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第六章 【二つの世界】
6-189 責任
しおりを挟むこの部屋に集まっている者たちの顔には、表情が抜け落ちている者が多い。
メイヤだけは、ハッキリとした怒りを含ませた視線を、ハルナに向けて放っていた。
その視線を受けるハルナは何も返えせず、この状況が起きてしまった責任に押しつぶされそうになっていた。
「ハルナさん……あなたが悪いわけではないわ?そんなに気にしないで」
この世界のエレーナは、ハルナのことを知らなくてもやさしい声をかけてくれた。
だが、生まれて間もない我が子を奪われた切っ掛けとなったのはハルナのせいではないが、その友人であることは間違いなかった。
ハルナがサヤと別れると、騎士団たちはエレーナの屋敷から撤退していった。
その際に、エレーナとアルベルトと対峙していたガレムも一緒に姿を消した。
ハルナの話によると、サヤはハルナと急にハルナと敵対すると告げたという。
その理由を聞いても、サヤは答えてはくれなかった
だが、その状況を説明してもメイヤはハルナのことを信用をしてはくれなかった。
「よくもそんなことを!?ミレイ様が攫われて……いま、エレーナ様がどんなお気持ちか」
「メイヤ、そこまでにしなさい。この方がおっしゃられているのは、本当のことですよ」
「で、ですが!?」
「メイヤ……少し落ち着け。お前の言いたいことも充分に判っているつもりだ。エレーナも……な」
ステイビルからの言葉にメイヤも、感情的になりすぎていたことを反省はする。
しかし、それで目の前にいるこの状況を作り出したと思われる人物に対して、信用しろと言われてもメイヤはできないでいた。
「確かに……我々はガレム隊との抗戦で足止めをされていました。ですが、ハルナ様がサヤ様……いえ、サヤを探しに行っていたというのは、あの場面では正しい判断だと思われます」
「しかし……だな。私もあの者の思惑を見抜けなかったというのは、私の責任だ。メイヤ……責めるならば私を責めるがいい」
「そんな……ステイビル様を責めるなど!?」
「だがな、メイヤ。私は、この方たちに助けられたのは事実だ。こうしても神々の助力を得られているのは、この方たちのおかけなのだ。これが計略の結果だとしても、それを見抜けなかったのは私の責任なのだ」
『メイヤとやら……ステイビルの言ったことは、間違ってはおらん。お前がこの方を責めるのであれば、それに協力をしたワシにもその責任はある』
「モイス様まで……そんな」
メイヤはステイビルとモイスが庇うハルナとサヤを、自身の感情の中でどう扱うべきか迷っていた。
落ち着いて考えてみると、ハルナのこの反応は”演技”ではなく本当に何も知らなかったようであるとも取れる。
メイヤの気持ちを汲んだエレーナは、何とかこの場を収めようとした。
「……と、とにかく。ミレイを連れ去ったとしても、それはこちらへの交渉材料としての行動だろうから、すぐに”どうこう”することはないと思うの。もしそうなったら……でも、この状態をどう変えていくことかがこれからにとって重要ね?」
「あぁ、エレーナの言う通りだ。とにかく、これからどうするべきかすぐに検討をしよう……ひとまず休憩をはさんで、今後の計画を話し合うぞ」
「「――はい!」」
こうして一旦この場は収まり、それぞれは一度各自の部屋へ戻って落ち着くことにした。
ハルナは、与えられた部屋に戻ると、ベットに腰かけそのまま横になる。
隣のベットにいたサヤの行方を気にしながら、ハルナはそのまま目を閉じた。
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