上 下
959 / 1,278
第六章 【二つの世界】

6-186 質問

しおりを挟む










「いま、好きな人っているの?」



「……はぁ?」



「え?サヤちゃん……いま好きな人っているのか……って」


「アンタの声は聞こえてるんだよ!アタシがアンタに聞きたいの、アンタの頭の中が大丈夫かってことよ!?」



「ご、ごめん……」


「ったく、アンタは気楽でいいね」


「何か……あったの?」


「!?……いや、なんでもないんだけどさ。それよりもハルナ、アンタ元の世界に帰りたい?」


「元の世界……んーどっちの?東京?それともこの世界の前の方?」


自分でそう言っておきながら、ハルナの中でサヤからの質問の答えは、昔ほど迷わなかった。
だけど、少しでも自分が知らない可能性とその方法があるのなら、聞いておきたいと思いハルナはサヤに質問で返した。


「ここがどこだか判らないのに、そんなことできると思ってんの!?後者よ、後者」


「あ、やっぱり……」


「で、どうなの?戻りたい?このままこの世界に残る?」


「んー……わからない。でも、どうして急にそんなことを?」


「別に……ちょっと思っただけ。でも、もし”そうなった時にどうするか?”ってのは、考えておくのは必要だろ?」


「ま、まぁね。だったら、いまは”本当”のエレーナの元へ帰りたいかな」


「ま、そうだよね。アタシだって、もしあの町に戻れたとして……生きているかわからないし」



ハルナの頭に、あることを思い出した。
サヤはハルナよりもずっと、気が遠くなるほどの時間をずっと自分のことを知る者がいない世界で過ごしてきたということを。
その時間は、元いた世界……不慮の事故によって失われてしまった身体で過ごしていた時間よりも永い時間を過ごしてきた。
そう考えれば、こちらの世界の”自分”の方が本物の自分であるというふうに認識しているだろう。


実際にハルナも、この世界に慣れてきており、元にいた世界のことなど思い出すことも無くなってきた。
あんなに一緒に過ごして、かわいがっていた妹の存在すら、努力やきっかけがないと思い返すこともなくない。
それだけこの世界で起きていることの衝撃の大きさが、自分の中身を変えていったのかもしれないとハルナは考えていた。



「で、なんなの?さっきの質問は……さ?」


「うん……この世界に来てさ。好きになった人っているのかなって、そう思っただけなんだけど?」



その言葉にサヤは、腕を組んで目を閉じながら考える動作をする。



「うーん……好きな人っていう定義があいまいなんだけど、恋愛対象っていうならいないな。だけどさ、アンタ考えたことないの?」

「……え?なにを?」


サヤは、あっけにとられるハルナの表情に呆れて肩をすくませる。



「何を……って。アタシたちは違う世界から来たんだよ?この世界の生き物と違うことがあるとか考えてたことないの!?」



「あ……確かに」


「食事や生活様式とか似てるところがあるけどさ、全くウチらと同じ遺伝子の構造をしてないかもしれないじゃない?だとしたら、子供ができるかもわからないしいつまでアタシたちは生きていけるか判らないのにさ、迂闊なことできないじゃない!?」


そのサヤの説明に、ハルナは納得することが多かった。
婚姻という制度はこの世界にもあるが、実際に交わった際に何が起きるのか誰も判らない。



ハルナは自分の存在がこの世界のものではないと再認識し、浮かれていた自分の気持ちが沈んでいくのを感じていた。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...