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第六章 【二つの世界】
6-155 見覚えのある者1
しおりを挟む――コンコン
朝早くステイビルの部屋の扉を叩く音がした。
ステイビルの覚醒は早く、すぐにそのノックに反応をする。
「どうした?何か起こったのか!?」
ステイビルの声に反応し、ドアは入室の許可を得ることなく開かれた。
その行為自体は何の問題もない、これはステイビルからの要望だった。
緊急時には、入室の許可なく入って良いということを。
その際に、周りの者からは防衛面や礼節の面からその”命令”は受けられないと反対された。
だが、ステイビルは、そこまでしたくないということで、”緊急時だけはノックして入室する”ことだけは受け入れてもらった。
「ステイビル様、申し訳ありません!」
「どうした?何かあったのか?敵襲か!?」
ステイビルはベットの上で上半身だけを起こし、ガウンに袖を通しつつすぐ手の届くいつもの位置に剣があることを確認する。
「いえ、そうではありません。この村にやってきた人間の女性がおりまして、ステイビル様にお伝えしたいことがあると」
「ん?私の知っている者か?」
「その者の名は”メイヤ”と言っておりましたが、ご存じですか?」
「メイヤ……あぁ、”スプレイズ家”のメイドのか」
「はい。ですが……かなり衰弱している様子で」
呼びに来てくれたドワーフの女性が言うには、その衣服はボロボロの状態で衰弱もかなりの栄養と水分不足により衰弱しきっているとのことだった。
サナがヒールをかけてはくれたが、回復したのはほんのわずかな体力だけで、最悪な状態をギリギリ抜けただけとのことだった。
ステイビル早足で歩きながら、急いで衣服を身に付け露出している肌を隠していく。
そして腰に剣を下げるまで、一分以内に支度をしてメイヤが休んでいる部屋へ向かう。
それと同時に、ドワーフの女性にハルナとサヤ、ルーシーも呼んできてもらうようにお願いをした。
ドアを開けると、エルフが独特の草の香りのする枯草を燃しており、この部屋の中に充満している。
ステイビルもその煙を鼻腔に入れると、その香りから気持ちが落ち着いてくる。
これは病症に効果のあるブレンドだとのことで、よく気持ちと身体を休めて回復を高めるとのことだった。
「おわっ!?……なにこの煙!ヤバいやつじゃないのこれ!?」
「ちょっとサヤちゃん……そんなわけないじゃない!これはきっとエルフさんたちの特別な何かなのよ。こんなにいい香りじゃない」
「アタシ、ダメなんだよねこれ”系”は。それで、ステイビル……この人がどうしたっていうの?」
サヤは今にも息が止まりそうにベットの上で横になっている女性に目線をやる。
「あ、メ……っと」
ハルナは思わず、目の前にいる女性の名前を口にしかけたが、急いで口を紡ぐ。
この世界では初めて会う人物の名を口にすることは、いろんな問題があると学習したためだった。
そして急いで、今の出来事を取り消すかのように一つ咳ばらいをして何事もなかったように装う。
「ん゛んっ……ステイビルさん、こ、この方は?」
「この者は、”メイヤ”と言ってフリーマス家のメイドです」
そう紹介されるが、ハルナには自分の知るメイヤとの姿に違和感を覚えていた。
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