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第六章 【二つの世界】
6-162 見覚えのある者8
しおりを挟む「いってらっしゃいませ、ステイビル様。お気をつけて」
「あぁ、ナルメルいってくる。その間何かあった場合は、よろしく頼むぞ」
「お任せを……」
ナルメルは胸に手を当てて、頭を下げる。
それを見ていた両脇にいるエルフたちも、ナルメルと同時に同じ姿勢をとる。
「……それじゃ、準備はいい?」
ハルナの問い掛けに、ステイビルは頷く。
「よし、いくよ!!」
その返事を聞いたサヤが、出発の号令を出す。
「―――きゃぁっ!?」
サヤの号令によって、モイスと土の大竜神であるクランプの翼が大きく開かれた。
その動きによって、ハルナと一緒に背中にいたメイヤはよろけてクランプの背中か落ちてしまいそうになる。
「大丈夫ですか、メイヤさん?」
自分の腰に手をかけた手がギュッと力が入るが、それでもハルナは我慢をして後ろのメイヤに気を使った。
高度が上昇するにつれ、ハルナの腰に回した手が締め付けられて外界を見ないように顔を背中に押し付けられている。
「ちょ……ちょっと!メイヤさん……く、苦しい……」
その言葉に対し、メイヤはハルナの背中に顔を押し付けたまま”ごめんなさい!?”と告げて少しだけ締め付ける力を緩めた。
それでも恐怖という感情からくる力は、通常の以上のものでハルナの腹部を締め付けている。
モイスとクランプは飛行高度まで上昇し、そのまま前屈みになって羽を広げたまま固定し滑空しながら速度を上げていった。
「――きゃああああ!!!!」
ハルナの背中から、嘘偽りのない本気の叫び声が聞こえてきた。
落とされることはないし、落ちたとしても竜たちはその身をやさしく拾ってくれた。
ハルナはこの瞬間が、たまらなく好きだった。イベントパークなどでは絶叫マシンには好んで乗車し、妹の風香を誘っていた。妹は反対に絶叫マシンが嫌いで、この時だけは本気でハルナに反抗をしていたことを思い出す。
メイヤの反応が、妹のそれと同じだった……
「……お疲れ様、エレーナ」
「すっごい痛かったんだけど……でも、ほっとしたわよ……ねぇ?」
そう言ってエレーナは首を横に向ける。
アルベルトとエレーナは、エレーナの隣に眠る生まれたばかりの女の子をみて安心する。
この世に生まれた新しい生命が無事に誕生した喜びと、二人の結晶ともいえる存在の喜びの余波に浸っていた。
先ほどまで手伝いをしてくれたメイドは、表情を変えずただ出産に使用した道具を片付けているだけだった。それどころか、二人のこの先の行動に対して警戒しているようにも思える。
だが、いま二人にとってはそんなことはどうでも良かった。
無事に……元気に我が子が誕生したこと、それだけが監視されている状況下でも唯一の救いだった。
(あぁ、メイヤ……あなたにも見せたかった、この子の誕生を。そして一緒に祝って欲しかった……)
片付けが終ると、メイドたちは一旦部屋を出ていくことをエレーナに告げる。
その理由として、家族だけでの時間を過ごしてほしいという理由を告げて。
こうしてこの部屋に、アルベルト、エレーナ、そして生まれたばかりの我が子とだけの時間が流れていく。
それも長くは続かなかった。
――コンコン
この部屋に訪れた者が、扉を叩き合図を送った。
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