーリスはそう言って、手にしたトレーをベットの上で上半身を起こしたままのキャスメルの伸ばした膝の上に置いた。
「どうぞ、お召し上がりください。大したものがご用意できまく申し訳ございませんが、今のキャスメル様のお身体にちょうど良いものだと思います」
「ありがとうございます……それでは遠慮なく」
「はい、どうぞごゆっくりお召し上がり……」
「あ!待って!?」
「……?」
トレーを置いてその場から立ち上がろうとしたアーリスを、キャスメルは急いで引き留めた。
呼び止められたアーリスは、不思議そうにキャスメルの方を改めて向いた。
アーリスはゆっくりと食事を摂ってもらおうと、この場から離れようとした。
しかしキャスメルは、アーリスに対してこの場に残っててほしいと告げた。
理由はよくわからなかったが、アーリスはとりあえずキャスメルの望み通りにこの部屋に残り、キャスメルが食事を摂る姿を見届けていた。
器の中身が空になったことを確認し、アーリスはトレーを持ち近くのテーブルへ置く。
そして、キャスメルにもう少し横になるように勧め、キャスメルも素直にそれに応じた。
「近くにおりますので、何かありましたいつでも及びくださいませ」
「あぁ、ありがとう」
その言葉を聞き、アーリスは静かに扉を閉めて退室した。
食事もキャスメルの感情も落ち着いた頃を見計らい、アーリスはボーキン、エルメトと一緒にキャスメルの部屋を訪れる。
キャスメルはアーリスの後ろに続く人物の姿を見て、何かを察して顔から表情が消えて下に目を伏せた。
そして、キャスメルにまず声をかけたのは、この中で一番年長のボーキンだった。
「このような場所にご来訪いただき、誠にありがとうございますキャスメル様」
その挨拶にも、キャスメルは顔を上げずに下にうつむいたままだった。
キャスメルの反応は、久しぶりの面会したボーキンとエルメトにとってその反応は前回見た一国の王子がとっていた態度とは異なるものだった。
(……?)
疑問に感じたボーキンは、キャスメルに対し自分が持ち合わせている情報とあわせて問い質した。
「キャスメル様。この度の王選……誠に残念でございました。さらにその後の”投票”につきましても……心中お察しいたします」
その言葉を聞き、キャスメルの身体がわずかに強張ったことをボーキンは見逃さない。
だが、これ以上その話題でキャスメルの心を傷つけてしまうのは良くないと判断し、その話題は一旦うちきる。
そしてエルメトもそのボーキンの気配を感じ、すぐに別な手をキャスメルに差し伸べた。
「キャスメル様もこの山越え、大変お疲れでございましょう。もしよろしければ、後日カステオ様のところへご案内いたしますが、いかがでしょうか?」
キャスメルはエルメトからの提案に承諾の意図を返し、そこから当たり障りのない話題でキャスメルの心を三人で解した。
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